KADOKAWA Group
menu
menu

特集

イヤミスならぬ“モヤミス”? 親たちの人間関係を描いた怖~い話 ゆむい『犯人は私だけが知っている~母たちは静観する~』刊行記念インタビュー

取材・文 髙橋優希

送り迎えの際には必ず雑談をする仲の良い幼稚園のママ友4人組。その関係は子供たちが起こした一つの事件で崩壊します。犯人捜し、賠償問題、連帯責任、広がっていく噂話…。誰を信じればいいのか、誰に頼ればいいのか。コミックエッセイ『犯人は私だけが知っている~母たちは静観する~』(KADOKAWA)が読んだらモヤモヤしてしまうミステリー、“モヤミス”として話題です。著者は25万部突破(紙+電子)のコミックエッセイ『夫の扶養からぬけだしたい』(同)のゆむいさん。ゆむいさんに制作秘話を伺いました。



『夫の扶養からぬけだしたい』の著者最新作
ゆむい『犯人は私だけが知っている~母たちは静観する~』刊行記念インタビュー

誰の子供が犯人? こじれるとやっかいな親同士の人間関係



――今作のテーマは「ママ友」。ある日4人がいつものようにバス停で雑談をしていると、子供たちが高級外車に傷をつけてしまいます。目撃者は子供だけ。犯人は誰……? 当初は連帯責任として対応するものの、突然1人、送迎バス組から外れてしまいます。彼女の子供が犯人だ……という噂も飛び交う中、実はそれぞれの母親が、人には言わない秘密を抱えていた……。

近くて遠い母親同士の人間関係と、日常のざらりとした感情をリアルに描いた作品です。描こうと思ったきっかけはなんでしょうか?

ゆむい:今回の物語は完全オリジナルです。知人のトラブル体験なども織り交ぜて考えました。漫画のネタは常にいくつも温めています。自分の中で強く何か伝えたいわけではなくて、出来事を淡々と描いて「みんなどう思う?」とか、「どう伝わったかな?」といったことに重きを置いています。読み手によって受け取り方が違うとも言われますね。
作品を描く上で、共感とかは狙っていないんです。共感する人はするし、しない人はしないし。共感できなくて当たり前と思っています。むしろ批判もおいしいです。


――いままでの作品は「夫婦」をテーマにしたものがメインでしたが、ママ友の話を描くにあたって苦労した点などはありますか?

ゆむい:家族の話でも、ママ友の話でも基本は一緒かなと思って描いています。どちらもこじれる理由は千差万別で描き方はいろいろとあるので。ですから、あまり描き分けの意識はしなかったです。 

実はあなたの身近でも起きている? 作品がリアルな理由



――今回は知人の体験がもとになっているとのことですが、漫画にする際に意識したことはありますか?

ゆむい:私は全く自分に関係ないことをテーマにすることはありません。リアルに描けないな、と思うからです。今回の話も私自身が母親なところが重なります。でも体験そのままだとやっぱり漫画としては面白くないんです。現実って「複雑すぎる」んですよね。漫画として伝えるために、あえて簡略化したりフェイクを入れたり、内容を変える工程を必ず入れています。だから私の作品は現実だけど現実ではない「セミフィクション」というのがしっくりくるのかなと思います。


――作中の母親たちのセリフは、ドキッとするほどリアルでした。会話の場面で工夫をしたことはありますか?

ゆむい:作中で出てくるセリフたちは、自分が実際に受け取った言葉や聞いた言葉です。スマホにその都度メモを残したりもしますし、頭に残って蓄積された言葉たちを掘り起こすように描いています。
制作にあたってインタビューをすることもあるのですが、やっぱり雑談をしている時に相手の本音がポロッとこぼれるというか、聞き出しやすいんですよね。そういった言葉は、必ず書き留めるようにしています。

身近であった子育てトラブルの経験も……



――4人の中でリーダー格の高見さんは、雪田さんの子どもが自白したという嘘を、幼稚園で吹聴します。皆から白い目で見られる中、雪田さんは反論も弁明もせず、ただ周りと距離を置くことを選びます。この対応が非常に印象的でした。私なら取り乱してしまいそうです。

ゆむい:正直、これくらいの攻撃の感じだったら、別に冷静でいられるかなと。
うちの子供たちがもっと小さかった頃に、周りで子育てトラブルが発生したことがあります。穏やかそうなあの人が!?という内容で、色々とびっくりしたのですが、その時の周りの保護者たちの反応がとても冷静だったのが印象的でした。高見さんは、極端なキャラではなく、「リアルにいる嫌な人」。それくらいの攻撃の時は、意外と人って、冷静に対応できるものなんじゃないかな、と思います。


――キャラクターやエピソードなど執筆にあたって意識したことはありますか?

