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特集

【「かつくら」presents】祝!『バチカン奇跡調査官』TVアニメ化! 藤木稟インタビュー

取材・文:「かつくら」編集部 

TVアニメのアフレコ収録に立ち会うために上京されていた藤木稟先生を直撃! 単行本第一作の刊行から今年で十年となる〈バチカン奇跡調査官〉シリーズについて、キャラクターの誕生秘話や執筆の思い出など、たっぷり語っていただきました。
<本インタビューは小説ファンブック「かつくら 2017夏号」(発行:桜雲社)に掲載されたインタビューの冒頭を転載したものです>

── : 〈バチカン奇跡調査官〉シリーズのTVアニメ化、おめでとうございます!

藤木: ありがとうございます。この作品はアニメにしづらいだろうなと思っていたので、お話をいただいたときは、にわかには信じられませんでした。

── : アニメにしづらいだろうと思われたのは、主に事件内容の問題で?

藤木: 事件の内容もそうですが、なんといっても薀蓄が長いので。アニメは小説と違って尺が決まっていますから、セリフのどこをどう切るのかという問題があるじゃないですか。だからアニメ化が決まったときも、どんな演出になるんだろうと思って、楽しみ半分、怖いの半分という気持ちでした。

── : アニメの制作にはどの程度関わっていらっしゃるのでしょうか。

藤木: 絵コンテを見せていただいたり、声優さんのオーディションテープを聞いて感想程度の意見をいわせていただいたりはしましたが、基本は作品をお渡ししただけですね。あとはすべてお任せしています。

── : 小説を書くときは映像で思い浮かんだものを文章に書き起こしていらっしゃるそうですが、キャラクターの声もわりと具体的なイメージがありましたか?

藤木: そうですね。声に関してすごく意識しているかといわれるとそんなことはないんですが、平賀やロベルトがしゃべっているときは、二人の声を頭のなかで再生しながら書いているので、一応「この人はこういう声」というイメージはあります。今回、平賀とロベルトはそれぞれ候補の声優さんが何名かいらっしゃって、「どなたの声がイメージに近いですか」と聞かれて選ばせていただいたんですが、二人ともイメージにぴったり重なった方にお願いすることができたので、よかったなと思っています。

── : 昨日は第一話のアフレコを見学されたのですよね。

藤木: はい。小説とアニメなんてまったく別の媒体でしょう。だから本当に違うものを見るような気持ちで、単純にすごいなと思いました。絵や声がつくとこんなふうになるんだと、とても新鮮に感じましたね。

── : これまでにアフレコというものをご覧になったことはあったのでしょうか。

藤木: いいえ、ありませんでした。だから本当に初めての体験だったんです。声のトーンだったり口調だったり、一つ一つのセリフをこんなに気を遣ってしゃべっていたんだとか、ここはそういう解釈になるんだとか、非常に興味深かったです。何テイクかやり直したシーンもあったんですが、音響監督の言葉でパッと演技が変わるのを見て、本当にすごいなと驚きました。なんというか、プロのお仕事を見せていただいた気がしましたね。あと、皆さんとても爽やかな方でした! 一話目はまだ薀蓄を語るようなシーンがなかったんですが、今後はそういうシーンも出てくると思うので、すみません、よろしくお願いします、という気持ちです(笑)。

── : アニメで特に期待していること、楽しみにしていることを聞かせてください。

藤木: 先ほども申し上げましたが、やはり媒体が違うので、新しいものが見られることを楽しみにしています。そのうえで、自分の今後の創作に刺激をもらえたらうれしいなと思っています。

── : 〈バチカン奇跡調査官〉という作品は、キリスト教に興味が湧いて、これを小説で書いてみたいと思ったことから生まれたそうですが、そもそもキリスト教に興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか。

藤木: 最初のきっかけは聖書です。聖書って、どこへ行ってもホテルなどに泊まると置いてあるじゃないですか。それであるとき、これだけ多くの人たちに読まれるのはなぜなんだろうと思いまして。聖書の文章って、正直なところ読みやすくもわかりやすくもないでしょう。でも、これだけ大勢の人たちが魅せられている。ということは、聖書にはなにか特別な魅力があるのだろうと。

── : 聖書を読む人々が、聖書のどんなところに魅かれているのかを知りたいと思ったのですか?

藤木: クリスチャンは、聖書の文章のどこをどう咀嚼して信仰に至っているんだろう、ということに興味が湧いたんです。なにせ世界を二分するような大宗教ですから。

── : キリスト教のなかでもカソリックの総本山であるバチカンを取り上げようと思われた理由を教えてください。

藤木: ヒトラーがナチスを作るときにバチカンの構造を真似したという話を読んだことがありまして。ヒトラーは、あれこそが組織として長く続く構造なんだといっていたらしいんです。実際、これだけ長い間組織として機能し続けているのはすごいことだと思いますし、キリストの奇跡と呼ばれるものを科学調査するという、海外の特番をたまたま一度見たときに、それがすごくおもしろかったこともあって、バチカンの話にしようと思いました。

── : バチカンはその性質上開示されている情報も限られているでしょうし、仕事内容や組織の構造を調べるのも大変だったのでは?

藤木: そうですね。文献を読んだりバチカン放送を見たりして、可能な範囲でいろいろ勉強しています。でも、わからないところが多いからフィクションにしやすい、書きやすいというのもあるんですよ。

── : 「奇跡調査官」という言葉自体は藤木先生の創作だそうですが、手続きや調査方法などは番組でご覧になったことをベースに考えていかれたのですか?

