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レビュー

平成時代を締めくくる〝有栖川小説の見本市〟 『こうして誰もいなくなった』

 有栖川有栖が『月光ゲーム Yの悲劇’88 』でデビューしたのは、今から三十年前、一九八九年一月二〇日(初版奥付)のこと。帯には「’89 年期待の本格派大型新人登場!」とあるが、この年の一月七日に昭和が終わったので、平成時代最初の本格ミステリ長編と言ってもいいだろう。
 それから三十年、有栖川有栖は本格ミステリのトップランナーとして、平成という時代を走りつづけてきた。その平成の終わりを目前に刊行された作品集が本書。
 表題作「こうして誰もいなくなった」は〈野性時代〉二〇一九年一月号に掲載されたばかりの新作で、四百字詰め原稿用紙にして二百枚超、短めの長編並みの分量を誇る。題名どおり、これは、アガサ・クリスティの名作『そして誰もいなくなった』の本歌取り。エラリー・クイーンに副題でオマージュを捧げる長編によって平成の最初にデビューした有栖川有栖にとっては、平成を締めくくるのに、これ以上ふさわしい題材もないだろう。
 あとがきによれば、著者が原典を読んだのは高校時代。感心しつつも、〝名探偵が謎を解明するシーンの不在を寂しく感じ〟、〝「期待していたものとは違う」という読後感も抱いた〟。その後、同書を精緻に分析した若島正の論考「明るい館の秘密」(『乱視読者の帰還』に収録され、同書が第二回本格ミステリ大賞評論・研究部門を受賞する原動力となった)の成果も踏まえて考えるうち、〝あの物語はこうも書ける。そうしたら名探偵の推理も描ける〟と閃いて、一気呵成かせいに書き上げたのが本編だったという。
 孤島に集められたのは、ブラック企業体質と噂される大手人材派遣会社のトップや、複数の死亡者を出した高級ケアハウスの経営者を筆頭に、悪徳政治家、弁護士、映像クリエーター、モデルなど、(悪い意味で)平成の申し子ともいうべき人々。つまりこれは、新たなアングルから『そして誰もいなくなった』に挑むと同時に、平成という時代を本格ミステリのかたちで総括する作品でもある。
 この表題作以外にも、本書収録作には本歌取りがいくつか。「未来人F」は江戸川乱歩の少年探偵団シリーズのパスティーシュ。未来人と名乗る人物がラジオの生放送の電話コーナーに出演し、「東京国立博物館におさめられている国宝、松林図屏風を消してごらんにいれます」と犯行を予告したうえ、二十面相を〝手品ができる器用なコソドロ〟と揶揄し、未来を予言してみせる。その予言が的中して、世間は大騒ぎになるが……。言葉遊び満載の「線路の国のアリス」は、ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』と鉄道オタク小説の愉快なマッシュアップ。また、怪獣小説アンソロジー『怪獣文藝の逆襲』に収録された「怪獣の夢」では、著者オリジナルの怪獣が熱海に上陸する。
 本格ミステリでは、『大崎梢リクエスト! 本屋さんのアンソロジー』に寄稿された書店ミステリ「本と謎の日々」が出色。同じ本を二冊買ったという客の返品希望に応じたところ、去り際にぽつりと「これからは……気をつけてくださいね」と言われた謎。手書きのPOPが二枚つづけて盗まれ、一枚がそれと無関係の本の中から発見された謎……。自身の大手書店チェーン勤務時代の経験を生かした、書店ならではの〝日常の謎〟が冴えわたる。
 本書には、これまで一度も活字になっていなかった作品も三編含まれている。いずれもNHK-FM『クロスオーバーイレブン』で朗読されるテキストとして書かれたもので(朗読は津嘉山正種)、ラジオ番組に合わせた趣向も楽しめる。
 その他、『小説新潮』の八百号記念号に寄稿した八百字小説や、JTの依頼で書いた〝煙草の出てくる〟名探偵小説、『詩とファンタジー』誌に寄稿したダークファンタジー掌編など、バラエティ豊かな全十五編を収録。まさに〝有栖川小説の見本市〟(本書「前口上」より)として、著者のさまざまな作風の入口になってくれる。


書誌情報はこちら>>有栖川 有栖『こうして誰もいなくなった』


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