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特集

あの日、教室で何が起きたのか? 気鋭が放つ、切なく残酷なホラーミステリー『君の教室が永遠の眠りにつくまで』鵺野莉紗

取材・文:朝宮運河 写真:首藤幹夫

気鋭が放つ、切なく残酷なホラーミステリー『君の教室が永遠の眠りにつくまで』鵺野莉紗インタビュー

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年2月号からの転載になります。



 野心的なエンターテインメントの書き手を数多く輩出している横溝正史ミステリ&ホラー大賞。同賞の第42回〈優秀賞〉に輝いた『君の教室が永遠の眠りにつくまで』はホラー、ミステリー、青春小説などの要素が絶妙なバランスで共存した、魅力的な長編だ。作者の鵺野さんはこの作品に、自分が好きなものの要素を詰め込んだという。

「小説を書き始めたのは大学時代です。学内のコンテストへの応募がきっかけだったんですが、以来書くことが楽しくなって、時々新人賞に応募してきました。以前からホラー小説やホラーゲームが好きで、謎解き要素のある物語も大好き。そこに憧れである服部まゆみ先生や嶽本野ばら先生、桜庭一樹先生などの雰囲気も融合させて、新しいエンターテインメントを作り出せたらと思っていました」

〝百合〟テイストで描かれる主人公二人の濃密な関係性

 物語の舞台となるのは北海道の小さな町。小学六年生・遠野葵のクラスには、休み時間に呪術や洗脳の本を読みふける孤高の少女・落合紫子がいた。執拗ないじめにも屈せず、自分の世界を守り続ける紫子。しかし葵はそんな紫子が、飼育小屋で声を押し殺して泣いている姿を偶然見かけてしまう。

「子どもたちが自分の力ではどうしようもない問題に直面し、葛藤する姿を書いてみたいと思っていたんです。小学校の頃は、放課後の誰もいなくなった校舎の雰囲気がとても好きで、あの感覚を再現してみたいという気持ちもありました」

 クラスメイトとは適度な距離感を保っている葵と、ある事件をきっかけにいじめの標的となってしまった紫子。お互いの弱さを見せ合ったことで二人の距離は縮まり、親しく言葉を交わすようになる。友情とも恋愛感情とも名づけがたい少女たちの密やかで濃密な関係性が、この物語のひとつの軸になっている。

「二人の関係は〝百合〟っぽさを意識しています。昔から百合テイストのある作品が好きで、これまで書いてきた小説でも女性同士の関係をよく扱ってきました。葵と紫子のキャラクターは、異なる性格の二人が親しくなるというストーリーから出てきたもので、具体的なモデルは特にいません。どちらかというとわたしは優柔不断な葵のタイプなので、正反対の紫子は書いていて楽しかったですね。紫子みたいに自分の道をひた走るタイプには憧れがあります」

 クラスでの立ち位置や家庭環境の違いにもかかわらず、親友同士となった葵と紫子。しかし幸せな日々は長く続かなかった。ある些細な誤解がもとで、二人の関係に決定的なひびが入ってしまうのだ。自分を拒絶する紫子との仲を修復するため、葵は担任の教師に教わった恐ろしい計画に着手するのだが……。愛、憎しみ、残酷さ。子どもの世界に渦巻くさまざまな感情を鮮烈に描き出した物語から、目が離せなくなる。

「子どもの頃に受けた傷は、大人になっても消えないですよね。それが後の人生を決めてしまったりもする。子どもたちの抱える痛みや苦しみは、この物語のひとつの核になっています。子どもって大人が思うよりずっと残酷で、容赦がないんです。学童保育でアルバイトをしていたことがあるんですが、トラブルを抱えた子たちがナイフのような鋭い言葉で傷つけ合うのを目の当たりにしました。子どものリアルな感情を描くうえで、あの経験が役に立っています」

 葵たちの暮らす不思子町は、約30年前から灰色の雲に覆われている奇妙な町だ。その町では近頃、行方不明者が相次いでいた。葵のクラスでは担任の石山先生が突然入院、代わりに狭間百合という新しい先生がやってくる。葵の周囲で、じわじわと日常が壊れ始める。この流れがとても恐ろしい。

 そして運命の日。6年2組の教室でとてつもない事件が起こる。前半のクライマックスにあたるこのシーンで、ある人物から意外な事実が明かされ、それまで見てきた世界はがらりと姿を変える。このスケールの大きい仕掛けが、本作のひとつの読みどころだ。

