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特集

【化け通 出張版】山井一千インタビュー――十四代目・葛葉ライドウと「メガテン」の伝統と怪談実話

取材・文:ヴィクター・フランケンシュタイン氏with藤川Q(ファミ通) 

ゲームに登場するお化けを掘り下げる「ファミ通」と「怪と幽」のコラボコーナー“化け通”。神話・伝説上の神や悪魔を題材とした作品を生み出し続けるアトラスの「真・女神転生(メガテン)」シリーズプロデューサーに受け継がれた、伝統の業に迫る! ……つもりが、まさかの怪談話に!?

十四代目・葛葉ライドウと「メガテン」の伝統と怪談実話


――今回の「真・女神転生Ⅲ NOCTURNE HD REMASTER」で、人気だった主人公の“人修羅”と“葛葉ライドウ”(大正時代を舞台に悪魔を使役する“葛葉一族”の十四代目を襲名した悪魔召喚師が活躍する「デビルサマナー 葛葉ライドウ」シリーズの主人公)がリマスターされて再登場しましたね。

山井:まさかそれでお化けの専門誌から取材まで来るとは(笑)。実は僕、「幽」の読者だったんですが、「ライドウ」の開発時には幾度となく……お化けを見ていまして。


――え? お化けを見た……!?

山井:ええ。これ、「怪と幽」的には“怪談実話”というやつになるんですかね(笑)。ゲーム雑誌のインタビューなら、こんな話はあまり載せてもらえないと思うんですが、この機会に思いっきり話してしまってもいいですか? これも「ライドウ」の開発秘話らしきものということで (笑)。


――ぜひお願いします(笑)。


山井一千氏。「デビルサマナー 葛葉ライドウ」シリーズのディレクターも担当している。



葛葉ライドウ 対 家の前の黒い何か

山井:自分自身は昔から、井上円了先生じゃないですけれど、科学的な視点から霊的なものを理論化したくなっちゃうけれど、お化けは好き、というタイプだったので、いつも意識はしていたのだと思うのですが(笑)。「ライドウ」の開発時には、若かったこともあって、精神的に追い詰められていたのか、開発の疲れなのか、とにかくやけに怪現象に遭遇しました。その中でも印象的な体験がありまして。


――(ゴクリ)

山井:「ライドウ」開発時代に住んでいたマンションの話で、そこは家の前に集合ポストがあるところでした。ある夜、ゴミ出しに行った帰りに、家の前の通りのほうを振り返ったら、ちょうど道の真ん前に、左肩と左足を上げて立っている人がいたんですよ(下段イラスト参照)。


――何ですか、そのポーズは?

山井:いや、わかりません。とにかく左肩と左足を上げた妙な体勢で、微動だにせずこちらを見ている。暗かったし、最初は「バス停かな?」と思ったんです。悪ガキがいたずらをして、バス通りあたりから無理矢理バス停の標識を引きずって持ってきちゃった、とかかなって。でも、やはり人の形をしたものなんですよ。それがずっとこっちを見ている。そうとわかった瞬間は、もう強烈に「ヤバい」と思って。


――それは人ではあるんですか? 服装などは?

山井:人です。服などはまったくわからないくらいに、完全に真っ黒です。夜中なので、そこに濃密な黒い塊がある感じで。顔も服装もいっさい見えない暗い中の黒、でした。そのときは、とにかく目を合わせないようにして部屋に戻りました。でも、それから数日後、「ライドウ」の開発作業をして、ちょうど暗くなってきた頃、家に帰ってきたときにもまたおかしなことがあって。そのマンションは新築でしたが、マンションといっても三部屋ほどしかない、下に大家さんが住んでいるようなアパート的な作りで。なので、集合ポストは大家さんの分を含めて四つくらいしかないんですが、そこにピザのチラシが刺さっていて。


――よくポストに入ってますよね、ピザのチラシ。

山井:そうそう。チラシが刺さったままだと、「まだ家の人は帰ってきていないんだな」ってわかるというね。その日もいくつかのポストにピザのチラシが刺さっていたんですが、僕が見たタイミングで、そこに刺さっていた全部のチラシが、いきなり「スパーンッ!」ってすごい勢いでポストの内側に落ちた(笑)。


――えっ!?

