BL(ボーイズラブ)好きの腐女子と同性愛者――普通では交わることのない若者の恋を、瑞々しく描いた話題の青春小説『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』(KADOKAWA 刊)がドラマ化された。タイトルは、よるドラ『腐女子、うっかりゲイに告る。』。繊細なテーマを扱ったこの物語はどう生まれたのか。原作者の浅原ナオトさんにお話を伺いました。
<<第1弾 主演・金子大地「人に言えない悩みがある人たちへ届く作品に」
大仰な社会テーマではなく現代を生きる人間に寄り添って書きました。
原作『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』(通称:「カノホモ」)について
── : ついに「カノホモ」のドラマ化が実現しました。第1回を観た、率直な感想を教えていただけますか? また、「腐女子、うっかりゲイに告る。」は「カクヨム」から初めての実写化作品となりますね。
浅原 ナオト(以下、浅原): 作品への思い入れがあって冷静に観られないかもしれないと不安だったのですが、いざ観てみたら普通に楽しめました。かなりアレンジも入っていましたが大切なところは外しておらず、原作を大事にしてもらっている印象です。ただ総合的には「第1話だけでは分からない」というのが正直な感想ですね。原作も第1章だけでは分かりませんから、それが当たり前だと思います。これからどう原作のエッセンスを残しつつ、違った形での面白さを示してくれるのか、楽しみにしています。 「カクヨム」から実写ドラマが誕生したのは、単純に書き手の励みになったのではないかと。ウェブ小説からの映像化はやはりアニメが定番で、人気もそういったものに集まりがちですが、そのような主流とは異なる流れが、多様な作品が集まる場を作る後押しになればと思います。
── : ドラマ化で期待していることは何でしょうか?
浅原: 画と音でどう魅せてくれるか、という点に期待しています。原作は、モノローグで語られる心理描写や立ち止まって考えさせられるフレーズなど、文字でこそ活きる表現を褒められることが多いんですね。なのでそのまま映像に変換して魅力的に仕上げるのはおそらく難しい。そこで映像独自の武器をどう活かしてくるのかに興味があります。特に Queen の音楽を用いた表現については、あちらの方が得意分野なはずなので。
── : 撮影現場にも行かれたと聞きました。その時の現場の印象、また出演者の皆さんの印象はいかがでしたか?
浅原: 現場については「真剣だった」という印象がとにかく強いです。小説は基本一人で創作するものなので、多人数が集まって一つのものを創る現場を目にしたことがなく、静かで強大な熱を感じました。出演者の皆さんについては「こんなやつにそこまで緊張しなくてもいいのに」というのが第一印象です(笑)。ただそれも作品に真摯に向き合っていただけたことの表れなのだと思います。見学後、主演の金子大地さんがドラマのPR番組で、原作から受けた想いや意気込みを語ってくれているのを見て、その真摯な姿勢が改めて伝わってきました。
── : 原作の「カノホモ」では、リアルな心理描写がたくさん出てきます。これは実際に苦悩や葛藤を経験した人でなければ書けないと感じました。これは経験に基づいているのでしょうか?
浅原: ああいうことを考えてはいましたが、温度差はあります。例えば、純は社会への不適合を感じるときによく「正体を明かしていない自分が悪い」と必死に思い込もうとするのですが、自分がリアルで感じていたのは「んー、まあ俺、言ってないしなー」程度。そこまで自分の外側からダメージを受けることはありませんでした。ただ自分の内側からくるダメージ、自己嫌悪に関して言えば、純以上に強かったかもしれません。
── : 辛い経験をもとにして小説を書くことに葛藤はありましたか? また書いていて楽しかったことはありますか?
浅原: 葛藤はないです。もしかしたら存在しなかったかもしれない壁を想定してその中に引きこもっていたあの頃の自分を、大人になった自分が外に出してあげる作業は、むしろ楽しかったですね。 そういった内面的な楽しみとは異なる書いていて楽しかったところは、笑えるシーンですね。特に純の天敵である近藤さんが登場するとコミカルになることが多く、無神経な近藤さんと心の中で毒を吐く純のやりとりは筆が進みました。あとはファーレンハイト、ケイトさん絡みですね。ああいう飄々としたキャラクターが好きなので、カッコいい台詞回しを考えるのは面白かったです。
── : この作品は、LGBTをテーマにしていますが、その悩みを抱える当事者はもちろん、そうでない人も、さまざまな立場の登場人物を登場させることによって、必ず「自分の問題」として物語をとらえることができる工夫がされていると思います。
浅原: LGBTをテーマにしたつもりはありません。一人の若い同性愛者に、大仰な社会テーマではなく現代を生きる人間に寄り添った形の小説を書いたつもりです。本作が共感を呼び、たくさんの人が「自分の問題」としてとらえてくれたのであれば、それは社会ではなく人間にフォーカスするよう努めて書いた作品だからだと思います。
── : 主人公の純や、ヒロインの紗枝と同じ悩みを抱えている読者もいると思いますが、そういった読者の方にこの物語を通じて伝えたいことは何でしょうか?
浅原: 自分の評価は自分でしよう、でしょうか。自己評価を他人に依存してしまうと、それは自分ではコントロール出来ないのでキリがなくなってしまう。点が取れても取れなくてもいいので、まずは自分で自分を採点すること。それが第一歩だと思います。
── : この物語を書き上げたことで、ご自身の中で変わったことはありますか?