「2回読み返すことで、面白さが変わるような作品にしたいと思っていました。できれば読みおえた後、また最初に戻って第1部を読んでみてほしいです。仕掛けを成り立たせるために、事前にプロットを作っていたんですが、書いているとどうしても手を入れたい部分が出てきます。そこを直すと全体的に手を入れなければならなくなるので苦労しました」

子どもと大人の差異はどこにあるのか、というテーマ

 紫子の視点から一連の事件があらためて問い直される第2部、再び葵が語り手を務める第3部。物語はパートごとに大胆な変貌をくり返しながら、隠された真相を少しずつ露わにしていく。あの日、教室ではいったい何が起こったのか。事件を引き起こしたのは誰で、その背後にはどんな動機があったのか。ホラーとして幕を開けた物語は、本格ミステリーの色を濃くしていく。

「応募原稿では犯人がすぐに分かってしまうような書き方をしていたんですが、選考委員の先生方のご指摘を受けて、手がかりの置き方などを修正しました。担当編集さんとやりとりする中で、ミステリーはこう書けばいいというコツが分かってきて、そこからは改稿が楽しくなりました。おかげでミステリーとしての精度とリーダビリティが上がったと思います」

 悲痛な事件の底にあるのは〝子どもと大人の差はどこにあるのか〟というテーマだ。葵、紫子、同級生たち。そして教師や親などかれらを取り巻く大人たち。さまざまなキャラクターを通して、このテーマを多角的に描いた人間ドラマも読みどころである。

「二十代の頃、友だちと話していて違和感を覚えることがあったんです。自分は子どもの頃と変わらない精神状態なのに、まわりは立派な大人になっているなって。そうした実年齢と精神年齢のずれも、この物語で描きたかったことのひとつですね。見た目は大人でも心が過去に囚われていたら、終わらない子ども時代を生きていることになるのかもしれません」

 町を覆う異常現象、相次ぐ行方不明者、いじめ、恐ろしい儀式、そして教室での事件―。こうした要素からなる本作は、紛れもなくホラーでありミステリーだ。しかし究極的には、数奇な運命にもてあそばれた二人の少女の関係性を描いた物語、といえるのではないだろうか。プロローグと対応した美しくも切ないエピローグを読んでそう感じた。

「わたしもエピローグはとても気に入っています。応募原稿ではもっと救われない結末だったんですが、読者にネガティブなメッセージを与えるのもよくないなと思って。救いの感じられるエピローグに書き直しました。些細なすれ違いによって取り返しのつかない事態を招いた葵と紫子が、最終的にどうなるのか。極限まで高ぶらせた感情がどこに向かうかを、読んで確かめてもらえると嬉しいです」

 大人になった私たちが忘れかけている胸の痛みや孤独、そして誰かを真剣に愛する気持ち。『君の教室が永遠の眠りにつくまで』にはそうした感情が、タイムカプセルのように閉じ込められている。期待の新鋭・鵺野莉紗が作り上げた美しくも残酷な世界を、ぜひ堪能してほしい。

「ずっと書き続けることが目標ですね。万人受けを目指すのではなく、わたしの書く物語が大好きだと言ってくれる読者がいることを信じて、これからも書き続けたいと思っています」

鵺野莉紗(ぬえの・りさ)

1991年、静岡県生まれ。埼玉県在住。大学在学中に創作活動をスタート。いくつかの文学賞への投稿を経て2022年、「狭間の世界」で第42回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈優秀賞〉を受賞してデビュー。好きな作家は服部まゆみ、桜庭一樹、嶽本野ばらなど。コロナ禍のポーランド滞在経験をもとに、現在第2作を執筆中。

作品紹介『君の教室が永遠の眠りにつくまで』鵺野莉紗



君の教室が永遠の眠りにつくまで
著者 鵺野 莉紗
定価: 1,870円(本体1,700円+税)
発売日:2022年12月06日

原因不明の現象により、灰色の雲に覆われている北海道の田舎町。小学6年生の遠野葵は、いじめを受けているクラスメイト・落合紫子と関係を深めていく。しかし紫子は突如転校。さらに町では失踪者が相次いでいた。葵はある願いを叶えるため、恐ろしい儀式に手を染める。新鋭が少女たちの悲痛な運命を描ききる、百合×ホラー×ミステリー。

詳細はこちら⇒https://www.kadokawa.co.jp/product/322207000265/
amazonページはこちら


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