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特集

――ぼくばぼくで、いいんだった―― 『フンころがさず』発売記念インタビュー

自己肯定感を育む絵本として話題の『フンころがさず』を発売された、絵本作家・大塚健太さんと、絵を担当された高畠純さんに、『フンころがさず』に対する思いや、ご自身の子ども時代のことなどお話しをうかがいました。

※この記事は、ヨメルバ(https://yomeruba.com/)掲載の【――ぼくはぼくで、いいんだった―― 『フンころがさず』発売記念インタビュー ①大塚健太さん】及び【“ぼくってなんだろう?”──自己肯定感を育む絵本 『フンころがさず』発売記念インタビュー② 高畠純さん】をまとめたものです。

名前や呼び方が、ずっと気になっていた


――まずはじめに、大塚さんが『フンころがさず』を思いつかれたきっかけを教えてください。


大塚:もともと、モノや動物の「名前」に興味があったんです。「どうしてこんな名前がついたんだろう?」とか「この名前をつけた人はどんな気持ちでつけたのかな?」とか。あるいは「この名前をつけられた本人はどう思ってるんだろう?」とか。

とくに生き物はヘンな名前や、おかしな名前が多くておもしろい。「トゲナシトゲトゲ」とか、「スベスベマンジュウガニ」とか、もうちょっと気のきいた名前はなかったのかなって思うし、「ナマケモノ」とか「アホウドリ」とかも、本人からしたらいい迷惑かもしれない。そんなことをよく想像していたんです。

で、フンコロガシも、まあ俗称のようなものですが、ヘンな名前だなあと。「そのまんまじゃん!」とも思うし、「フンころがしてるからフンコロガシでいいや」みたいな適当感もただよっている。

私も昔、アルバイトをしていた時に上司にあたる人から、「ねえ、バイトくん!」とか「おい! そこのメガネ!」なんて呼ばれ方をしたことありますけど(笑)、そのたびに、「適当に呼んでんじゃねぇよ!」とか「いやいや、メガネはオレを構成している一部だし! 今メガネ取ったら、それでもお前は『そこのメガネ』って呼ぶのかい!?」とかツッコミを入れていたんです。心の中で。

フンコロガシも本人は「フンをころがしてるだけじゃねぇし!」って思っているかもしれないなと。そして、もしフンをころがさなかったら、それでもフンコロガシはフンコロガシなのか、名前が変わってしまうのか……とかいろいろ考えていたら、おはなしの骨格が見えてきた、という感じです。



高畠純さんの絵が大好き!


――高畠純さんの絵について、大塚さんがお願いした動機と仕上がった絵をご覧になったときの感想をおしえてください。


大塚:お願いしたいなと思ったのは、高畠純さんの描く絵が大好きだからに他なりません。とくに動物の絵が好きです。生き物たちの表情がとても素敵だなぁと思って、絵本作家になる前から、いつも見ていました。なんというか、記号としての動物じゃなくて、そこにしっかりと心が通っているというか。

「こんな顔してるけど、心の中じゃちがうことを思ってるんじゃないかな」とか「この動物は、ライオンの前と、シマウマの前じゃ見せる顔が違うんだろうなぁ」とか、いろいろと想像がふくらむんです。だから高畠さんとご一緒できるとわかったときはとてもうれしく、家族も喜んでくれました。

絵を見たときは、感動の一言。イメージや構図は私が思い描いていたものとびっくりするほど一致していて、さらに私が思いもつかないような色使いや演出を高畠さんが加えてくださって、本当に感動しました。


主人公がさまざまなフン遊びを想像する場面。


結論を急がず、絵本全体に遊びがある


――大塚さんの原稿を、初めて読まれたときの感想をお聞かせください。


高畠:絵本としてのテキストを、きちんと15画面に書き分けてありました。

これは、画面を想像しながら作業を進められたと感じました。

誰でもですが、まず作者が何を伝えようしているのかをつかみます。

その内容がはたしてぼくの絵で表現できるのか、作に共感できるかが大切なところです。

自己肯定がテーマであれば、ややもするといちもくさんに、自分は自分でいい、と結論を急ぎたくなるのですが、この絵本では、フンコロガシがフンなげとかフンふんづけとか、ほかのフンコロガシになることを想像する場面がでてきます。この場面があるから絵本全体にゆとり、遊びが感じられます。後半キツツキと出会うことにより、自分を見つめなおすのですが、それは心ゆさぶるきっかけであると思います。

そのとき心軽やかになったフンコロガシ。

でも、ひょっとしてまた落ち込むこともあるでしょう。

なので、絵本でありがちな、「あーよかったね、フンころがしくん」とみんなにこにこの画面は逆に嘘っぽくなるでしょう。

独立心のあるフンコロガシにしたいと思いました。

フンコロガシといえども、ここでは人間の気持ちを表すのですから。


――本作で好きなシーン、こだわった点はどこですか?


