「4100円」という金額も話題になった「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金」。
「カドブンノベル」で『きみの傷跡』を連載中の小説家・藤野恵美さんが申請をするということで、
実際に申請するとなると、どういった手順が必要なのか興味を持った担当編集。
申請の流れをぜひエッセイにして欲しいと、お願いしてみました。
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3月2日から息子の通う小学校も臨時休校になりました。
突然の休校で、平日に子どもの世話が必要となり、予定していた仕事がスケジュールどおりにできない事態となったのです。
その後、「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金」という制度があることを知って、申請してみることにしました。
その申請が思った以上に、ややこしく、手間がかかって……。
まず、この制度は厚生労働省の説明によると「新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、小学校等が臨時休業した場合等に、その小学校等に通う子どもの世話を行うため、契約した仕事ができなくなっている子育て世代を支援するための新たな支援金」です。
具体的には、コロナ対策による休校で仕事ができなかったフリーランスに1日あたり4100円が支給される、というものです。
この4100円という金額は、東京都の最低賃金(1013円)の4時間分相当になるそうですが、どこから4時間という基準が出てきたのか、数字の根拠はよくわかりません……。
企業に対する「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」とは名前が似ていますが、別の制度です。
見分けるポイントは「支援」と「助成」です。
フリーランスは「支援金」のほうです。
厚生労働省のサイトではホームから「政策について」→「分野別の政策一覧」→「雇用・労働」→「雇用環境・均等」→「委託を受けて個人で仕事をする方向けの支援金」と進むと、申請手続きについてのページを見ることができるのですが、ここにたどりつくだけでも一苦労でした……。
書類の記入例を読んでみると、休校になり、仕事を「取りやめた」とあり、疑問が生じます。
休校でスケジュールの変更を余儀なくされ、当初の締め切りには間に合わなかったものの、仕事自体がなくなったわけありません。原稿は土日に書いて、なんとか提出することはできたので、それでもいいのかどうか……。
そこで、学校等休業助成金・支援金等相談コールセンターに電話をして「仕事ができなかった期間もあったけれど、結局、少し遅れて完成して、提出した場合も適用となるのでしょうか?」と問い合わせてみたところ、この「取りやめた」という言葉は、仕事を「キャンセルした」という意味ではないので、だいじょうぶということでした。
支給要領を読み、証拠書類を集めていきます。
サイトの「支給申請書の記入例等」を見てみると、私が用意しなければならない証拠書類は四つありました。
まず「子どもが記載されている住民票の原本」です。
ここでまた言葉の使い方に引っかかったのですが、住民票の「原本」とは……? 市役所などでもらえる証明書類は「住民票の写し」だと思うので、この「原本」は「コピー不可」ということを伝えたいのかもしれませんが……。
念のため、市役所に行ってみたところ、やはり住民票の原本は請求できず、住民票の写しを出してもらうことになりました。
さて、書類をひとつゲットして、残りは三つです。
次は「キャッシュカード等の口座番号が確認できる書類の写し」で、これまた外出して、コピー機のあるところまで行く必要があります。
それから「子どもが通っている小学校等の臨時休業期間を証明する書類の写し」です。
学校だよりのコピーでもいいようですが、すでに捨ててしまって、手元にありませんでした。休校を知らせるメールは残っていたのですが、期間は書かれているものの、必須事項である「小学校名」が記載されていないのです。結局、小学校に電話をして、教頭先生に臨時休業証明の書類を用意してもらうことになりました。
数日後、またしても外出して、小学校まで出向き、教頭先生から書類を受け取ります。
最後に「発注者との契約等の写し」なのですが、これも記載すべき条項が「契約締結日、発注者、発注者連絡先、支援対象者名、業務内容、業務遂行場所、業務遂行日、報酬額」と多く、手元にあった「支払内容確認書」でいいのか、わからなかったので、再び、問い合わせの電話をかけてみました。前回に比べて、通話がつながりにくい状態となっており、問い合わせが増えていることが推測されます。
コールセンターの担当者は丁寧に教えてくれたのですが、いかんせん、お役所の考え方と出版業界の慣例では話が噛み合わず、サイトにある「様式第3号」の書類をプリントアウトして発注者に記入してもらうのが確実でしょう、と言われたのでした。
仕方がないので、発注者である出版社に連絡を取ることにします。
