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特集

新型コロナウイルスで広がる不安。医師、木村知さんインタビュー。「検査結果は絶対ではありません。体調が悪ければまず休むことを徹底してほしい」

取材・文:編集部 

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が拡大しています。感染が疑われても検査をしてもらえないことが報道され、風邪気味であっても「もしかかっていたら……」と、不安が膨らみます。そこで総合診療を行う医師であり、角川新書『病気は社会が引き起こす』の著者、木村知さんに緊急でお話をうかがいました。木村さんは長年、「体調が悪ければ薬よりなによりまず休むこと」を訴え続けています。

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「念のため受診」はかえって危険


――社会全体が新型コロナウイルスで、大きな混乱と不安に包まれています。医療の現場は今、どういった状況でしょうか。


木村:患者さんの中でも不安が広がっています。「いつもならこのくらいの症状であれば家で様子をみているのだけど、コロナが心配なので来てみました」「会社から念のため受診してから出勤しろと言われて仕方なく来ました。私は何もつらい症状はないのですが……」という方もいます。

テレビは新型コロナウイルス一色ですし、政府は一斉休校を発表しました。容易ならざる事態だとの認識が行きわたり、多くの方が不安を感じるのもやむをえません。とくに今回の新型コロナウイルスは、無症状の人もいたり、初期症状は風邪に似ていると聞けば、なおさらです。

2009年の新型インフルエンザ流行時にも「念のために来ました」という患者さんが非常に増えましたのでとくに驚いていませんが、あれから10年経ちました。当時も今も患者さんには、「風邪の引き始めや症状がごく軽微なら、『念のために』と受診するのはかえって危険です。医療機関というのは多くの感染症の人たちが集まってくる場所なのですから」と同じ説明を繰り返しています。「念のため受診」は意味がないばかりでなく、むしろ危険であることは、私たち医療者が根気よく説明していくしかないと思います。

一方で「このようなご時世だから、できるだけ医療機関に来るのは避けたい。来なくてもいいように、いつもの薬をできるだけ長い期間分、処方してほしい」という方もいます。医療機関が一番危険であることを十分理解してくださっているのですね。もちろんお一人お一人の症状にもよりますが、たとえば症状が安定している高血圧症などの方には、ご本人と相談の上、長めに処方しています。



――病院に行かないほうがいいとはわかるのですが、「もしかかっていたらどうしよう」という不安を止めることはできません。


木村:もちろん、そのお気持ちはよくわかります。やみくもに不安に襲われないためにも、医療機関にかかるタイミングについて、ぜひ知っていただきたいと思います。

今回の新型コロナウイルスの広がりを受けて、いつ受診すべきか、国は目安を発表しました。( https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000596905.pdf

  1. 風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く方
    (解熱剤を飲み続けなければならない方も同様です)
  2. 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある方
    高齢者、基礎疾患がある方、妊婦の方などは①が2日程度

木村:こういった症状があれば帰国者・接触者相談センターに相談するように、とありますが、私はこれを読んで、説明不足だと感じました。「軽症なら病院に行かず、熱は4日までは自宅で我慢してください」とも読めてしまいます。

熱の高さや持続日数はあくまで目安で、そのとおりに行動する必要はまったくありません。むしろ「当初の熱がいったん下がったのに、数日して良くなるどころか日ごとに悪化してきた」「熱が上がったり下がったりしている」「せきがひどくなってきた」などであれば、日数にかかわらず受診してください。「いつもと違うつらさを感じる」、これも重要な受診の目安です。

検査は絶対ではない。重要なのは重症か否か


――木村さんは無症状の人を含めたすべての希望者を検査することは適切ではないというご意見です。


木村:医師が必要と認めた患者さんへは検査すべきですが、必要と認めていないにもかかわらず希望するからと検査するのは適切ではないと思います。


――検査をして陰性と出れば、不安解消に役立ちますし、陽性と出れば本人はうつさないように気を付けるので有用だと思うのですが。


木村:陽性と出た人がうつさないようにすることは大事です。ただ検査結果が絶対ではないということに気を付けてほしいと思います。実は陰性という検査結果は、非感染の証明にはなりえません。つまり安心や不安の解消にもならないのです。

陰性が感染していないことの「お墨付き」として使われてしまうことも心配です。これは毎年のインフルエンザ流行期にも日常的に経験することですが、陰性のお墨付きを得た感染者が、安心して職場や人の集まるところへ行ってしまうことのほうがよっぽど危険です。


――実際、ダイヤモンド・プリンセス号で陰性と判定されて下船したのちに、陽性と判定された方もいますね。


木村:新型コロナウイルスは新しいウイルスでもあり、その様態については未知の部分も多くあります。しかし重要なのは検査結果の陰性、陽性ではありません。その人が重症者か否かです。たとえ陰性であっても重症なら集中治療が必要なのです。