山井:全部です。いっせいに。「ええっ!? 何これ!?」みたいな(笑)。


――(笑)

山井:今だから笑えるんですけど、その瞬間の異様な雰囲気は本当に恐ろしくて。ポストを揺すったりして調べてみたんですよ。あるじゃないですか、ポストの口のかみ合わせが弱くて、人が通ったときの風とか微細な振動なんかで揺れて、挟んだ郵便がズルッと落ちたりとか。でも新築だったから、ポストの口のホールド力も相当ガッチリしてて。なので、薄ら寒くなった……という話です。黒い人は “シャドウピープル”(黒い人影が見える怪奇現象)のようなものなのかもしれないですが。

※この後、大量のお化け体験についてのお話を伺いましたが、紙幅の都合上割愛させていただきます。


「ライドウ」開発時代に山井氏が自宅前で遭遇した、妙なポーズで立つ黒い人のイメージ図。


――まさか、そんなに奇妙な体験を「ライドウ」開発時代にされていたとは。発売されたばかりの「真・女神転生Ⅲ NOCTURNE HD REMASTER」でも、そうした体験をされていたりするのですか?

山井:いや、それがまったくないんですよ。振り返ってみても「ライドウ」だけで(笑)。


東京都内の高校に通う普通の少年だった主人公は、「マガタマ」を授かったことで、「人修羅」と呼ばれる悪魔になる。


突如主人公の前に現れ、戦いを挑んでくる葛葉ライドウ。悪魔召喚師(デビルサマナー)を名乗り、黒猫〝ゴウト”を連れている。


アトラスの伝統を受け継ぐ


――なぜか「ライドウ」時代に見舞われた、数々のヤバい感じのものとのエンカウントというか遭遇譚ですが、それらを運よくやり過ごせたからこそ、今無事に「真・女神転生Ⅲ NOCTURNE HD REMASTER」が発売されて、ライドウも再登場できたというのは、なんだか妙な感じですね(笑)。

山井:そうですね(笑)。そういえば、僕がアトラスに入社したときからの上司で、ずっとお世話になってきた橋野(桂/「真・女神転生Ⅲ -NOCTURNE」や「ペルソナ」シリーズを手掛ける)さんにも、「山井は運がいいから」って言われ続けてきました。かつて橋野さんがドリームキャストで「魔剣X」のディレクターをしていたときに、近くの神社までヒット祈願のお参りに行こうという話になったことがあって。橋野さんが、「お前は運がいいから、おみくじを引いたら大吉とかが出るはずだ」って僕に引かせたんですが、見事に凶が出まして、橋野さんがえらく落ち込んだという(苦笑)。


――運のパラメータが高くても、そういうときもあると(笑)。それこそ「魔剣X」も中国の神話や道教的な思想がモチーフでしたが、アトラスさんのゲームはどれも神話や伝承などをとても大切にして、ゲームの設定に活かされていますよね。そのために社内で受け継がれている考え方はあるのでしょうか?

山井:自分の場合、直近の先輩である橋野さんと、やはり古くから「メガテン」をバリバリ作ってこられた金子(一馬/アトラス作品のイラストをはじめ、企画原案などに深く関わる。“悪魔絵師”として知られる)さんに、イロハを教えていただいた感じでした。


――金子さんの描く悪魔の絵も、伝承を基にしつつも独自の解釈がなされていますよね。

山井:伝承を活かしながらも飛躍させられるという、そんな絵の描き方ひとつをとっても、金子さんが僕らよりも歳が一回り上で、きっと知識量を競い合うことに知的な楽しさを感じていた世代だったからこそ、できることなんじゃないかと思うんですよね。見ている映画やアニメなどでも、エネルギーはこれこれだとか、設定の細部に至るまで、情報をどれだけ知っているかがステータスだった、「知らないものをきっかけに新しい価値観を求めてきた世代」で。だから、「ちゃんと調べなさいよ」と言われましたし、逆に「知識を駆使して唸らせてみろ」と試されているような感覚はいつもありましたね。そうした目線は、もちろん橋野さんにもあって。特に、ずっと昔から「メガテン」を作られてきた金子さんと、当時「デビルサマナー」シリーズの新作として「ライドウ」を作るためのやりとりをしていた中では、“装置としてのオカルト”を捉えようという考えがありました。