藤木: ベースはそうです。そこから、科学調査を担当する人と伝承的な面の解釈をする人とを組ませたら話が広がるかなと思って、二人一組で調査する形にしました。なので、最初に奇跡調査の話にしようと思ったときから、二人組というのは決まっていたんです。あと、ローレンも当初からいましたね。結局、あり得ないことが起こるわけなので、情報技術のエキスパートもいなければ調査しづらいだろうと思って、現代風の凶悪ハッカーを一人噛ませておくことにしました。だから、いうなればトリオなんです。

── : 主人公の平賀とロベルトはほぼ同時にできたそうですが、二人はどんなことを意識して作ったのでしょうか。

藤木: 二人組なので、専門分野だけでなく性格にも違いを出したいなというのがありました。それで、平賀はあまり人と関わることがない淡々とした科学者タイプ、ロベルトは民族や文化といった類に関心があるくらいですから、人にも興味がある社交的なタイプになりました。ビジュアルに関しては、具体的に誰かモデルがいるというわけではないんですが、イタリアの美男子コンテストとかを画像検索しながら、なんとなくイメージを固めていった気がします(笑)。

── : 平賀は科学者としては天才なのに、どこまでも純粋かつ天然で、だいぶ頑固なところがありますよね。そういうタイプのキャラクターは、時に作者の思い通りに動いてくれないこともありそうですが、実際はいかがですか?

藤木: 平賀についてはあまりそういうことはないように思います。そこはロベルトも同じですね。平賀とロベルトは自分のなかでだいたい造形ができあがっているので、書いていて困ることはありません。悩むことがあるとしたら、新しい人が出てきたときにどう絡めたらおもしろいか、というところだと思います。平賀という人は非常に執念深い男なんですよ。彼は頭がいいから天才なのではなく、あの執拗な性格によって天才になっているんじゃないかと思います。

── : 確かに好奇心と執念深さから学問を究めていったところはありそうです。

藤木: 自分が疑問に思ったことは徹底的に追究しますからね。そういうコツコツとした努力家的な面があるのは、書いていておもしろいです。

── : そんな平賀なので、思う存分調査することができなくなったとき、彼が悲しげに「残念です……」と呟いたりすると、どうにかしてあげたくてたまらない気持ちになります(笑)。

藤木: 本当に純粋好奇心のかたまりみたい人ですからね(笑)。だけど、か弱そうに見えて、ピッケルを持って山肌を調査するような根性のある男でもあるんですよ。

── : ただし、彼は自分の体力のなさを考慮せずに行動するので、ロベルトはしょっちゅうやきもきしていますが(笑)。そのロベルトも平賀と同じく紛れもない天才ですが、こと信仰面においては自分を信じきれていないところがあります。

藤木: これはあくまで私の考えなんですが、人間というのはなにかの信仰に至るときに、ただひたすら盲目的に信じるだけではあまり価値がないように思うんです。そういうものよりも、迷いのなかからその道を選び、自分の意思で歩いてこそ、本当の信仰になるんじゃないかなと思っていて。ロベルトは、そんなところをうまく出せるといいなと思いながら書いています。

── : そのあたりは平賀では書けないところですね。

藤木: はい。ロベルト自身は平賀の清らかで揺らぎのないところを崇拝していますが、私としては、迷いながら信仰の道を歩くロベルトを書くのも楽しいです。

── : 小食なうえに放っておくと食べることを忘れてしまう平賀を気遣い、ロベルトはたびたび美味しそうな手料理を振舞ったり、食事に誘ったりしています。ロベルトの料理シーンはシリーズのお楽しみの一つですが、あのメニューは藤木先生のレパートリーでもあったりするのですか?

藤木: レパートリーというわけではありませんが、わりとなんでも作るほうではあるので、ロベルトが普段作っているものに近いものは作っていますね。ロベルトに料理をさせるときは少ししゃれたメニューにしないといけないので、この時期の旬でおしゃれな野菜にはなにがあるだろう、といった感じでいつも料理を考えています。

── : ランチでもディナーでも彼らがごく当たり前にワインを飲んでいるのも印象的です。

藤木: 向こうはミネラルウォーターよりもワインのほうが安いので。本当は、聖職者は水で割ったワインを飲むようなんですけど、そこを詳しく書いても別におもしろくないかなと思うので、普通にワインを飲んでいます。

── : 先ほど平賀とロベルトは書きながら困ることはないとおっしゃいましたが、それは個々ではなくコンビとして書くときも同様ですか?

藤木: そうですね。三巻くらいまでは二人をどんな感じで絡ませるかが定まっていなかったために、後々矛盾したようなところも出てきてしまったんですが、いまはもう平賀がこういえばロベルトはこういうだろうというのが自分のなかにあるので、書いていて迷うことはないです。

── : 二人を書いていて特に筆が乗る場面を教えてください。

藤木: 二人でご飯を食べながら薀蓄を言い合っているときが一番楽しいです。そうだよな、おもしろいな、と思いながら書いています……自分のことで恐縮なんですけど(笑)。

── : あれだけの薀蓄を書くとなると、下調べは相当大変なんじゃないかと思うのですが。

藤木: どんな事件にするかということを起点に、それに見合った文献や資料を探していくんですが、下調べ自体は大変といえば大変ですね。でもそこまでいってしまえば、あとは平賀とロベルトにしゃべらせるだけなので、もう詰まるようなことはありません。

このロングインタビューの続きは「かつくら2017年夏号」でお楽しみ下さい。
「かつくら」の最新情報は「かつくら」twitter @katsu_kuraでcheck!


藤木 稟

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