「あもくん」シリーズの魅力とは
高橋:ところで諸星先生は、アイデアの刺激を受けるのは何からが多いんですか? 資料ですか? それとも小説とか、もしくは視覚的なものからとか。
諸星:うーん、アイデアはだらだら考えていたらどっかから出てくるって感じなので、自分ではよくわからないです。資料はそのつもりで読んでいても、そうそううまい具合にネタになるものはないんですよね。民俗学の本でも「妖怪の何とか」とか「呪いの何とか」ってあるとつい買っちゃうけど、そういうのは逆に参考にはならないことが多いです。むしろ全然関係ない本を読んだりすると、アイデアが浮かぶことが多い気がします。
高橋:何が自分の脳味噌を刺激するのか、わからないですものね。
諸星:そうなんですよ。だから「ネタネタ」って言って探していると、逆にダメなんですよ。
高橋:そういえば『夢のあもくん』の「回談」もそうですけど、諸星先生は回文がお好きですよね。どうしてですか?
諸星:昔我が家で流行って、家族でちょっと作っていた頃があったんです。
高橋:以前セリフがまるごと回文という漫画も描いていましたよね。
諸星:『栞と紙魚子』の新装版(朝日新聞出版)の描き下ろしですね。
高橋:あれは労力的にどうなんですか?
諸星:大変です。
高橋:でしょうね(笑)。
諸星:大変なんですけど、うまくハマったりすると、悦に入ったりするんですよ。
――「回談」の回文はどうでしたか。
諸星:「回談」の回文はわりと簡単だから。
高橋:「暴れるレバア」はちょっとすごいですね(笑)。
諸星:(笑)。これ、実は息子が昔作った回文なんですよ。
高橋:そうなんですか。
諸星:あんまりな回文ですけど。それを
漫画にする父親というのもどうなんでしょうね(笑)。
――漫画に自分が作った回文を使われて、息子さんはなんと?
諸星:いや何も(笑)。そもそも見たのかな、これ? 自分が作ったってことも覚えてないかも。
高橋:あもくんは、やっぱり息子さんがモデルですか。
諸星:いやいや(笑)。一応公式には「モデルはありません」となっています(笑)。
高橋:あもくんのお父さんは諸星先生だったりしますか?
諸星:いや、それも違うつもりなんですけど。
高橋:お父さん視点の話も多いし、先生の目線はあもくんよりもお父さんにあるような気がしますね。あもくんはやっぱりご自分の息子さんみたいな感じで。
諸星:そう見えますかね? ほかに家族を知らないから、そうなっちゃうのかなあ。
高橋:このお父さんは怪奇小説の作家という設定なんですか?
諸星:そういう設定に途中から変えたんです。初めはサラリーマンだったんだけど、怪談文学賞とかを受賞して、プロになろうとしている人なんです。
――高橋さんから見て「あもくん」シリーズの魅力はどこにあると思いますか。
高橋:先程も言いましたけど、作品に緩急があるところですね。言うなれば「アラカルト」とか「点心」です。コース料理とは違って、どの作品から食べてもよくって、美味しいという。『夢のあもくん』はほかの重厚な諸星作品とはまた違う面白さがあるので、皆さん楽しんでほしいですね。……それにしても本当にこのシリーズは、諸星先生がリラックスして描いているようにしか見えないんですけど(笑)。
諸星:そうかなあ。全然楽じゃないです(笑)。
※「怪と幽」vol.010「お化け友の会ひろば」より転載
プロフィール
諸星大二郎 もろほし・だいじろう●1949年生まれ。マンガ家。74年に「生物都市」で手塚賞に入選し、本格的にマンガ家活動を開始。著書に〈妖怪ハンター〉〈西遊妖猿伝〉〈栞と紙魚子〉シリーズ、『暗黒神話』『孔子暗黒伝』『マッドメン』『あもくん』『BOX』など多数。
高橋葉介 たかはし・ようすけ●1956年、長野県生まれ。著書に「夢幻紳士」シリーズ、『学校怪談』『もののけ草紙』『怪談少年』『人外な彼女』『マリッジ・ミーティング』『師匠と弟子』『拝む女』など多数。初の画集に『にぎやかな悪夢』。
書籍情報
『夢のあもくん』
諸星大二郎
KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/322104000666/
『拝む女』高橋葉介
KADOKAWA 1760円(税込)
怪奇浪漫、不条理ホラー、学園ラブコメ!? 異能のマンガ家・高橋葉介のエッセンスを一冊に濃縮。可憐でおぞましい全30作を一挙収録した決定版。
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「怪と幽」vol.010
https://www.kadokawa.co.jp/product/322102000143/