――先日見たテレビで、「軽症者こそ検査すべき」と言っているお医者さんがいました。


木村:テレビやネットで、「軽症者こそ検査すべきだ。軽症者が無理して会社に行ってバラまくことがマズい。検査して陽性が確認できれば、その人が休む動機づけになる。陰性なら安心できる」という意見を述べている人はたしかにいますが、今述べた理由からとても無責任な発言です。

前半の「軽症者が無理して会社に行ってバラまくことがマズい」には同意しますが、後半に関しては「それは違うでしょう」と声を大にして言いたいと思います。それは、「新型コロナウイルスなら休めるが、風邪なら絶対に休めない」社会を前提としたものだからです。

仮に検査結果が陰性であっても体調が整うまでは休むべきであり、そういう歪んだ社会を変えていこう、と私は言い続けてきました。「インフルエンザなら休めるのですが風邪だと休めないので」という方が、インフルエンザの検査を求める毎年の風景については、前回のインタビューでも述べました。

混乱する医療現場


――医療の現場は落ち着いていますか。


木村:私はまだ感染を積極的に疑う重症肺炎患者さんを受け持っていませんが、先日、知人の医師からこんな話を聞きました。

熱発と咳の続く60代女性を診察し、胸部CT検査にて両側の肺にスリガラス像があり(一般的なウイルス性肺炎でもみられる所見。新型コロナウイルスに特異的というものではない)、採血検査の結果からもウイルス性肺炎の疑いが高まりました。

保健所に連絡したところ、「新型コロナウイルス感染症を強く疑うものでなければ、医療機関同士で交渉して受け入れ先を決めるよう」指示されたそうです。そこで、近隣の大学病院に連絡したところ、「当院は新型コロナウイルス感染者のために、ほかの患者を転院させてベッドを空けている状況。新型コロナウイルス感染者あるいは強く疑うものでなければ受け入れられない」といわれてしまったそうです。

その後、ほかの医療機関に電話で受け入れを要請しましたが、「呼吸器専門医が不在のため受け入れ不可」であるとか「新型コロナウイルスの可能性が少しでもあるなら対応できない」などの理由で結局、11か所の医療機関に受け入れを断られたそうです。


木村知『病気は社会が引き起こす』(角川選書)


――お医者さんが11か所も電話して受け入れ先を探しているのですか! おどろきです。たらいまわしですね。その間に診てもらえる患者さんもいたはずです。


木村:断っている医療機関を頭ごなしに批判することはできません。私はこれも長年の医療費抑制政策の代償だと思います。医療費抑制政策については私の本を読んでいただきたいのですが、とにかく各医療機関はギリギリのところで日常診療をこなしています。

結局、この患者さんは容態が安定しているということで、保健所預かりとなり、自宅で経過観察となったそうです。保健所の判断ではPCR検査(遺伝子検査)の適用ではないとのことでした。


――そもそも感染が疑わしい患者さんが病院に来た場合、医師はどのように動くか決まっているのでしょうか。どのタイミングでだれに検査をしてもらえるのですか。


木村:インフルエンザであれば、医師が必要と判断したときはその場で検査ができますが、今回の新型コロナウイルスは医師が必要と判断しても、現時点では保健所に連絡して検査を要請しなくてはならず、保健所から適用外といわれてしまうこともありました。つまり、私たちが感染を疑う患者さんがいても保健所が認めないと検査できない、ということがあったのです。  

3月4日になってやっと、保健所を通さずに検査できる体制となることが厚生労働省から発表されました。私は先ほども申し上げたように、「安心のため」や無症状の人、ごく軽症の人など、すべての希望者に検査を行うべきではないと考えますが、インフルエンザやマイコプラズマ肺炎、ほかの細菌性肺炎とは異なる肺炎であると現場の医師が判断したときに検査オーダーできる体制に一歩近づいたことはよかったと思います。

ただ注意していただきたいのですが、検査は感染防護策の整った医療機関に限定されています。インフルエンザのように、一般のかかりつけ医で、その場で手軽に検査できる体制になったわけではありませんので、誤解のないようにしてください。

当たり前のことが当たり前の社会へ


――小中高校の一斉休校が、安倍首相の「要請」で多くの地域でスタートしました。どれほどの効果があるのでしょうか。


木村:私は感染症の専門医ではないので、この休校がどの程度の効果があるのかは判断できませんが、全国一律に行うということが、どのような科学的根拠に基づいて決定されたものなのか。2月29日の記者会見でも、その後の国会答弁でも今のところ説明はありません。

総合診療を行っている私の立場からいえば、一斉休校とすることには、親御さんの仕事や収入といった社会的影響が非常に大きいため、それらに対する措置も併せて行わないと、様々な弊害が起きることを懸念しています。

