中央アジアの小国で、大統領が暗殺され、閣僚は揃って逃亡。国家存亡の危機に、立ち上がったのはなんと、後宮の乙女たち——直木賞・芥川賞ダブルノミネートの新鋭が挑んだのは、いまだかってないスケールのガールズ冒険小説でした。
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絶望と希望がひとつになった土地から、物語は立ち上がる

──中央アジアのアラル海が塩の沙漠と化した土地にできた国家、アラルスタン。ここで大統領が暗殺され政府の男たちは逃亡、日本人のナツキをはじめ後宮に残った若い女子たちが急きょ国家を運営することに……と、幕開けから怒濤の展開の『あとは野となれ大和撫子』。非常に楽しめるエンタメでした。発想はいつ頃からあったのですか。

宮内:きっかけはいくつかあるのですが、ひとつは22歳の頃です。その頃世界を旅していて、パキスタンからアフガニスタンに入る際に少しでも情報をと、国境付近で昔の『ロンリープラネット』の中央アジア版を入手したんです。アフガニスタンの記述はごくわずかで、行くべきシーズンの欄には「Don't Go」とありましたが(笑)。そこにアラル海のことが詳しく載っていまして、強く惹かれました。というのも中央アジアはもともと騎馬民族が席捲したところにイスラムが台頭し、ロシア帝国に攻め込まれて併合されたと思いきや、突然革命で共産化する。そして、スターリン時代に本格的に大規模灌漑が始まり、実質的に海を——実際には湖ですが——ひとつ無くしてしまった。アラル海はもともとは南北の両方から川が流れ込んでいたのですが、途中の農地で使われた枯葉剤や殺虫剤、ソビエト時代の生物兵器工場の汚染物質が湖で濃縮され、干上がったことで舞い上がって周辺住民の健康被害につながっている。気候も変わってしまいました。20世紀最大の環境破壊と呼ばれるような、非常に象徴的な場所なのです。ただ、ダムで南北を分断し、北側では湖を取り戻そうという動きがある。いわば絶望と希望がひとつになったような場所なのです。それで、いつか必ず行ってみたいと思っていましたが、今回、書くにあたって取材という形で足を踏み入れることができました。

きっかけのふたつ目は、SF評論や小説を書かれている忍澤勉さんが、ある時Twitterで「あとは野となれ大和撫子」とつぶやかれていまして、「それ素晴らしいフレーズなのでタイトルで使わせてもらえませんか」とお願いしたら、快諾してくださったんです。ですからこの小説は、音楽で言うなら詞でもなく曲でもなく、タイトルから先に生まれたものです(笑)。

もうひとつ、最後のきっかけがあります。実は、ある時見た夢がベースになっていまして。まさにこの小説の冒頭と同じですが、中央アジアのどこかの国で内紛が起きて、根性のない男たちが逃げ出してしまったので、後宮に残された女性たちが仕方なく立ち上がって国を運営するという。かくして、題名とアラル海と夢がつながったという次第なのでした。

──つぶやきと夢というのが、驚愕のきっかけですね(笑)。執筆前の企画書を拝見しましたが、各章の見出しが「セットアップ」「国家やろうぜ!」「先が思いやられる」「文化祭やるの?」等々(笑)。文化祭というのは、預言者生誕祭で女性たちが周辺国の外務官僚の前で芝居をやることを指していますよね。状況はシリアスだけれどもとても軽快で明るい物語になっていますが、コミカルな要素を入れるのは念頭にあったのですか。

宮内:構造としては「廃れた商店街をイベントで甦らせよう」モノを極端に大きくして国家バージョンにしたようなものです(笑)。映画「ブルース・ブラザース」のように馬鹿馬鹿しくも面白いものができればいいと思っていました。あの映画は大好きなのですが、あれも音楽興行で一点突破しようという話ですから。

──それにしてもアラルスタンという国家について、相当綿密に作り上げていますよね。周辺国家から虐げられた民族が多く流入しているから言語が多様であるとか、発がん率が高いから平均寿命が49歳とか、識字率が45%とか……。

宮内:ある種、人が住めないところを住めるようにするという点で、一種のテラフォーミング的な話でもあります。SFとしては、歴史改変の要素も。現地に行ったことで変更した点もあります。いろんな言語がありますが、ウズベク語とロシア語を交ぜた方が商売がやりやすいだろうとか。中央アジアの風土にも助けられました。世俗的で、イスラム教の人でも客人をもてなす際にウォッカを出したりするのです。女性たちもどんどん外に出て商売をしていたりしました。伝統的な立場からすれば「なんだこれは」という光景かもしれません。ですから物語上、女性が政権を握るということも、柔軟な風土のおかげでやりやすくなったように思います。

書籍

『あとは野となれ大和撫子』

宮内 悠介

定価 1728円(本体1600円+税)

発売日:2017年4月21日

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    書籍

    本の旅人2017年5月号

    角川書店編集部

    定価 100円(本体93円+税)

    発売日:2017年04月27日

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