――装置、ですか。

山井:今ではオカルト的と考えられている陰陽道や呪術が持つ役割を“社会装置”として真剣に考えてみる、という視点ですね。たとえば、憑かれた人ってある意味では病気や環境によって社会からはみ出してしまった人で、彼らを仲間外れにしないように、コミュニティに戻してあげる役目が呪術師にはあったんだろうな、とか。京極夏彦先生の「百鬼夜行」シリーズでの京極堂の役割じゃないですが、構造を解体して再構成するという憑き物落としのやり方というか。こうした見方が、「葛葉ライドウ 対 超力兵団」に登場した“大道寺伽耶”というヒロインが「鬼に憑かれた」とか言って、「自分は○○○○だ」と話し始めるくだりなどの下地になっていて。あの頃は、たぶん金子さんの中にも、「メガテン」シリーズの壮大でハルマゲドン的な枠組みでは使えなかったネタとして、こうした狐憑きや飯綱、式を打って式神を使役するといった要素があって、それが「デビルサマナー」に使われていったんだと思います。小松和彦先生が研究されている“いざなぎ流”の陰陽師も出てきたくらいで。ただ、「ライドウ」の場合は、最終的にトンデモが山ほど盛り込まれたんですが、それは我々が荒俣宏先生の『帝都物語』が大好きだったからなんですよ。戦艦がロボットになっちゃうのなんて、“學天則”(東洋初のロボット)ですから(笑)。


――なんだか「怪と幽」にぴったりなお話になってきました(笑)。そういえば、小松先生が民俗学者を志したのは、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』に登場するヴァン・ヘルシング教授に憧れたのがきっかけのひとつだったそうです。小松先生がこうしたキャラクター像に憧れて民俗学の道を志したのだから、ひょっとしたら今回最新ハードで鮮やかに蘇った「真・女神転生Ⅲ NOCTURNE HD REMASTER」で遊ぶ人にとっては、ライドウは、お化けの世界へと若者を誘う、憧れの存在になるのではないかと……。

山井:ライドウは和製ヴァン・ヘルシングですからね。銃に込めている弾も純銀という設定だし。確かに、今回のリマスター版でライドウにも再びスポットライトが当たって、話題になってくれてよかったですよ。「真・女神転生Ⅲ -NOCTURNE マニアクス」のディレクター時代に、ライドウを出しておいて本当によかったなと(笑)。今後、ライドウ人気も高まってくれて、いつかは「葛葉ライドウ」シリーズで何かできたらな、なんて思います。あ! でもそうしたら、またお化けを見ることになるのかなあ(笑)。

※本記事は「怪と幽」vol.006に掲載されたものです。
https://www.kadokawa.co.jp/product/321910000646/

作品情報

ライドウがゲストで登場し、その艶姿が堪能できる最新RPG
『真・女神転生Ⅲ NOCTURNE HD REMASTER』
5,980円(税別) Nintendo Switch/PlayStation4
©ATLUS ©SEGA
All rights reserved.



また、人気沸騰で入手困難だった限定版に同梱された特典「月刊 妖 特別最終号」の電子書籍版も発売中。
詳しくは「月刊 妖」で検索!
公式サイト:http://shin-megamitensei.jp/3hd/


山井一千やまい・かずゆき

1975年、神奈川県生まれ。アトラスの「メガテン」シリーズプロデューサーを務める。「真・女神転生Ⅲ NOC TURNE マニアクス」、「デビルサマナー 葛葉ライドウ」シリーズなど、多数の作品でディレクターを担当。

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