学校が休みになり、子どものいる医療スタッフが休まざるを得ないとなると、医療機関は機能不全に陥ります。そうでなくても、長年の医療費抑制政策で医療現場は慢性的な人手不足に悩まされています。

医療インフラが脆弱化しているところに、新型コロナウイルスがおそいかかってきて、私たちにとっては正念場であったところに、今回の休校要請が来ました。受け皿となる医療機関が機能不全となれば、多くの助かるはずの命が失われてしまいます。少しの想像力があればわかるはずです。周囲に進言する人もいないのでしょうか。場当たり的な政策に憤りさえ覚えます。


――安倍首相は、今回の休校について「子どもたちの命を守るため」とアピールしています。私はそれよりも、リアル濃厚接触の満員電車を何とかして欲しいと思いますが。大人に対して呼びかけているのは、テレワークや時差通勤、あと手洗いくらいでしょうか。



木村:テレワークや時差通勤を利用できる方はぜひ利用して欲しいと思います。ただ、そういったことを取り入れられる社会人はほんの一部でしょう。

私はテレワークや時差通勤ができない職種の人を心配します。たとえば、私のクリニックには自営業の方がよく来られます。見るからに体調が悪く、熱もありそうですが、インフルエンザを疑って検査をしようとすると断られます。「検査で陽性になったら仕事がなくなってしまう。熱を下げる薬をくれるだけでいい」というのです。なかには「熱があるのを見ちゃったら仕事にならない」と熱を測らない人さえいます。一人で仕事を請け負う方も多く、休むと収入がゼロになってしまう、といいます。非正規社員の方やパートの方も同様でしょう。

マレーシアでは、今回の新型コロナウイルスを受けて、早々と休業補償の制度を打ち出しました。韓国も入院するなどして会社を休んだ人への生活支援を打ち出しました。

日本でも一斉休校にともなって休んだ保護者に対して賃金を補償する制度が発表されましたが、自営業者やフリーランスは除外されています(3月3日現在)。そもそも新型コロナウイルスにかかった人には休業補償はありません。安心して休める環境がなければ、感染がますます広まってしまうと憂慮しています。


――今後、懸念されることは何でしょうか。


木村:先ほど申し上げたように、医療機関が機能不全に陥ってしまわないかが心配です。

クリニックで検査体制を整えることは急務ですが、今後可能になった場合、ごく軽微な症状であるにもかかわらず「心配だから念のため検査をして」という人が次々にやってくるでしょう。マスクを買うための長蛇の列やトイレットペーパーを買い占めようと人を押しのけている現状を見ると、もうパニックは始まっていると恐ろしくなります。

検査への声が日に日に高まっていますから、クリニックで検査が可能になったとたんに希望者が殺到すると、医療機関は機能不全に陥ります。重症者に手が回らなくなり、結局、弱い人たちが犠牲になってしまいます。ウイルスよりもパニックに陥った人たちが重症者を増やすような事態だけは絶対に避けねばなりません。

まずお一人お一人にお願いしたいのは、症状が軽微であるなら経過観察、体調が悪ければ休む、いつもと症状が違うなら受診、を徹底していただきたいということです。職場で休んだ方がいたら、「困ったときはお互いさま」の気持ちで接してください。

会社や学校の経営者にお伝えしたいのは、出勤させるために、あるいは休ませるために、陰性証明書や治癒証明書、出勤(登校)許可証といった書類、診断書の提出を条件とすることのないようにしてください。陰性は非感染の証明でないばかりか、これらの書類の発行作業は診療業務を著しく妨げます。


――私たち一人一人ができるのは、とにかく体調が悪ければ休む、休んだ同僚がいればフォローし合うということですね。今回の新型コロナウイルスの広がりで、木村さんが訴え続けている「体調が悪ければ休む」が浸透しそうです。


木村:今回、新型コロナウイルスが風邪の症状と似ている症状を呈することも知られるようになったことで、体調が悪ければ休む、ということがあちこちで聞かれるようになりました。皮肉なことではありますが。

私は2009年から「体調が悪ければインフルエンザであってもなくても休もう」と発信しています。少しずつ浸透してきたかと思いますが、一方で反省もあります。「体調が悪ければ休もう」と言うだけでは解決策にはならないからです。現実的に休めない人たち、休むと収入がゼロになってしまう方々をどうすればいいのか、この機会に私も含め、多くの人で議論し知恵を出し合っていけたらと思っています。

「体調が悪ければ休む」を浸透させるためになにができるのか。今回の書籍もその試みの一つです。今後も当たり前のことが当たり前の社会となるよう、より具体的な方策を考えていきたいと思います。

木村知病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』の詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321902000140/


木村 知

1968年カナダ生まれ。医師。総合診療、在宅医療のかたわら執筆活動を行う。Twitter@kimuratomo

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