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特集

「コロナでアニメを嫌いになった人はいない」子ども向けアニメがクールジャパンのカギ

取材・文:もぐもぐ 

世界のオタクイベントが中止を余儀なくされていますが(前編)、動画配信サービスの隆盛もあって、日本のアニメ作品は変わらず世界で人気を博しています。IOEA国際オタクイベント協会)代表の佐藤一毅さんと、ロシア出身でIOEAのスタッフとして働かれているマリナさんに、2020年のオタク事情を聞きました。

動画配信サービスの存在感が増した2020年


――前編で「コロナでオタクの行動はあまり変わらない」とお話しされていましたが、その中でも何か気がついた変化はありませんか?


佐藤:まだ大きな変化はありません。もちろんイベントはオンラインへシフトしていく傾向にありますし、そのなかで動画配信サービスの存在感は大きくなっています。

 とはいえ、この状況になってまだ半年。今ほとんどの人がまだいろいろなことを我慢している段階なので、ここからさらにもう一段階進んでくると、新しい形を探す方向へと行動も変容していくのではないでしょうか。


――そのあたりは国内外で変わらないでしょうか。2020年夏現在、特に海外で勢いがあるコンテンツとしては、どういった作品が挙げられますか?


佐藤:2019年から世界中で流行っている作品といえば、やはり『鬼滅の刃』です。鬼滅の存在感が大きすぎて、連載が終了した今でもまだまだ余韻が残っています。直近だと『進撃の巨人』が出てきた時と同じくらいの勢いを感じます。仮にコロナが無かったとしても、2020年は鬼滅を超える作品は出てこなかったのではないでしょうか。特に海外のオタクには、日本っぽさ、和の雰囲気が感じられるところがウケているみたいですね。


マリナ:ロシアのコスプレ界でも『鬼滅の刃』はすごく流行っています。


画像

鬼滅の刃のコスプレをする海外のコスプレイヤー(マリナさん提供)


――日本でも、アニメ放送後にAmazonプライムやNetflixの配信で見たという人が多かった気がします。作品にアクセスしやすい状態が整っているというのも、海外でヒットした理由のひとつなのかもしれませんね。


佐藤:海外の方は、アニメを見てからマンガを知るパターンが多いですね。そこから作品について調べて、「どうもマンガはアニメよりもストーリーがずっと先に進んでいて、もう連載も終わっているらしいぞ」と知るという。


――逆に海外発のコンテンツで流行の兆しがあるものはありますか?


佐藤:韓国のマンガである“マンファ”(「漫画」の韓国語読み)はかなり勢いがあります。日本のマンガは紙のフォーマットありきですが、韓国のマンファはスマホで読むのがメイン、いわゆる縦スクロールの形態である「ウェブトゥーン(Webtoon)」が中心です。デジタル化とグローバル化のなかで、マンファはオタクに限らず世界で広く読まれています。


――韓国のウェブトゥーンは、翻訳版も多く見られますよね。日本語で無料で読めるものもいろいろあります。


佐藤:有志が個人またはチームで翻訳をして、それを評価するような仕組みがあって、広く発信されるような形になっています。ストーリーや絵は総じてまだまだ日本のほうがレベルは高いと個人的には思いますが、でもスマホでの読みやすさはマンファが圧倒的です。

 また、海外で見られるマンファのようなウェブ発のマンガはたいていカラーです。僕も、海外の方に「日本のマンガはなんで白黒なんだ?」って聞かれたら、たしかに「う〜ん?」ってなってしまいます。


――確かに……。「何で白黒なのか」なんて考えたこともなかった! 日本だと印刷を前提としたマンガのフォーマットがずっとあったので、カラーじゃないことが当たり前ですよね。


佐藤:海外だとずっとウェブ上やデジタルフォーマットでマンガを読んでいたから、紙のマンガを読んだことがないという人も結構いるんですよ。だからマンガに対する感覚って、日本人と海外の方ではかなりギャップがあると思います。日本人の多くは紙で読んでもその世界に自然に入っていけますが、海外の方ではかなり重度のオタクじゃないと、読むのが難しいと言います。

