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特集

日本一、有名な清掃員!マシンガンズ滝沢秀一の、目からウロコのすごいゴミ話【角川文庫『このゴミは収集できません』発売記念】

取材・文:門賀美央子 撮影:後藤利江

『このゴミは収集できません』発売記念 マシンガンズ滝沢秀一さんインタビュー

1998年に結成するも、長らく鳴かず飛ばずが続いていたお笑いコンビ・マシンガンズの滝沢秀一。ブレイクを目指しておもしろおかしく暮らしながらも時は過ぎ、三十代半ばになっても十分に稼げないまま、なんとなく舞台に立ち続ける日々が続いていた。だが、転機がやってきた。急にまとまったお金を用意せざるをえなくなり、ゴミ清掃員の仕事に就くことになったのだ。必要に迫られて仕方なく始めた仕事だったが、そこには想像すらしていなかったブルーオーシャンが広がっていた。崖っぷちだった芸人が、ゴミから教わった人生、そして社会の姿を素直な言葉で綴った一冊に込めた思いを語る。


『このゴミは収集できません』滝沢秀一 角川文庫


背水の陣だったゴミ清掃員の仕事。だけど、本気になってみたら驚きの結果が!
“ゴミ兄さん”マシンガンズ滝沢が見た社会の実像とは。



――滝沢さんがゴミ清掃員の経験を活かして2018年に出版した著書『このゴミは収集できません』が、このたび角川文庫で文庫化されることになりました。滝沢さんは現在“ゴミ清掃の伝道師”としても日々活動をされていますが、本書はそのきっかけになった一冊ですね。

小銭稼ぎのつもりで出しただけだったんですけど(笑)。


――本書によると、ゴミ清掃員の仕事は止むに止まれぬ事情で始められたとか。

36歳の時に子どもができたんです。それでまとまったお金が必要になったので、お笑い以外の仕事を探したんですが、アルバイトでさえ9社受けて9社とも落とされてしまいまして。だから、友人にゴミ清掃員の仕事を紹介された時は飛びつきました。


――そうした中、「ゴミ清掃員あるある」をツイッターでつぶやくようになり、それが世間に注目された、と。

ゴミのことをつぶやいたら、周りの芸人がなにか突っ込んでくれるかな、程度の軽い気持ちでした。そうしたら有吉弘行さんがリツイートしてくれて。有吉さんが喜んでくれるならと、「ゴミ清掃員あるあるネタ」を毎日決まった時間につぶやくようにしました。それを有吉さんが毎回リツイートしてくれたおかげですぐに話題になり、結構早い段階で出版社から声をかけられた、というような感じです。結局、自分から何かを仕掛けたわけではなく、有吉さんが作ってくれた流れで、僕はそれに乗らせてもらっただけです。



――とはいえ、日々の仕事で持った疑問を放置せず、ゴミ問題の本質に迫っていかれたのが多くの人の関心を呼んだのだと思います。いつ頃からそうした視点を持つようになったのですか?

清掃員になって3年目ぐらいからかな。最初のうちは「生活費をこの仕事で稼げたらお笑いが続けられる、ラッキー!」ぐらいの感覚でした。「お笑いで一発あててお金持ちになる」が夢だったのに「お金があればお笑いができる」じゃ本末転倒なんですけど(笑)。でも、長く続けているうちに「いつまでゴミ収集をやっているんだろう」って気分になっていったのも事実です。変なクレームはくるし、分別しないヤツもいっぱいいるし、職業差別に直面することもあるし。でも、ある日、僕よりはるかに売れているはずの芸人がテレビではひな壇の隅に座っているのを見て「あ、あそこに俺の居場所はないんだ」と痛感したんですね。その瞬間、「あ、俺、真剣にゴミ清掃員をやってみよう」と思ったんです。
日本一のゴミ清掃員になってやろう、って。そこからものの見え方が変わりました。本気になったことで、それまでは問題に追われる側だったのが、問題を追う側になった。すると一気に精神的に楽になりました。


