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特集

作家・本城雅人がおすすめする警察小説5選

松本清張賞候補作『ノーバディノウズ』で2009年に作家デビューし、以来さまざまなテーマで作品を発表されている本城雅人さん。そんな本城さんは、作家デビューする前は新聞記者として日々第一線で働いていました。
事件記者としての経験も持ち、捜査に関する現場の空気を知る本城さんが、作家としておすすめする警察小説5作をご紹介!
また2023年9月から3か月連続で発売となる「二係捜査」シリーズについてもお話を伺いました。

取材・文:皆川ちか

作家・本城雅人がおすすめする警察小説5選

『看守眼』横山秀夫 新潮文庫 



刑事になる夢が叶わず、留置場の管理係として警官人生を終えようとしている主人公は、ある主婦の行方不明事件に関係する男を執拗に追い続ける――。新聞記者出身の著者による“遺体なき殺人事件”を扱った短編。「横山さんの警察小説はとにかくリアル。警察官のメンタルまで汲み取る域に達しているまなざしに圧倒されます」(本城さん)

『白夜街道』今野 敏 文春文庫



元KGBの殺し屋ヴィクトルが再び日本に現れた。警視庁公安部の倉島は“仕事”を終えて出国したヴィクトルを追ってモスクワへ飛ぶ――。〈倉島警部補〉シリーズの第2弾。2000年代の国際情勢を踏まえて展開される現代の諜報戦。「『隠蔽捜査』もそうですが、登場人物の真面目さや緊迫した空気の中から生まれる予期せぬユーモアが実にいい」(本城さん)

『血の轍』相場英雄 幻冬舎文庫



元刑事が殺害され、事件を捜査する警視庁捜査一課と揉み消しを図る公安部の関係が悪化。刑事・兎沢は、かつての先輩である公安の志水と対立することに――。警察組織の非情さと苛烈な権力闘争に焦点を当てた異色の警察小説。「警察小説というかたちの中で、この社会が抱えている歪みを炙りだそうとする姿勢は著者ならでは」(本城さん)

閃光』永瀬隼介 角川文庫



ある殺人事件を追う老刑事と若手巡査は、これがかの未解決大事件とつながっていることに気づく――。昭和最大のミステリー“三億円事件”を題材に刑事コンビ、元活動家、いわくありげなホームレスなどさまざまな人物の物語が交錯。「ジャーナリズム精神に則った警察小説。スピード感と展開の速さで最後まで一気に読ませます」(本城さん)

『リバー』奥田英朗 集英社



10年前の未解決連続殺人事件と酷似した手口の殺人事件が、群馬と栃木にまたがる渡良瀬川流域で発生。両県の刑事たちをはじめ新聞記者、被害者遺族、犯罪心理学者、そして容疑者らの葛藤が重層的に綴られる群像犯罪サスペンス。「奥田さんの警察小説は時間の進み方がゆったりとしていて、とても独特。その分濃密な空気があるんです」(本城さん)



新聞記者として数々の警察関係者・報道に関わった本城さんが、作家としておすすめする警察小説5選。どの作品も捜査する側・される側、報道する側・される側などさまざまな立場の人間に焦点が当てられており、読み応えのある作品ばかり! カドブン読者のみなさんも、ぜひ手に取ってみてください。

また、そんな本城さんが9月22日に角川文庫から3か月連続刊行作品「二係捜査」シリーズの『宿罪 二係捜査(1)』を発売。刊行を記念して、最新作に対する想いを伺いました。

『宿罪 二係捜査(1)』発売記念インタビュー

 15年前、一人の少女が失踪した。
 家出か、それとも犯罪に巻き込まれたのか? 少女を捜し続けていた女性巡査の遺志を継ぎ、「遺体なき殺人事件」捜査のプロフェッショナル、信楽京介が動きだす――。
本城雅人が3か月連続刊行で書き下ろす、新たな警察小説!



――本城さんにとって初のシリーズものとなる「二係捜査」が3か月連続刊行というかたちで始まりました。「二係」とは家出人を含めた行方不明者の捜索を専門とする部署だそうですが。

本城:「二係」の存在は、僕が新聞記者をしていた当時、警視庁担当の先輩から教えてもらいました。行方不明になった人たちの中には、きっと犯罪に巻き込まれ殺されてしまった方も一定数いますよね。だけど遺体がないわけだから、基本的には事件として立件できないんです。

――作中での「二係」の仕事は、膨大な数の行方不明者の資料を毎日ひたすら読み込むというものです。

本城:それらの中から気になる点をチェックして、何かの事件や容疑者などと関連性がないかどうか調べていきます。一見すると地味ですが、これほど根気と集中力、そして刑事の勘が必要とされる職務もないのではないかと。ほとんど存在自体が知られていない部署なだけに、書きようによってはいくらでも面白くなると確信しました。

――「二係」のベテラン刑事・信楽が魅力的です。ぶっきらぼうでいて細やかなところもあり、食えない人物。自分のするべき仕事を粛々とこなす姿にプロの佇まいを感じました。

本城:信楽に関しては、今の時代に即した刑事像にしなければと考えました。かつての刑事ものでは男くさい刑事が多かったけれど、今それをやったらそぐいません。刑事独特の圧はありながらも、それだけじゃなく「この人ちょっと変わってるなあ」と読む方に思ってもらえるような人物像にしたつもりです。

