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特集

アイ・ウェイウェイとの10時間――闘う美術家の来日に同行して

アイ・ウェイウェイへの11の質問



――Q1.思い出や個性を封じられた時代を経て、「忘れたいものを敢えて思い出して書く」というのは、大変な苦労を伴ったと思います。執筆がどのようなものだったかを教えてください。

A1.考古学のように、記憶や歴史を丁寧に掘り起こさなければなりませんでした。私自身のためだけでなく、家族のため、私たちが住む国、そこに住む人々、そして私たちが出来る限りやってきたことの遺産でもあります。


――Q2.父とともに文化大革命で追放された先で、何の物資もない生活の中、オイルランプを手作りしたり、なんの変哲もない枝を磨き上げて杖のように仕立て上げるなど、父子でなんとか物を生み出そうとした逸話が、感動的です。幼いころのこの経験が、のちのクリエイティブのヒントになっているのでしょうか。

A2.はい、そう思います。人はだれでも創造力をもっています。当時は苦しい生活を生きぬかなければならず、限られた資源を効果的に活用しなければなりませんでした。必要性は、しばしば美の感覚をもたらしました。今日の美学教育とは違います。現在の教育システムの中では、学生たちは生きるために苦闘する必要がありません。ただテクニックをマスターしたいだけでは、作品に説得力が出ません。


――Q3.このメモワールでは、父と息子の絆、女性たちのもたらすパワー、芸術を通じ育まれた友情が印象的です。こういった絆が、世界の現実を変えていくことに対して、ポジティブな気持ちはどれくらいありますか?

A3. 個人が必死で生き延びようとする環境で、家族の絆、血縁、友情は、唯一説得力を持つものです。私たちは動物と同じ、生身です。大概人はこのことを忘れていますが、それでは最大の財産を放棄していることと同じです。


――Q4. 都市と田舎、国ごとの体制の違いも非常に重要な読みどころです。アートにおける、土地の果たす役割についてお伺いしたいと思います。

A4.個人財産としての土地は、生き残るための拠り所でした。種まきと収穫への期待、生命の想像力を具体化し、確かな倫理の基礎であり、農業史を通じ、我々が生まれ持つものが土地です。1949年、中国共産党が権力を握ると、彼らはまず個人所有地を国家所有に変え、最も貧しい農民たちを取り込みました。搾取によって、土地の個人所有を廃絶し、何千年かけ形作られてきた道徳も文化も、抹殺されてしまったのです。


――Q5.時代の進化の中で置き去りにされ、犠牲にされる弱者に向けたアートは、人が立ち止まって現実を捉え直すのに、非常に重要な役割を果たしていると思います。ウクライナ侵攻が泥沼化する中、今現在、構想されている新しいアートについて、お伺いできますか?

A5.私には計画はありません。私のアートはたいてい、ある時点で自然に沸いてくるものなのです。


――Q6.現代のアーティストに必要なのは団結でしょうか、それとも個人の闘いでしょうか?

A6.今日のアーティストには、団結も個人の闘いも必要ありません。アートは種子のようなものです。いくつかは発芽するでしょうが、他の種子に合わせて発芽するわけではありません。全ての種が、地に落ちたときに発芽するわけでもありません。つまり団結も個人の闘いも、いずれも意味がありません。


――Q7.「今でも起きた瞬間に怒りを感じることが多い」と聞きました。その中でも、達成や幸福を感じる瞬間は、どのような時でしょうか。

A7.達成感や幸福感は私の闘いの一部です。私は、自分がすることに満足していません。なにか本物を成し遂げたとも思っていません。ただ、この人生を無駄に生きたり、自分ができること、人助けをしないで生きたりすべきではない、と感じています。


――Q8.今後、自分や自分の家族が住む国は、どのような国であってほしいと思われますか?

