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特集

テーマは「自衛隊の駆けつけ警護と日報問題」。第22回日本ミステリー文学大賞新人賞『インソムニア』

例年以上に最終候補作のレベルが高かったという第22回日本ミステリー文学大賞新人賞を射止めたのは、自衛隊の駆けつけ警護と日報問題をテーマに据えた社会派本格ミステリーでした。
選考委員の篠田節子さんも激賞した、受賞作の書き手に迫ります。

── : デビューまでの経緯と普段の執筆スタイルを教えて下さい。

辻: 小説の執筆と新人賞への応募は十年ほど前から始めました。これまで書いたものはどれもミステリーで、日本ミステリー文学大賞新人賞に応募したのもこれが二度目です。  普段は、食品メーカーに勤めるサラリーマンです。埼玉から東京の会社までの通勤に、電車で片道一時間ほどかかるのですが、主な執筆時間はその電車の中。スマホで書いています。それを週末などに推敲、清書するという形ですね。

── : 本作は、南スーダンのPKO部隊で駆けつけ警護の任に当たった陸上自衛官七名のうち、一人が現地で死亡、一人が帰国後自殺する、その背後には公表されていないなにか大きな事件があったらしいが――という筋書きです。社会的にも大きな話題となった自衛隊の海外派兵の問題、特に駆けつけ警護、それに日報問題をテーマにした理由は?

辻: 日報問題自体がミステリーというか、報道に接していた時から、日報そのものは出てきても、その背後にある〝真相〟は絶対に表に出てくることはないだろうなと思っていました。当事者たちが表に出てきて話をすることは現実問題として難しいわけですから。だったら書いてみよう。それを書くのがフィクションの役割だろうと思いました。しかもミステリー形式で。それが最初の着想でした。  ノンフィクションではないので、ある架空の状況における、こんなことも起こり得るかもしれないという私の想像ではありますが。

── : 本作のユニークな点のひとつは、現地でどんな事件があったのかという真相を、探偵役の視点からだけでなく、実際に任務にあたった自衛官五名の視点も交えて明らかにしていくというスタイルにあると思います。

辻: 当初は、メンタルヘルス官の神谷という人物を探偵役に、生き残った五名の自衛官から情報を集めて真相を推理するという構成で書き進めていました。ミステリーとしては王道ですよね。  ただ、書いているうちに、自分はもっと隊員たちの内面に踏み込んで書きたかったんだ、ということに気づいたんです。そこで全体の構成を見直して、七人の視点人物による物語に、頭から書き直しました。  ですが、隊員の心情を書くとなると、彼らは当然、事件の真相を知っているわけですから、素直に書けば、すぐにネタバレになってしまう。どこを書いてどこを省くか、読者に対してできるだけアンフェアにならないよう、自分なりに配慮したつもりです。選考委員の若竹わかたけ七海ななみさんが「現在の『藪の中』を描くのにこれ以上の舞台設定はないだろう」と仰ってくださいましたが、まさに自分自身も『藪の中』の型を使って描きました。  応募の〆切も迫っていたので、視点の変更は大きな賭けではありましたが、こうして受賞もできましたし、なんとか上手くいって良かったです(笑)。

── : 自衛隊の内部事情や現地での活動などがきっちりと描きこまれていましたが、辻さんは軍事関係にお詳しいのでしょうか?

辻: いえいえ、全く。軍事オタクなんてことはありません。資料で一生懸命に勉強しました。

── : 受賞作は新人らしからぬカッチリとした硬質な文章が特徴です。これまで読んでこられた小説の影響があるのでしょうか?

辻: 今回は特にテーマがテーマなだけに、硬めの文章になっているかもしれませんね。執筆中は月村つきむら了衛りょうえさんや福井ふくい晴敏はるとしさん、神家かみや正成まさなりさんなどの作品を読んでいました。その影響もあるのかもしれません。  他に好きな作家は、藤原ふじわら伊織いおりさん、今野こんのびんさん、佐々木ささきじょうさん、横山よこやま秀夫ひでおさんなど。海外作家だと、フレデリック・フォーサイスやローレンス・ブロックなどでしょうか。

── : やはり硬派な男性ミステリー作家がお好きなのですね。さて、今後の執筆のご予定は?

辻: いまは「ジャーロ」に掲載してもらうための短篇——といっても百枚ほどはありますが——に取りかかっている最中です。  今後もやはりミステリーを書いていきたいですね。といっても本格ミステリーのようなものではなく、受賞作のように、まずテーマありきで。描きたいテーマに合うようなトリックや舞台、登場人物で読者の方々に楽しんでいただけるようなものを、と思っています。


辻 寛之

1974年富山県生まれ。埼玉県在住。2018年第22回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、本作でデビュー。

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