 海外にもアメコミなどはありますが、コマ割りが独特ですよね。マンガを読み慣れているつもりの日本人でも、いまいちつまらない、読みにくいと感じる人も少なくない。それはルールが違うから。よくマンガを評する際に「ストーリーは良いのに、コマ割りやテンポが悪いからだめ」という感想を耳にしますが、コマ割りやテンポがいい作品だったとしても、結局読む側にリテラシーがないと、どんなに流行っていても読まれないんです。


――そのあたりはアニメの方がユニバーサルなのかもしれませんね。


佐藤:そう思います。マンガだと、たとえば少女マンガの世界もコマ割りや情景描写に独特の文法がありますよね。僕自身も少女マンガをあまり読んでこなかったので、最初にマンガを薦められて読んで特に何も思わなかった作品が、映画やドラマになった時にはじめて「面白いじゃんこれ!」と感じた経験があります。

クールジャパンのキモは「子ども向けアニメ」


――現在、IOEAに登録のある150団体は、相互の情報交換なども行っているのでしょうか?


佐藤:今はまだアライアンスを組んで紹介しあうといった状況ですが、主催者だけが入れるBBSの準備を進めていて、そこで情報交換ができるといいなと思っています。

 イベントって、世界のどこでも大体5年目や10年目で同じような問題に直面するんです。5年目くらいでそれまで勢いでやってきた人が「このまま続けていけるんだろうか」と思い始めるタイミングがあるんですね。それ以外にもやっぱり皆さん共通する悩みも多いので、そういう時に同じ問題を乗り越えてきた“先輩”イベンターたちと解決策を共有し、参考になる意見を聞けたりする場をつくって、「僕たちはこうしたよ!」「わかる、そういう時期あるよね〜」というコミュニケーションが生まれればいいなと。イベントが長く続いていくためのコミュニティとして、IOEAが力になれるとうれしいですね。イベントに来ていた子たちが親になって、その子どもがイベントに来るようになるまで、各イベントには長く続いて欲しいですから。


――世代を超えていく、大事なことですよね。『海外オタ女子事情』で各国のオタクの方たちに取材をしていた時に、多くの人が子どものころにセーラームーンやポケモンを見た原体験があるからこそ、大人になってからも日本文化やオタクカルチャーへの興味、そしてアニメやマンガを読み解く「リテラシー」があって、主体的に好きになっていくのかなと感じたんです。

 今、アニメを見たい人への配信環境はかなり充実していますが、テレビでは子ども向けの日本アニメの放送機会が減ってきているそうですよね。「なんとなく」触れる機会が少なくなると、これからの世代はどうなっていくのかな? 何が入り口になりえるんだろう、と少し不安を感じました。


書影

劇団雌猫さんの著書『海外オタ女子事情』


佐藤:僕も同じ考えです。政府の「クールジャパン」の委員もしているんですが、そのような場で「進撃の巨人やセーラームーン、ドラゴンボールといった素晴らしい作品がたくさんあるけれど、本当の日本の宝は外国人にアニメやマンガの原体験を作っている『コロコロコミック』などの小さい子ども向けのマンガやアニメですよ」と伝えています。実際、『コロコロコミック』でマンガの読み方を学んだりしますからね(笑)。


――『コロコロコミック』!(笑) 確かに考えてみると、クールジャパン的に押し出されているのも大人向けのもの、大人に人気がある作品が多いですよね。


佐藤:クールジャパンの目玉にされがちなアニメ・マンガ作品は「今お金を払ってもらえるもの」が多いですよね。作り手も投資して回収することが目的なので、どうしてもお金を出す世代に向けて作ることになりがちです。けれども、日本のコミックやマンガみたいに幼児から大人まで全世代がずっと触れ続けているコンテンツって、世界的にも見当たらなくてすごいんです。


――『鬼滅の刃』はそれこそ大人から子どもまでみんな読んでますもんね。


佐藤:本当に! だから「ジャンプは正義」なんです(笑)。


――先ほど政府の委員もされているとおっしゃっていましたが、コロナの影響を受け、クールジャパン関連の方向性も変化していくのでしょうか?