A8.私は自分のためにどんな国であってほしいかは重要ではないと、何度も証明しています。私は逆境を生きぬくことができます。外国人でもよそ者でも、あるいは自国の罪人であってもそれはかわりません。跡を継ぐ人や一般の若者に伝えたいのは、自分たちの環境を改善することをあきらめないでほしい、ということです。


――Q9.今回の自伝執筆を通し、父・艾青についての理解が変わったと思います。また父という存在が息子にもたらす意味を教えてください。

A9.父の経験は波瀾万丈で、現実味が薄く感じられるでしょうが、これはまったく事実です。彼が経験した栄誉と屈辱、そして賞賛は、父が詩人以外の何者でもないことをあらためて私に教えてくれました。彼は父親として、責任すら果たしていません。それでも彼は、実在する一個の人間なのです。


――Q10.息子さんはとてもチャーミングです。ともに旅することで、アイ・ウェイウェイさんは、自分には封じられた「思い出」を息子さんに残そうとしているのだと思いました。これから一緒に旅をしてみたいところを教えてください。

A10.私はしばしば息子の艾老と旅行をします。一つは、私がいつ消えてなくなるともわからず、二人の時間が短すぎるため。もう一つの理由は、私の世界を息子に共有してもらいたいからです。息子にはまったく関係ないかもしれず、この幼さで私の世界など理解できないかもしれませんが、二人でいる時間が、私がいなくなったあとも彼の人生を助け、自信を与えると感じるからです。


――Q11.コロナ禍での生活はどのようなものだったかお伺いできますか?

A11.コロナ禍で、人類は多くの悲劇を目の当たりにしました。最も悲惨なことはウイルス自体ではなく、むしろ人々の動揺、政府や医療制度、そして私たちの未来に対する不安がもたらしたものでした。この不確実性と孤立の感覚が、私の芸術創作のベースであり源泉です。このパンデミックの中、私は多くの芸術作品を生み出し続けました。

プロフィール


艾未未 アイ・ウェイウェイ

1957年、中華人民共和国の北京に生まれた。80年代初期からアメリカ合衆国に住み、93年に北京に戻った。2015年からはヨーロッパ在住。人権と言論の自由を主張するアーティストとして、世界で作品が展示され、ソーシャルメディアでも活躍する。代表的な展覧会は、カッセルの「ドクメンタ12」での『童話』(2007年)、ロンドン、テート・モダンの『ひまわりの種』(2010年)、ベルリン、マルティン・グロピウス・バウでの『Evidence(証拠)』(2014年)、ロンドン、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの『艾未未』展(2015年)、エルサレムのイスラエル博物館での『Maybe, Maybe Not』(2017年)、イスタンブールのサークプ・サバンジュ美術館での『Ai Weiwei on Porcelain(アイ・ウェイウェイと磁器)』(2017年)、ニューヨークでの『Good Fences Make Good Neighbors(よい垣根はよい隣人をつくる)』(2017~2018年)、ブラジル、サンパウロのOCAでの『Raiz(ルーツ)』(2018年)、ロンドン、ピカデリーサーカスでの『CIRCA 20:20』(2020年)など。長編ドキュメンタリー映画に『ヒューマン・フロ ー 大地漂流』(2017年)や『コロネーション』(2020年)などがある。人権財団から創造的反体制に対する「ヴァーツラフ・ハヴェル賞」、アムネスティ・インターナショナルから「良心の大使賞」(2015年)、「高松宮殿下記念世界文化賞」(2022年)など、複数の受賞歴がある。

艾未未著・佐々木紀子訳『千年の歓喜と悲哀 アイ・ウェイウェイ自伝』



千年の歓喜と悲哀 アイ・ウェイウェイ自伝
著者 艾未未訳者 佐々木 紀子
定価: 2,970円(本体2,700円+税)
発売日:2022年12月01日

詩人の父、美術家の息子。運命に翻弄された父子を通して見る中国の百年。
父は詩人だった。中華人民共和国の設立に関わった芸術家だったが、私が十歳の時、文化大革命により父は追放された。家族は屈辱にまみれた極貧生活を余儀なくされた。父の名誉が回復されるには十二年の歳月が必要だった。砂漠地帯から戻り、北京電影学院の学生となった私は、当局との攻防に嫌気がさし、それまで国交を絶っていたアメリカに留学する千載一遇のチャンスを捉え、ニューヨークに移り住んだ。美大に通い自由を満喫した私だったが、北京に戻り活動を始めると、再び公安局員が訪れるようになった。スイスの建築家と北京五輪スタジアム「鳥の巣」を手掛け、ネットで積極的に発信するようになると、公権力の介入は激しくなり、ついに私は投獄されてしまう--。権力の弾圧を受ける詩人の父、美術家の息子。闘う二人の芸術家を通し、激変する中国の現代史を描いた、感動の自伝。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322107000036/
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