ゆむい:知り合いの体験をもとに描いたお話なので、キャラクター全員にモデルがいます。


――漫画制作の過程で一番大変なのはどの過程ですか?

ゆむい:プロット(シナリオ)ですね。ペン入れはやる気の問題なのですが、プロットは本当に大変です。
漫画は「セリフ」がメインだと思っているんです。なのでプロットの段階で入れたいエピソードとセリフはどちらも描いていきます。
描いている時は誰にも話しかけられたくないので、iPadを持ってカフェに行って、3時間くらいで1話描くような感じですね。ネチネチ練り直して、順番とかを考えています。コピペして消しての繰り返しです。

“モヤミス”な展開。最後までわからない事件の犯人



――犯人は誰なのか。さまざまな人の目線から切り取るそれぞれの「真実」や「思い込み」が、物語の終盤を引っ張る核となっていきます。初のミステリー調の作品ですが、仕上げる上で、意識されたことはありますか?

ゆむい:構成がすごく難しく、時間がかかってしまいました(笑)。
登場人物全員が憶測で話していたり、噂があたかも本当のように広まってしまったり……。時間とともに話がこじれていく点や時間と人の思い込みがすれ違っていく点は意識しました。

この作品の全員が母親、本当の悪人はいないんです。状況を判断して面倒をすべて引き受ける雪田さん、子供のしたことをとっさに隠してしまう高見さん、正義感はありながらも子供を面倒ごとに巻き込みたくない西井さん、子供が幼稚園で過ごしにくくなることを気にしている月村さん。みんな行動の根拠は、ただ自分の子供を守ろうとしているだけなんです。
そのせいでだんだんと関係がこじれてきてしまう。本当に悪い人がいないからこそ、なかなか解決することができなくなってしまいます。

犯人は誰なのか、人間関係のこじれは解決するのか……読了後にもう一度読み返したくなる本作。ぜひ、手に取って読んでみてください。

プロフィール

ゆむい
イラストレーター・ブロガー。育児や日々の出来事を中心とした4コマ漫画で3学年差兄弟の成長を記録しているブログ「ゆむいhPa」を運営。著書に『夫の扶養からぬけだしたい』、『親になったの私だけ!?』(ともにKADOKAWA)など。現在、レタスクラブニュースにて「わが家に地獄がやって来た」のコミックを連載するなど、幅広く活躍中。

書籍紹介



犯人は私だけが知っている~母たちは静観する~
著者 ゆむい
発売日:2023年10月4日

私はあの人のことがずっと嫌いだった。母親同士の人間関係が崩れていく……
ある日突然、自分の子供が犯人だと言われたら……?
同じ幼稚園に通う4人のママ友たち。いつも仲良かったはずなのに、一つの事件から疑心暗鬼に陥っていく……車の傷、自転車のサドルの穴……連続する不可解な出来事。みんな好き勝手に噂する。憶測と事実がないまぜとなり……、本当の犯人は誰?

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322212000896/
amazonページはこちら


MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2024年5月号

4月25日 発売

ダ・ヴィンチ

最新号
2024年6月号

5月7日 発売

怪と幽

最新号
Vol.016

4月23日 発売

ランキング

書籍週間ランキング

1

気になってる人が男じゃなかった VOL.2

著者 新井すみこ

2

気になってる人が男じゃなかった VOL.1

著者 新井すみこ

3

ニンゲンの飼い方

著者 ぴえ太

4

人間標本

著者 湊かなえ

5

怪と幽 vol.016 2024年5月

著者 京極夏彦 著者 小野不由美 著者 有栖川有栖 著者 岩井志麻子 著者 澤村伊智 著者 諸星大二郎 著者 高橋葉介 著者 押切蓮介 著者 荒俣宏 著者 小松和彦 著者 東雅夫

6

家族解散まで千キロメートル

著者 浅倉秋成

2024年5月6日 - 2024年5月12日 紀伊國屋書店調べ

もっとみる

アクセスランキング

TOP