――『ミッドナイト・ジャーナル』(注1)でおなじみの中央新聞記者、藤瀬祐里との会話がいいですね。信楽は彼女のことを「あなた」と呼んで、素っ気ないんだけど丁寧な話し方をしています。

本城:信楽の言葉づかいには気をつけました。僕は小説を書く際に、キャラクター同士のやりとりから考えるんです。信楽と藤瀬は居酒屋で遭遇しますが、最初は信楽は警戒して、藤瀬の方は緊張しています。でも帰り道で、すたすたと先を歩く信楽に藤瀬が思わず「女性を労わる気持ちがないんですか」と言ってしまって、それに信楽が少し狼狽する……。こんなやりとりを書いていくうちにキャラクターの性格が見えてくるんです。

――書きながらキャラクターを創っていく、ということでしょうか。

本城:前もって性格を決めてしまうと、作者である僕のイメージ通りの行動しかしないステレオタイプな人物になってしまうんです。変な喩えかもしれませんが、上司が新人の部下のことをまだよく知りもしないうちから「あいつはこういうやつだ」と決めつけるみたいに。それってダメな上司の典型ですよね。キャラクターと物語の行方は生(ライブ)なので、もちろん大方の筋は構想したうえでシーンを用意して、さあどうぞ自由に喋って動いてください、という感じで書いています。

――『ミッドナイト・ジャーナル』の頃より成長した祐里の姿も頼もしいです。部下を持つようになり、指導に悩んでいるところは“会社員小説”でもありますね。

本城:警察も新聞社も組織ですので、一種の会社員小説ではありますよね。信楽が警視庁という大組織の中で浮いていても涼しい顔をしているのに対し、藤瀬は組織、それも新聞社の社会部という圧倒的な男性社会の中で揉まれながら強くなっていきます。それができるのも、藤瀬もまた信楽同様に、肩ひじ張ることなく自分のペースをもっていて、それで信楽に負けないくらい情熱を持って仕事をしているからだと思います。

――その普通さが新鮮でした。普通に頑張る姿がかえって「新聞記者って案外こんな感じなのかも」と思いました。

本城:事件現場へ向かう途中で、到着したらもう犯人が捕まっていて解決してるといいのに……なんて藤瀬が独り言ちるところは、大抵の記者の本音です。事件発生時から、目の色変えてスクープを獲ってやる! なんて熱血記者はよく小説や映画にでてきますが、現実はこんな感じです(笑)。

――祐里は自分の足で稼いだ情報を信楽に提供し、その見返りとして捜査状況を教えてもらいます。記者と警察の間のある種の協力関係も興味深かったです。

本城:信楽ではないけれど、情報を持ってこない記者とは話もしてくれない刑事さんも多いんです。それはスポーツ紙でも同様で僕が野球担当だった頃は、プロ野球のフロントや監督でも「なにか(他チームなどの)ネタ(情報)を持ってきてくれたら、こっちの情報も話すよ」と言われました。プロ野球のFA交渉やトレードなどでも犯罪事件の捜査でも、その裏で記者が貢献していることはけっこうあるんです。本当に優秀な記者は警察の方でも頼りにしていますし。そういった、一般にはなかなか知られていない警察と記者の関係も書いていきたいですね。

――警察と記者の相互関係……元新聞記者だった本城さんだからこそ書ける領域ですね。『ミッドナイト・ジャーナル』のほかにも、『不屈の記者』(注2)からも登場人物が一部“出演”していますが、こういった趣向にもわくわくさせられます。

本城:シリーズものだからこそできる仕掛けをしていきたいと思ってます。僕が非常に影響を受けた『隠蔽捜査』(注3)みたいに、作品内の世界をどんどん広げていきたい。最初に話した元警視庁担当の先輩記者に目下取材をしてるんですが、「二係」案件って本当に立証しづらい事件ばっかりで。これらをどう物語にしていくか、自分でも楽しみです。

プロフィール

本城雅人(ほんじょう・まさと)
1965年神奈川県生まれ。スポーツ新聞記者を経て2009年『ノーバディノウズ』で作家デビュー。17年に『ミッドナイト・ジャーナル』が第38回吉川英治文学新人賞を受賞。野球、競馬、警察、記者ものなど多ジャンルに亘って活躍。

注1:
『ミッドナイト・ジャーナル』本城雅人 講談社文庫
かつて児童誘拐殺害事件で誤報を打ち、中央新聞社会部を追われ支局に飛ばされた記者・関口豪太郎。7年後、女児の連れ去り未遂事件が発生し、二つの事件には関連性があると豪太郎は確信する――。藤瀬祐里は豪太郎の部下として登場。
注2:
『不屈の記者』本城雅人 角川文庫
日本初の統合型リゾートの開発計画に携わる大手ゼネコン、国土交通省、政治家、建設コンサルタント……利権を巡るさまざまな者たちを追う調査報道班記者の奮闘を描いた作品。『ミッドナイト・ジャーナル』と同じく中央新聞が舞台。
注3:
『隠蔽捜査』今野 敏 新潮文庫
原理原則に忠実で、本音と建前が合致しているがゆえに「変人」とさえ呼ばれるエリート警察官僚・竜崎伸也。ぶれない信念に従い、左遷やトラブルに遭いながらも組織の中で己を貫く姿が大きな共感を呼んだ警察小説の金字塔。

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