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特集

山と電子書籍とわたし 第3山 / 角川ebook新刊紹介

【第3山 あなたと行きたい天城越え】


 こんにちは。この短期集中連載も3回めとなりました。
 さて、いつものように前説。この宇宙には(大きく出てみた)いつの頃からか角川ebookというものがございます。
https://bookwalker.jp/label/3569/
 あの話題作が、文庫化まで待てないあなたのためにお手軽な値段で! というコンセプトのもので、いわば電子の新書版。いちおうここはその告知コーナーですが、ラインナップに関してはBOOK☆WALKERはじめ各サイトの書誌情報をご覧いただくのが一番、と思い。あえて電書を読む環境」としての山歩きを語ってみようかなと思う次第です。とはいえ最後に新刊リンクも貼っておりますので、お急ぎの方はちゃっちゃっとスクロールしてくださっても……(弱気)

 さて、めっきり寒くなってきた11月下旬。そういや紅葉ってちゃんと見てないかも、と思ったのです。普段はひとりでとぼとぼ歩いているのですが、こういう「イベントごと」は連れがいた方が楽しいよね、と友人Aさんを巻き込む。
 このタイミング、もうちょっとでも標高の高いところは裸の枝ばかりですが、伊豆ならまだ紅葉残ってるんじゃないかな? という限りなく甘い見通しのもと、天城山をセレクトしてみました。
 Aさんもわたくしも仕事と業がグルグル巻きになった本読みゆえ、移動中の車内は概ね口をきかずそれぞれ本を読んでいます(別に仲が悪いわけではない)。わたくし今回は芦沢央さんの『バック・ステージ』を持参。話題の『火のないところに煙は』はじめ、暗黒ミステリや胸が締め付けられるようなサスペンスの描き手として名高い芦沢さんですが、こちらは打って変わってこよなく楽しいコン・ゲーム的な一冊です。しかし「いつもの芦沢さんじゃない」かというと全然そんなことはないんですよね。この鮮やかさも、爽快感も、人間のどうしようもなさやおっかなさを知り尽くしている人だからこそ描けるもので、そのリアリティが作品の屋台骨になっている気がします。だから、苦くて甘いチョコレートみたいに、何度でも食べたくなって読み返してしまう――。
 さて、伊東の駅からバスに乗り換え、天城山登山口へ。しかし紅葉、かけらもなし。
「……ごめん。無計画であった」
「いいよいいよ、歩きたかったし」
 お天気まで、晴れ予報だったはずがどんより雲が落ちている。そしてなんだか自分の体調も良くない。まあ、こういう日もあります。Aさんには先に行ってもらう(こういう時、半・別行動で楽しくやれる相手は貴重です)ことにして、こちらはカタツムリの歩みで登ります。30分、1時間…いつもは身体が慣れてくるタイミングなのに全然ラクにならない、曇ってるし展望もないしなあ、と下向き加減で歩いてたら、ちょうど降りてきた女性に「ちょっと、止まって」と言われる。
「ここ、この木の間、見て!」
 なんと、絶妙のアングルで富士山が。(写真1)

写真1

 何度も来ていらっしゃる、いわば天城山の先輩からの嬉しいご教示。現金なもので身体もちょっと軽くなってきました。
 角野栄子さんの『トンネルの森』を思い出すような馬酔木のトンネル(写真2)を抜けてしばらくすると頂上へ。相変わらず曇っているけど、とりあえずここまでたどり着けたことを寿ぐ。なにより、今回は紅葉(なかったけど)以外にもうひとつ目的があるのです。というか使命。連載継続の条件として、カドブン編集長に「メシテロネタをよろしく」と言われ、んじゃ何かを山で作ってみるかと。

写真2

 とはいえ、地上でも大したものが作れるわけではないわたくし。世界に誇る日本の発明サッ◯ロ一番を全面的に頼ることにしました。塩ラーメンとセロリを一緒に茹でて、仕上げにコンビニのサラダチキンドーン!パクチーもちぎって入れ、レモン汁をじゅわーっと。(写真3)

写真3

切ってきた野菜でホットサラダも(写真4)。それぞれ持参したおにぎりと一緒にいただきます。熱くてうまい、しかし寒い……。食後早々に出発することに。

写真4 こちらは寒さで気が急いて早く火から下ろし過ぎてしまい、ちょっとガリっとしました…

 帰路はひたすら、業務のように下る、下る、相変わらず調子は悪いし寒い。20メートル先を行くAさんの背中を心強い標識みたいにして、なんとか下山しました。が、平地に下りて立ち止まるといよいよ寒い。バスはあと30分来ない。遭難者みたいな気分になっていたところ、閉まりかけたゴルフ場のクラブハウスが、お茶くらい飲ませてあげるよ(意訳)と言ってくれたので、転がり込んで熱いココアを。なんだかほんとに「救命」という気持ちでありました。今後の人生で二度とゴルフの悪口を言わないことを誓う……。
 帰り道、何が何でもお風呂に入らないと死ぬような気がした我々、熱海でその名も「駅前温泉」に飛び込みました。これはまあなんと、昭和の香り漂う古式ゆかしいお風呂であったことか。熱めのお風呂で潜らんばかりに浸かったあとは、そう、ビールしかないでしょう!(体調悪いんじゃなかったのか)並びにあった居酒屋さんで、名物の金目鯛をつつきながら反省なき反省会を(写真5)。
 今回は本当に不調でしたが、最後の金目鯛が美味しかったのですべてが良かったような気がしてきました。帰りの新幹線……寝ちゃうな……。

写真5

聖者が殺しにやってくる
https://www.kadokawa.co.jp/product/321808000378/

冤罪犯
https://www.kadokawa.co.jp/product/321808000380/

悪い夏
https://www.kadokawa.co.jp/product/321808000381/

オリンピックがやってきた 1964年北国の家族の物語
https://www.kadokawa.co.jp/product/321808000382/

バック・ステージ
https://www.kadokawa.co.jp/product/321808000383/


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