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特集

東京五輪で狙撃事件!? 日米韓の安全保障を揺るがす謀略とは 『トリガー』刊行記念対談 真山仁×谷原章介【前編】

撮影:小嶋 淑子  構成:野本 由起 


日本人の情緒に訴えかける、湿度を帯びたスパイ小説


谷原:先ほど真山さんは「謀略小説は難解」とおっしゃいましたが、『トリガー』はとても読みやすいエンターテインメント小説に仕上がっていますよね。さまざまな切り口、視点があり、登場人物についても背後関係を匂わせて想像力をかきたててくれる。しかも、読後感も良くて。


真山:ありがとうございます。


谷原:銃器や車に関する描写も印象的でした。やっぱりスパイものには車が重要ですよね。フォルツァZ、パニガーレ、いすゞ117クーペ、フェラーリ812……。僕も車好きなので、魅力的な車種が次々登場し、ワクワクしました。


真山:スパイ小説は道具が大切ですからね。


谷原:銃器、車、北朝鮮スパイの特徴など、調べることが多くてご苦労されたのでは?



真山:私は高校時代から海外のスパイ小説をたくさん読んできたので、土壌があります。ですから、そこまで苦労はしませんでした。逆に、自分が好きなジャンルなのでマニアックになりすぎないかが心配でした。よく知っていることを書こうとすると、どうしても細部にこだわりすぎます。記者出身の私が、長い間、作中に新聞記者を登場させなかったのもそのためです。でも、年齢を重ねて距離を置けるようになり、6、7年前からようやく記者を登場させるようになり、ついに記者を主人公にした小説も書きました。これならスパイ小説とも距離を置けるだろうと判断したのですが、書いていてとても楽しかったです。


谷原:欧米のスパイ小説はカラッとしていますが、『トリガー』は独特の湿度を帯びていますよね。僕らが東アジアの歴史、日本や韓国の国民性、文化的な背景を知っているからなのか。それとも、アメリカや中国・ロシアとの代理戦争をやらされている悲哀からくるのか。いずれにしても、ウェットな小説だと感じました。


真山:馬術競技の韓国代表であり、不正を追及する女性検事キム・セリョンは命を狙われるのですが、冒頭でいきいきと描くことに腐心しました。それによって、読者の心にくさびを打ち込みたかったのです。セリョンの事件をフックにして、さらに彼女の恋人だった検事ジョンミンの思いを描いたことで、湿度が上がったのかもしれません。セリョンとジョンミンの2人がウェットな部分を担ったのだと思います。

一方、事件が発生し、国家間の問題に広がってからはドライに書こうとしました。事態を任された冴木も、警視庁の中村も、事件に振り回されていきます。


谷原:セリョンに対する思いを読者に共有させ、そこから背後にある謀略を描いていく。その対比に魅了されました。


真山:スパイ小説は日本ではあまりなじみがないので、「登場人物が多すぎる」「話の展開がコロコロ変わって意味がわからない」と言われないよう、気を配りました。込み入りすぎずわかりやすい展開、日本人の情緒に訴えかける物語を描く必要がありました。そこで推進力をつけるために、人間臭い人物をどんどん投入し、3つぐらいのエンジンを使って物語を回そうとしたのです。


谷原:その事件に冴木が巻き込まれていくんですね。背景の謀略にも興味がありましたが、登場人物にもとても情が湧きました。



>>後編へ続く

こちらも合わせてお楽しみください

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真山 仁

1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者を経てフリーライターに。2004年刊行のデビュー作『ハゲタカ』と同シリーズがベストセラーに。『マグマ』『プライド』『黙示』『売国』『当確師』『オペレーションZ』など、現代社会の様相に鋭く切り込む小説を発表している。

谷原 章介

1972年神奈川県生まれ。モデルとして活躍後、映画『花より男子』で俳優としてデビュー。以後ドラマ、映画、舞台、CMなど多数出演。近年では『アタック25』『うたコン』『きょうの料理』の司会やナレーションなど幅広く活躍。2020年にはNHK大河ドラマ『麒麟がくる』への出演が決まっている。

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