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レビュー

“日本の中”から起きるテロ。リアルなスパイ小説!!

 この国のメディアで「親日外国人」枠が生まれたのはいつからだろうか。日本の伝統を必要以上に褒めたたえ、中国なり韓国なりをこき下ろす。日本人が言うとケレン味のある意見も、外国人が喋ると客観的な装いをまとうせいか、親日外国人たちは保守派の媒体を中心に引っ張りダコだ。外国人観光客に日本を褒めさせたり、「親日」をキーワードに他国を紹介するテレビ番組も多い。イギリスのある旅行ガイドには、訪日中は日本の感想をしばしば尋ねられるが、「日本はいい国だ」とだけ答えろ、という注意書きもあるという。日本人がそう問うのは自国の客観的な評価を知りたいからではなく、根拠がなくても褒められたいから、安心したいがゆえにすぎない。
 日本に露骨な好意を示す「外人」(以下、『猟犬の旗』の主人公にならい、あえてこう書く)が好まれるのはなぜか。それは、外人は本質的に不安なヨソ者であるという心理の裏返しかもしれない。日本の国力が落ちて社会が貧乏臭くなり、世界水準で見ればそこまで立派な国でもなくなったのに、いまなお日本人はやけにプライドが高くて心配性で閉鎖的だ。
 日本語が上手なペルー人の主人公・パトリシオ(おそらく偽名で、この名も記号にすぎない)は、そんな日本で働かされる外人スパイの一人である。「何事もない」「平和」な日本社会を維持するため、ある情報機関によって使役される猟犬だ。いくら日本語が上手であろうと、彼が短歌や源氏物語や畳の文化に造詣が深かろうと、この国において外人はどこか溶け込めない。いっぽうで、日本人が手を下すには問題がありそうな「濡れ仕事」(要するに殺人である)や賃金が安い労働は外人にばかり丸投げされる。そんな日本社会にうんざりしながらも働くパトリシオは、休暇を取ったある日、奇妙な指令を受ける。
 数百人のシリア難民が関西国際空港に向かっている。彼らは難民問題をアピールする運動を予定しているが、それに付随して正体不明のテロが計画されている。ゆえにパトリシオの任務はテロの阻止だ。しかし、所属する組織の他の構成員にバックアップを求めてはならず、スマートフォンの使用も厳禁とする——。首を傾げて空港に向かった彼は、そこで太った中年の白人女性がいきなりサブマシンガンを乱射する光景に出合う。かろうじて彼女の仲間だけはその場で始末して空港を脱出したパトリシオと、さらなるテロ継続のために姿を消した女性。銃器の扱いと逃走の手口から見て、彼女はプロ中のプロだった。
 やがてパトリシオの任務は、彼女の抹殺へと切り替わる。空港からの脱出中に拾ったシリア難民の少女と奇妙な共同生活を送りながら、憎たらしい日本人上司の命令に従い猟犬は動き出す。だが、やがて夜の新宿駅で再び大規模な乱射テロが起きる。敵の狙いは何か。政府の転覆か経済の混乱か、それとも狂信的な宗教イデオロギーか——。やがて登場人物の一人がこんな言葉を漏らす。
「外国人の反乱か。いいな。確かに現状はそういう感じになりつつある」
 現実の世界でも、イギリスのコンサート会場で、アメリカの学校で、テロは頻発している。五月下旬から、日本の隣国・フィリピンのミンダナオ島ではIS(イスラム国)勢力と政府軍の内戦が激化するようになった。本作において「平和」な日本は、空港もターミナル駅もテロに対して笑ってしまうほどの脆弱さを見せつけるが、これはフィクションとしてすませることはできないだろう。
 仕事人としてのプライドと外人としての不満が交錯するパトリシオの独白体が、テンポのよい文章を紡ぎ出す。もしもある日、「親日外国人」や「日本を褒める外国人」たちがその安易な役割に甘んじずに反乱を起こしたら、私たちはなにを思えばいいのだろうか? そんな想像も抱かせてしまう快作だ。


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