佐藤:インバウンドへの影響が出ている以上、舵取りは考えなくちゃいけないですよね。何をもって、たくさんの国のなかから日本を選んでもらうかというところを、もっと深く考えなくてはならないと思います。

 21世紀に入ってから日本へのインバウンドがグーンと伸びて、これまでの投資が回収できるものと考えていたのに、今回コロナで足踏み状態になってしまった。そのため、観光はもちろん大事なんですが、たとえばマリナのように「日本で働きたい」と思ってくれるような人の裾野をどうやって広げるか。そのなかで、いかにクールジャパンというキャンペーンが貢献できるのかを、以前より深く考えています。

 そもそも、実はクールジャパンってお寺や日本画といった伝統文化的なものがメインだったんですよ。アニメやマンガもその範囲に入ってはいたものの、「やはりティーンエイジャー以上にはメインの文化的なものを推すべきなのでは……」といった雰囲気があったんです。でも僕は、将来的に日本文化をはじめアニメ・マンガコンテンツに親しんでくれる人を増やすためにも、子どもたちに作品を届けるのはとても大事だと思っています。なので、例えばすでに資金的には十分に回収を終えているような70年代の名作アニメなどを無料で世界中に配信してはと提案しています。「昔のアニメって今の子どもに受け入れられるの?」といった意見もありますが、実際、今6才の僕の子どもも、昔の『ハクション大魔王』や『忍者ハットリくん』を見て楽しんでいますしね。


――昔、日本のアニメが世界中で放送されていたのは、当時アニメの放映権が安かったからという経緯もありますよね。


佐藤:だから新作はお金を払って見てもらうにしても、旧作はどんどん世界に出したい。世界中でたくさんの人に見てもらうことが、日本のアニメ・マンガコンテンツの将来へとつながっていくんじゃないかなと思っているんです。


――今、中国もアニメ制作に力を入れています。アニメ映画でもこれまでの興行収入を塗り変えるような作品が出てきていますし、国を挙げてコンテンツ制作に力を入れているように思うのですが、こういった動きに対して、佐藤さんはどう感じていますか?


佐藤:危機感と歓迎する気持ちの両方があります。日本のコンテンツ業界にかかわる人間としては、強力なライバルが出てきているという思いがあります。でも世界のオタクをつなげるIOEAの佐藤としては、現状では中国のアニメは実質的に、日本人が作ってきたアニメの子どもたちでもあるなぁという思いもあって。


――日本のアニメ制作の考え方を引き継いでいるということですか?


佐藤:今の中国人スタッフの日本のアニメで育って、それ以上のものをつくろうとしているように感じます。そしてそこに日本的な考え方が浸透しているように感じていて。

 オリジナリティに対する考え方って国によってまるで違っていて、例えば日本では構成や構図へのオマージュは積極的に行われていますが、海外ではアイデアのレベルでも「これは俺が考えた俺だけのもの」っていう考え方が強い国もあります。天才が切り拓くのがクリエイションですが、日本の場合、誰かがひらめいたものに少しずつみんなが足しあって出来上がっていく。日本のアニメを見ていても、構図や体の動きも含めて、まったく見たことがないものってほとんど無いですよね。基本的には過去の資産を組み合わせて、少しずつ新しいものが足されていくといった感じです。

 今の中国のアニメはそうした考え方を引き継いだ作品だと感じます。海外のクリエイターが日本的な考え方・作り方でもってクオリティの高い作品を世界中で作ってくれているのはすごくうれしいですよね。

 商売としては「日本ピンチだな」と思ったりもするのですが、一人のオタクとしては世界中にジャパンカルチャーが広がっていくこと、それぞれの国で花開いていることを歓迎したいですね。


――国を超えて作られるようになった「日本のアニメ」……と考えると、新しい段階に入ったようにも捉えられますね。


佐藤:中国にも昔の人形劇みたいなテイストのものや中国チックなアニメも過去にはあったのですが、最近は明らかに日本チックなものが主流になってきています。最終的に、日本で流れているアニメが実は100%中国産だった、ということになってくるかもしれませんよ。

 でもだからといって、日本のクリエイターが作らなくなるということではないので、それで作品のバリエーションが増えてくれればいいんじゃないかなと個人的には思います。

 真似をされても、昇華して広がっていくならば、それはそれで良いことだと考えています。


佐藤 一毅

IOEA(国際オタクイベント協会)代表。 クールジャパン戦略を考えるCreate Japan ワーキンググループ委員も務める。

マリナ

IOEAスタッフ。ロシア出身のコスプレイヤーで、サンクトペテルブルクのオタクイベントであるAniConの発起人

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