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特集

【対談 加門七海×辛酸なめ子】知識としての「オマジナイ」とその考え方

日本人の生活に根付いた様々な“お(まじな)い”を紹介した『お咒い日和 その解説と実際』が刊行されたことを記念して、2017年9月1日書泉ブックタワーで対談イベントが行われました。著者・加門七海さんのお相手を務めるのは、スピリチュアル・霊的なことに造詣が深い漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さん。言葉の呪力、死を招く舞、伝統産業に残るマジナイ――。その奥深い世界について、加門さんと辛酸さんにお話しいただきました。

加門七海(以下、加門): 加門七海です。よろしくお願いします。

辛酸なめ子(以下、辛酸): 今日は加門さんとお会いできて光栄です。辛酸と申します。よろしくお願いします。

加門: 辛酸さんとはお会いするのは、実は今日が初めてなんですよね。

辛酸: ええ、そうなんです。お招きいただきましてありがとうございます。そんな中いきなりですが、ここに来るときに、書泉ブックタワーのビルは見えているはずなんですけど、なかなかたどり着かなくて、誰かに悪いオマジナイでもかけられているんじゃないかと思いました(笑)

加門: それはただの方向音痴では(笑)。実は私もここに来る前に不吉なことがありまして、下駄の鼻緒がとれそうになっちゃって、これはもう切れたらやばいなって思って、担当編集の方にアロンアルファを買ってきてもらいました(笑)

辛酸: それはまずいパワーを感じるというか、縁起が悪いですね。それにしても『お咒い日和』を拝読して、こんなにもオマジナイが日本には残っているのかという驚きと、加門さんの知識の深さと直感の鋭さ、両方を感じました。

加門: ありがとうございます。

辛酸: 「本の旅人」の書評でも書かせていただいたんですけども、言霊について言及されているところで、たとえば、人に贈り物をするとき「つまんないものです」とか自分の息子のことを「愚息」というのは、日常にいまも残っていますよね。それは魔除けの意味があるそうで。

加門: そうですね。時代小説をお読みになる方とか、歴史がお好きな方ならわかると思うんですけど、子供にあえて悪い名前をつけたりしますよね。たとえば、能の世阿弥。世阿弥の幼名は鬼夜叉っていうんですが、そういうような人ならぬ名前をつけたりすることで、それを魔除けにするということは昔からありました。本名を明かさないというのもそう。ちなみに辛酸さん、当然本名じゃないですよね(笑)

辛酸: はい(笑)。こんなペンネームをつけたのは、もしかしたら本能的に魔除けしていたのかなと、この本を読んで思いました。

辛酸: 第二章「古来のお咒い」では、伝統的な職業・産業の世界に伝えられてきたオマジナイを取り上げています。その中で大麻について結構ページを割いて書かれていて、なるほどなと思うことが多かったので、思わず麻のバッグを買ってしまいました。大麻には、聖なる力が宿っているんですね。でも大麻の麻薬成分には日本人は着目しなかったという。

加門: そうなんです。だいたい世界のシャーマンをみると必ず何かを用いてトランス状態に入るんですよ。

辛酸: そうですよね。たとえば幻覚作用のあるキノコを食べるとか。

加門: はい。だけど日本は調べてもほとんどその形跡がない。酒を使ったかな、くらいで。素面でトランスに入れるというのが日本人なんですよ。いま唯一公開されている大麻農家で栽培されている大麻も品種改良によって向精神作用を含まないものです。そのことを考えても、日本の大麻文化には麻薬成分は必要ないということがわかります。大麻というと麻薬を連想しがちですが、そうではなく、マジナイとして残っている使い方、マジカルな作用、それ以外の利用方法を全部手放しておくのはもったいないと、そういう思いで書きました。

辛酸: 大麻の取材もそうですが、伝統的なお仕事の方はガードが固いイメージがありますがどうでしたか?