余計な仕事を増やして申し訳ない……と思いつつ、担当編集者のIさんに事情を伝え、厚生労働省のサイトのアドレスと「様式第3号」(業務委託契約申立書)のファイルを添付して、メールで送りました。
そして、記入押印した書類を返送してもらい、受け取ったのが4月7日のことで、緊急事態宣言が出され、翌日から担当Iさんも在宅勤務となったのでした。
緊急事態宣言のあとは、多くの企業でテレワーク推奨となり、オフィス勤務は原則として禁止になっていたりするようです。
担当Iさんが迅速に動いてくれたおかげで、ぎりぎり間に合ったのですが、出社禁止の状態で書類にハンコをもらわなければならないなんて、どう考えても無理があると思いました。
ようやく証拠書類が四つそろったので、申請書に記入して、あとは提出するだけです。
しかし、提出先は全国で四ヶ所に設定されており、ここでも注意を要します。申請者の所在地によって提出先が異なるので、自分はどこの受付センターに送るのか、しっかりと確認して、間違えないようにしなければなりません。
申請書の送付は「特定記録」等の配達記録が残るものを利用するようにと書かれていたので、家に切手はありましたが、緊急事態宣言が発令された最中、郵便局まで出かけて、列に並んで、窓口から送って、やっと、申請が完了したのでした。
私は面倒なことが大嫌いで、書類作成や事務作業などもすごく苦手です。
今回もまさにお役所仕事という感じで、効率の悪さにイライラして、途中で何度も投げ出したくなったのですが、それでも諦めずに申請をしたのは「教育のため」でした。
息子にこのような制度や申請の手続きについての説明をすることは「社会の仕組みを知るための勉強」や「国や政治について考えるきっかけ」になるのではないか、と思ったのです。
なので、申請のためのやりとりにおいて、私がなにをどう感じたかは、ほとんどすべて息子にまるわかりの状態で行いました。
私が「あちゃー、学校だより、捨てちゃった」とか「学校に電話しなきゃいけないの、面倒くさい……」とか「教頭先生が親切に対応してくださって、ほんと、よかったー」とか「また窓口に電話するとか、面倒くさすぎるんだけど……」とか「前回の窓口のひとはめっちゃ感じ悪くて、書類の送付はできないって言ってたのに、今回のひとは親身に相談に乗ってくれて、書類もすぐ送ってくれることになったんだよ。ひとによって、こんなにちがうなんて……」とか「担当さんが仕事のできるひとで助かったよ」とか「フリーランスへの支援金は、企業への助成金の半額というのはどうなのか」とか「エストニアみたいに行政手続きの電子化が早く進むといいのに……」とか言いながら、申請をしているのを見て、息子もいろいろと思うところがあったようです。
自分が子どもだったころ、私の父親は「仕事のストレスを家庭に持ちこむ人間」でした。
職場で嫌なことがあったり、仕事がうまくいかなかったりすると、不機嫌になり、家族に当たり散らすのです。
そういう父親を非常に疎ましく思って、軽蔑していたということもあり、仕事のストレスを子どもにぶつけないようにしよう……と自戒しています。
突然の休校で、仕事ができなくなり、ストレスを感じましたが、それを子どものせいにしないためにも、この申請を行うことには意味がありました。
息子に対して「きみが家にいることになって、仕事が進まない状態になっているが、しかし、その分ちゃんと支援金というものをもらうつもりなので案ずるな」というメッセージを伝えることができたのです。
休校による負担で、保護者が困って、子どもが「邪魔者扱い」されているような報道を見ると、心が痛みます。
自分がいるせいで親に迷惑をかけている……と考えるのは存在を否定されているようなもので、子どもにとって結構つらいと思うのです。
こんなときだからこそ、息子には「信頼」や「安心」を伝えたくて、そのためにも「支援」の制度について教え、申請をするすがたを見せたのでした。
私の経験がお役に立ちましたら幸いです。
まだ申請書類をようやく提出できたという段階であり、いつになったら給付されるのか、はたまた不備があって差し戻されるのかはわかりませんが、とりあえず、これまでの流れを書いてみました。
続報があれば、またお知らせしたいと思います。
(6.11更新)
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支援金についての詳細は次になります。
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https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10231.html
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大学2年生の星野は、男子校出身で女子に免疫がない。所属する写真部の新歓中に、カメラを首から下げた女子と出会って……。みずみずしいボーイ・ミーツ・ガール・ストーリー。
◎「カドブンノベル」では、藤野恵美さんの連載小説「きみの傷跡」を掲載!