高畠:フンコロガシがさまざまなフンコロガシに変身する場面は描いてておもしろいところです。ただ、絵本は連続性を持っていますので、一概にこの場面が一番好きとはいえないところがあります。前後の関係から場面は設定されますから。

絵を描く際は、まず図鑑や資料でフンコロガシを探るのですが、いまいちよくわからないところが出てきます。そのとき、フンコロガシの本物を見たい、見なきゃと思い、奈良市に糞虫館があることを知りました。

フンコロガシ、やはり代表格はアフリカにいるスカラベでしょう。

それが、この糞虫館にいたのです。

糞、もちろんころがしていました。

後足で器用に、思ったよりも速くころがしていました。スカラベの目はどこにあるのか、口先の特徴、脚の付き方など、見るところはいっぱいあります。

それでも初めて描くフンコロガシですから、絵本としてのキャラクターの形をあーだこーだ描いてみました。

色はほとんど黒一色ですから、その黒の調子の模様もヒントになるところを探ります。ま、そんな感じで描いていきました。


糞虫館のスカラベ。これを参考に描かれた絵が作中に登場する。


日常のワクワクを見逃さない


――絵本を作られる際に、たいせつにしていることは、どんなことでしょうか。


大塚:たとえば水たまりを見たときに、「あそこに入ってジャブジャブしたいなぁ」とか、横断歩道を渡るときに「白いところだけを踏んで渡りたいなあ」とか、そういう気持ちは大切にしたいと思っています。まあ、気持ちだけじゃなく実際に、水たまりに入ったり、白いところだけ歩いて横断歩道渡ったりしてるんですけどね。周りはいい迷惑かもしれません。

日常には、小さなワクワクすることがたくさんあって、それを見逃さないように気をつけています。


高畠:フンコロガシを決してリアルに描くわけではありませんから、それらしく感じるにはどこをおさえて、どこを自由にしていいか、どう嘘を描くかが大切かと。


――最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。


大塚:絵本の感じ方は人それぞれ。ワクワクだったり、ドキドキだったり。はたまたヒヤヒヤだったり、ゾクゾクだったり。ときにはズキンかもしれないし、ヒリヒリかもしれない。また最初に読んだときと、2度目に読んだときではまったく違う気持ちがわき上がるかもしれません。どう感じても、そのどれもが大切な自分の気持ち。「絵本って面白い」と思ってもらえたら、作者としてとても嬉しいです。そのためにはまずは私自身が楽しんで書いていきたいと思います。


高畠:絵本は1冊1冊メッセージが異なるし、描いていると何か、どこか発見します。読者のみなさんはぜひ絵本の画面、また言葉を感じ取っていただけたらと思います。


――どうもありがとうございました。“自己肯定”という一見するとシリアスなテーマですが、おふたりの手により、生き生きと楽しく描かれており、まるでその世界に入り込んだ気持ちになります。子どもへの読み聞かせでは、ぜひ、いろんな“フンあそび”にチャレンジしてみてください。


左:大塚健太さん、右:高畠純さん


大塚 健太(おおつか・けんた)

埼玉県出身。絵本や紙芝居のおはなしのほかに、脚本なども執筆している。絵本に『いちにちパンダ』『よるだけパンダ』『カピバラせんせいのバスえんそく』、『おにゃけ』『でんにゃ』『虫にんじゃ』『おかえしおかえし』など。https://otsukakenta.com/

高畠 純(たかばたけ・じゅん)

『だれのじてんしゃ』(フレーベル館)でボローニャ国際児童図書展グラフィック賞、『オー・スッパ』(講談社)で日本絵本賞、『ふたりのナマケモノ』(講談社)で講談社出版文化賞絵本賞受賞。

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