加門: だいたい開口一番は「ない」って言われるんですよ。オマジナイなんかないって。でもそれは別に、「お前になんか教えてやるもんか」というのではなくて、本人が意識してないんですよね。普段やっていることだから、当たり前だと。でも実は外から見るとすごくオマジナイっぽいことをやっていて。

辛酸: なるほど。ほかには舞妓さんのオマジナイの話はちょっと怖くて興味深かったですね。嫌なお客さんのときには平打ちの(かんざし)を裏返して挿して出て行くとか。その職業独自の道具を使ったオマジナイも多くありました。

加門: そのため一章ではなるべく特殊な道具を使わないで、それこそ言葉だけ、あとは手振り身振りだけでできるようなものをメインに書きました。汎用性が非常に高いというか、使おうと思えば使えるものなんです。

辛酸: そうですよね。普段の何気ないもの、たとえば服装にもマジナイに因んだ物事があると思うんですが、今日の加門さんのお着物の柄、なんか魔除けのような……。

加門: 今日はウケを狙って河童です。

辛酸: あ、河童だったんですか(笑)

加門: ちょっと生臭く泥くさい感じで。

辛酸: 魔が近寄りがたそうで……。

加門: 魔ですからね、これ自体が(笑)

辛酸: なるほど。自分自身が魔になれば、魔除けになるということですね。

加門: 身につけることで魔除けになることもそうですが、別にプロじゃなくても、たとえば気合で相手を病気にするくらいは、本気になれば誰だってできます。ほかにもお母さんが子供の病気を治れ治れとか本気で祈れば、それで本当に治ってしまう子だっているわけですから。そういう意味では人の意識の持ちようがすごく大事だと思いますね。一方で、マジナイに頼るときはやっぱり覚悟というものを持ってほしいと思います。当然ながらリスクはあります。

辛酸: やっぱりなんか返ってくるということでしょうか……?

加門: オマジナイによって自分の運命を変える、飛ばなきゃならないハードルを回避してその先にあるものが掴みたいんだ。そう思えば、やればいい。でも競技だったら失格ですよね。その失格がついて回るというのが、オマジナイのひとつの考え方です。

辛酸: ドーピング的な考え方ですね。

加門: そうですね。もうひとつの考え方は、そのオマジナイによって厄から逃れられた、あるいは幸福が来たら、それ自体が、オマジナイをやること自体が、自分の運命の中に入っていた、というものです。必然でそのオマジナイに出会ったという場合は、それはノープロブレムなわけですよ。でもそれがどっちなのかというのは非常に分かりづらい。

加門: ちなみに辛酸さんのご本を拝読させていただくと、オマジナイや霊的なものに相当はまってらっしゃいますけど、何がきっかけだったんですか?

辛酸: なんでですかね。うーん、たぶん子供のころに心霊写真ブームがあって、そういう話が好きになって、こちらの世界に入って……。

加門: で、いまに至る。

辛酸: そうですね。子供時代に部屋で夜に目を開けると、人魂のようなものが飛び交っていて、そのときはただ残像なのかなって思ってたんですけど、今考えると魂みたいなのが見えてたなあっていう感じがあったり。そういうのが積み重なって、という感じですね。

加門: こういうことに詳しい人ってキャリアが長いですよね(笑)。私も物心ついたときからそういう話が好きで、いまになるまでこんなことを続けていますけれど、好きになる人ってここ一年とかそういう感じじゃなくって、小さい頃からみんな興味があるって方が多いですよね。

辛酸: 今日来てくださった方もそういう人が多いかもしれませんね。

加門: 興味を持つことは大事ですよね。どんな興味のきっかけかはさておき、今回でいうとマジナイに対する知識があるかどうかで、その結果も変わってきます。ただオカルト的だというのは容易いですが、オマジナイにまつわることに注意深くあることで、見える景色も変わってくると思います。

イベントでは辛酸さんからの提案でお互いの「オマジナイアイテム」を持ってきてもらいました。その紹介でも大盛り上がり。


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