――気持ちの切り替えが転換点になったわけですね。今や環境省から「サステナビリティ広報大使」に任命されるまでになられました。

広報大使就任は想像もしていなかったので、僕自身が一番驚きました。でも、おかげで活動の幅が広がったのは確かです。それまで、環境問題などに対して積極的な発言をすると「ゴミ屋はゴミのことだけ言っとけ」などと生意気扱いされたけど、広報大使になってからは耳を傾けてもらえるようになった。みんな、肩書に弱いですよね(笑)。少し前に、ネットで「底辺職業ランキング」っていうのが話題になって炎上しましたが、あれにゴミ清掃員も入っていたんです。でも、ランクインをした他の職業を見ても、コンビニの店員や保育士など、やる人がいなかったら社会が困る仕事ばっかりでした。だから、あれは本当は「大変なわりにお金がもらえないランキング」だったのだと僕は思っています。ゴミ清掃も電気ガス水道と同じ、国を支える社会インフラなのに、その一つが底辺職業とみなされることの意味をみんなで考えないといけないなとも思います。



――本書ではゴミを取り巻く未来に警鐘を鳴らしています。

早い自治体だと、あと10年ほどでゴミ処理能力が限界に達します。これは約80年前からずっと指摘されてきたのに、解決されないままなんです。けれど、僕らにはそれを解決する“権利”があります。放置したまま破滅するのも権利なら、問題を解決してよりよい未来を次世代に残すのも権利です。特にゴミ問題は一人ひとりが自主的に取り組まないと立ち行かないんですよ。たとえば鹿児島県大崎町では、ゴミの減量化やリサイクルを徹底することによって浮いたゴミ処分予算やリサイクルで得た利益を、そのまま教育費などに転用する制度があります。ただ単に「ゴミを減らそう、リサイクルしよう」って言われても「は? なんでそんなことしなきゃなんないの?」と思う人でも、ゴミを減らせば別のところで還元されるとなったら協力するかもしれないじゃないですか。今後はそういう仕組みから考えていかないといけないんでしょうね。そして、みんなでやろう! って空気を作っていくには、やっぱり教育が必要です。今の若い人なんか意識が高いですよ。たとえば、スーパーの牛乳でもきちんと前列から取る。僕なんか前列から取るようになったのなんてここ数年です(笑)。
彼らは学校で食品ロスの問題を教えられたから、って言うんです。つまり、ゴミ問題も教育ありきなんですよ。今後もゴミ問題を、芸人らしい立ち位置で世間に伝えていきたいので、まずはこの本を読んでもらえるとうれしいですね。

滝沢秀一(たきざわ・しゅういち)



1976年、東京都生まれ。1998年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。「THE MANZAI」2012、14認定漫才師。『かごめかごめ』(双葉文庫)などホラー小説も。2012年、定収入を得るために、お笑い芸人の仕事を続けながらゴミ収集会社に就職。ごみ収集中の体験や気づきを発信したTwitterが人気を集め、話題を呼んでいる。

作品紹介
『このゴミは収集できません』滝沢秀一



家を買う前にゴミ集積所を見よ。お笑い芸人がゴミ清掃で発掘したゴミ学

ツイッターで話題沸騰! お笑い芸人の滝沢秀一がゴミ清掃を始めてたどりついたゴミエッセイ。お笑い芸人をしながら、定収入を得るために辿り着いたゴミ清掃員という仕事。
始めてみたら、なんとも奥深い人間観察ならぬ、社会考察につながっていく滝沢流ゴミ学。お笑いネタから深刻な人類存続の危機への警告まで、滝沢秀一の人気ツイートが、イラストを加えて単行本化。本書はその書籍に大幅に書き下ろしを加えて待望の文庫化!
ゴミから見る格差社会や、ゴミ清掃員おすすめの物件、ゴミ清掃業界のとび抜けた人材など、読めば、明日からのゴミ捨ての意識変革がおこること間違いなし! 
ためになる蘊蓄満載。ゴミから始まる現代社会学!

2022年11月22日(火)発売
KADOKAWA 刊 748円(10%税込み)
書誌ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322203001795/
amazonページはこちら


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