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レビュー

等価として示されるより良いプレーと人生 『風の声が聞こえるか』

 人はよくサッカーみたいな恐ろしいほど難しいことをするなと思っている。ボールと敵の動向を元にさまざまな方向へ動き、止まり、ボールに対処し、そうやって体を動かしながら、前半と後半あわせて九十分、絶え間なく判断し続ける。やらなければいけないことが多すぎる。自分には絶対に無理だ。
 主人公の武井遼介(たけいりょうすけ)が、高校一年の頃の紅白戦で何もかもについていけず頭痛がした、という記述を読みながら、改めて自分がサッカーという競技に関して常々思っていることを反芻(はんすう)した。そんな難しいことを、主人公たちは十代で、高校生活を送る傍らこなしている。本書は、青嵐高校というサッカー名門校のサッカー部で、実力によってAチームとBチームに選別され、Bチームにひとまず配属されている高校二年の遼介とその仲間たちの日々を描く。
 わたしからしたら恐ろしいほど難しいことに日々着手しつつ、しかしそれ以上の実力を持つ同年代たちに淘汰されながら遼介たちは、ひたむきにもがき続ける。練習や試合ばかりでなく、時には自分たちよりカテゴリが上のAチームの応援にも精を出す。それでチームが負けたら応援の声が足りなかったと文句を言われたりもする。ちなみに、導入部に登場するこの部分は、短い記述ながら読者としてすごく眉をひそめるところなのだけれども、実は重要な要素として本書全体に影響していくところに、著者のはらださんのこだわりと物語としての優れた構造を感じた。
 Bチームでしのぎを削る遼介の仲間たちも、それぞれに個性的で一筋縄ではいかない。本書では、クラブチーム内でユースに昇格できなかった上崎響(かみざきひびき)という遼介と同学年の選手が登場するのだが、プロの舞台に近かった彼が、なぜ高校のサッカー部のBチームにいるのかということが物語の大きな謎になっている。クラブチームでユースに上がれなかったものの、後に成功した選手といえば本田圭佑が有名だけれども、字面としては誰もが語れるその出来事の内実が、少しずつ明らかになっていく上崎の挫折の様相を通して理解できるようになっている。
 優れた選手である上崎も重要な人物だが、さまざまな局面で遼介を理論的に助ける、背が低くてバーナード・ショーの引用をするインテリ高校生の小野君も印象的である。登場人物の中でなぜかずっと一人だけ君付け(でも感覚的にわかる)の小野君は、けっこうベンチ外になったりしているのだが、スカウティング班のリーダーで的確に試合や選手を分析する。彼に加えて、女子マネージャーたちの役割や、彼女たちがサッカーに関わる動機、そしてときどき言及される遼介や他の選手たちの両親についてなど、サッカーを取り巻いているのは試合に出る選手たちと監督だけではないということに改めて気付かされる。特に、中学の時に遼介を好きだったと思われる矢野美咲(やのみさき)という女の子が、別の強くはない高校でサッカー部のマネージャーをしているということに関して、遼介が「(美咲は)もしかしたらおれのことが好きだったんじゃなくて、サッカー自体が好きだったのかもしれない」と気付き、「美咲には、チームが思い通りに勝てなくても、できればサッカーが好きなままでいてほしい」と当たり前のように願う場面は胸を()く。
 高校のサッカー部、それも下のカテゴリで活動する選手たちの苦しみやあがきや喜びからやがて伝わってくるのは、「どうやって良い人生を生きるのか?」という普遍的なことだ。上崎がいったい何を見失い、何を渇望して彷徨(ほうこう)していたのかが明らかになってゆく中で、その再生には仲間の存在が鍵であることが浮かび上がってくる。どちらが優先事項でもなく、必死にサッカーをし、良い人生を模索しながら生きていくのだということ。ひたむきだけどべたつかない選手たちの活写には、涼しく乾いた風が吹いている。


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