浅原: 正直、思い浮かばないです。カミングアウトして他人と同性愛者として接する機会も増えたのですが、じゃあそれで何が変わったかというと、別に何も変わっていない。ウェブで評価を得たり、書籍化やドラマ化されたりしたことで自信はつきましたが、それは「カノホモ」ならではという話ではない。ただ「カノホモ」を読んで価値観が変わったと言ってくれる人は結構いて、そういった意味では周りはすごく変わったのかもしれませんね。
── : 「カノホモ」は、作家・浅原ナオトさんの執筆活動、キャリアにおいて、どういう意味を持つ作品でしょうか?
浅原: 越えるべき壁、になるんでしょうね。飛び道具を使った自覚はあります。いつか「カノホモ?ああ、そんな作品もあったね」と言える日が来るよう、努力は続けていきたいと思います。
── : 今後、このようなテーマを別の切り口で書かれる予定や気持ちはありますか?
浅原: あります。自分の中ではプロットも固まっています。ただエンタメ性を重視した「カノホモ」と違って地味な作品になる予定なので、書籍にはならないような気もします。
作家:浅原ナオトについて
── : 小さいころはどんな子供でしたか。
浅原: あまり覚えていないのですが、不思議な子だったみたいです。幼稚園の粘土工作ありますよね。あれで幼い僕は紙筒と粘土玉を並べた『ハンドパワー』というタイトルの作品を創って展示して、見に来た親は他の保護者に「なにこれ?」と聞かれ、親は分かるわけもなく困惑したそうです。我ながら作家性を感じるエピソードだと思いました。ちなみに、もちろん僕にも僕が何を考えていたのかは全く分かりません。
── : 作家になろうと思ったきっかけは?
浅原: 多くのウェブ作家と同じように「いつの間にか作家になっていた」タイプなので、分かりやすいきっかけは思い浮かばないです。物語を書こうと思ったきっかけは某匿名掲示板の二次創作が面白かったからですね。とある作品について原作とは全く違う設定を与えられたキャラクターを使って好き勝手に創作するスレッドがあったのですが、そのスレッドにハマってしまい自分も書き手として参加しました。それが、僕が初めて世に放った物語です。
── : 今までに一番影響を受けた作品はなんでしょうか?
浅原: 最初に感銘を受けた本は金城一紀先生の『GO』(KADOKAWA)です。ちょうど自分のアイデンティティに悩んでいた頃に読んで、日本に生まれ日本で育った韓国人というアイデンティティを背負った主人公の苦しみに共感し、そのパワフルな生きざまに憧れました。一番影響を受けた作品も同じです。たぶん『GO』を読んでいなかったら、今の僕や「カノホモ」は存在しなかったと思います。 好きなクリエイターはガンダムの富野由悠季監督です。人生で一番お金と時間を費やしたコンテンツは間違いなくガンダムなので、ここで挙げるのは義務かな、と。言語センスが独特なのにちゃんと形になっていて、ああいう唯一無二は創作者として憧れます。
── : 執筆の際に心がけていることはありますか?
浅原: 説教臭くならないようには気をつけています。面白くないと思うので。ただ気をつける必要があるということは、逆に言うと油断すると説教臭くなるということであり、何だかんだ残ってしまい、読み返して「ここ説教臭いなあ」と思うこともよくあります。
── : 作品のアイデアは、どんなときに思いつくのですか? また、執筆が進まないときの気分転換は?
浅原: 思いつくのは、基本は歩いているときですね。断片化したアイデアの種が繋がっていく感覚があります。執筆が進まないときも歩きます。なので、冬は執筆速度が落ちます。
── : これから「カクヨム」などに作品を投稿したいと考えている、作家志望の人にアドバイスをお願いします。
浅原: 自分が本当に好きなもの、大切にしたいものを見つけると良いと思います。それを表現しようとすれば、自然と中途半端なことは出来なくなるのではないかと。自分の宝物の魅力が自分のせいで伝わらないのは、歯痒いでしょうから。
── : これからどんな作品を書いていきたいですか?
浅原: まだ自分の可能性を狭めるのは早いと思うので、ジャンルは無節操にやっていきたいのですが、形式としてはシリーズものを書いてみたいです。同じキャラクター、世界観と長く付き合ってみたい。次に紹介する『御徒町カグヤナイツ』はそういう部分を少し意識しながら書いてみました。
── : 5月にその新作『御徒町カグヤナイツ』(KADOKAWA)が書籍化され発売になります。どのような話で、どんなところを読んでほしいですか?
浅原: 学校や世間に馴染めないはみ出し者の男子中学生4人組が「月のお姫さま」を名乗る謎の少女と出会い、そろそろ月に帰らなくてはならないと言う彼女を月の使者から守る騎士団「御徒町カグヤナイツ」を結成し、それぞれが抱えている問題と向き合い、戦い、成長していく青春小説です。ひねくれているのに真っ直ぐな中学生たちの想い。子供でも、大人でもない、中途半端な時期にだけ与えられる煌めき。そしてその煌めきの終わりと、終わった後に残るもの。幼い、だけど絶対に譲れない美学で青春時代を駆け抜ける疾走感と、その軽快な足音につきまとう一抹の切なさを感じ取っていただければと思います。
【書籍情報】
▶▷『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』特設ページ
『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』
https://www.kadokawa.co.jp/product/321707000994/
『彼女が好きなものはホモであって僕ではない 1』(コミック)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321901000271/
【ドラマ情報】
よるドラ「腐女子、うっかりゲイに告る。」
4月20日(土)よりNHK総合にて放送中(※NHKオンデマンドでも配信中)
毎週土曜23:30~23:59(全8回)
原作:浅原ナオト『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』(KADOKAWA) 脚本:三浦直之 出演:金子大地、藤野涼子、小越勇輝、小野賢章、安藤玉恵、谷原章介ほか
NHK公式HP
https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/fujoshi/
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