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レビュー

7年前と類似の幼女殺人事件――。これは模倣犯か、それとも冤罪の証なのか。驚きの結末が待つ『冤罪犯』

【カドブンレビュー】

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(評者:伊奈利)

平成29年7月の夜、千葉県船橋市米ヶ崎こめがさき町内の休耕地で5歳の少女の扼殺遺体が発見される。船橋市夏見の自宅近くの児童公園で、夕刻までひとりで遊んでいた姿を目撃されてから、約2時間後のことだった。船橋署刑事課の巡査部長・香山こうやまは、部下の三宅巡査長や増岡巡査らとともに捜査を開始するが、彼らはその手口を知るほどに、過去に起きたある事件を想起する。

田宮事件。平成22年初夏、千葉県内で二人の子供が犠牲となった連続幼女誘拐殺人事件。犯人として逮捕された青年・田宮龍司は犯行を否認したが、勾留期限が切れる間際に発見された証拠が決定打となり自供。裁判は一審・二審ともに死刑。田宮は控訴を申し立てながらも、拘置支所内で自殺した。

これは、田宮事件の模倣なのか。それとも、あの事件には田宮ではない別の真犯人がいて、再び動き出したのか。すると、田宮は冤罪だったのか――。香山たちは上層部から禁じられながらも、現行の事件捜査と同時に、ひそかに田宮事件の再捜査を進めてゆく。

7年という歳月は生々しい。現場がそのまま残っている可能性が高く、関係者たちもほとんどが存命している。警察関係者たちや事件の加害者、被害者、目撃者たちが、記憶をたどり、言葉にしてゆく心の動きが読んでいてリアルに伝わってくる。7年前は決して遠い過去のものではない。人はその頃の出来事をけっこう覚えているものだ。

現場周辺を一軒一軒しらみ潰しに訪問し、目撃者を捜す地取り。被害者やその周辺の人々から事件の要因を探る鑑取り、過去の捜査記録の総ざらい。香山たちの行う捜査は地道だ。捜査が進むほど、二つの事件は重なってゆき、過去の事件が新たな視点を得て息を吹きかえす。その過程はまるで幽霊を見るようで、ゾクゾクした気分になる。派手さはないが、渋めのミステリ好きにはたまらない感触だと思う。

やがて香山たちは事件の様相をひっくりかえす重要な物証にたどり着き、複雑な展開をみた事件は、一つの結末へと収れんしてゆく。物語は、つねに無実である人を犯罪者として扱ってしまうことへの恐れを抱きつつ、事件と向き合う刑事たちの矜持と苦悩、解決を願う彼らの本懐を描き尽くす。人情味あふれる警察小説ではないだろうか。


ご購入&試し読みはこちら▶翔田 寛『冤罪犯』| KADOKAWA


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