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特集

『すごいぞ、さか立ちする文字! アンビグラム暗号のなぞ』ノムライッセイさんインタビュー

取材・文:大和田 佳世 

みなさんは「アンビグラム」を知っていますか? メディアに大きく取り上げられ話題の「アンビグラム」が、子どもも大人も楽しめる本になりました。たとえば「さつまいも」を逆さにすると……!? 「え、どうしてそうなるの!?」と自分の目が信じられなくなる暗号のような文字がいっぱいです。『すごいぞ、さか立ちする文字! アンビグラム暗号のなぞ』の作者、ノムライッセイさんにインタビューしました。


【まるで暗号!? アンビグラムって何?】

── : 一見、なぞなぞや暗号みたいですが、「アンビグラム」って何ですか?

ノムラ: 逆さにしたり鏡に映したりしても読めて、別の意味や言葉になったりする、不思議な文字アートのことです。「アンビ(ambi)」は「両方」、「グラム(gram)」は「文字」という意味です。 たとえば「挑戦」という漢字を逆さにすると「勝利」に変わるという、僕が作ったアンビグラム作品は、ネットやテレビによって日本だけでなく海外でも有名になりました。「クラブチームの目標にしたい」「社訓にしたい」「卒業式の式辞に使いたい」といった声がたくさん届いています。アンビグラムは無限の可能性を持った言葉のアートです。

アンビグラムの一例。上下を反転させても読める!

── : 文字アートに大切なメッセージを込めることができるんですね。『アンビグラム暗号のなぞ』には、レベル1からレベル5まで、ひらがな、カタカナ、漢字などいろいろなアンビグラムの問題が登場します。「ピンチ」を逆さにすると……「チャンス」になるのは驚きました!

ノムラ: アンビグラムのおもしろいところは、毎日読んでいる文字が、逆さにしても読めるという意外性です。転じて、固定概念を取っ払って視点を変えてモノを見ようという契機になります。

【学校の先生としての視点で書かれた本】

── : わが家の小学生は「えがお」が4つ並んだアンビグラムが、逆さに読むと4つともぜんぶ違う言葉(せかい、なかま、みんな、かぞく)になることに感動していました。

ノムラ: 僕は学校の先生をしていて、アンビグラムがいろいろな科目を理解する手助けになればと思っていたので、なるべく学校の科目にちなんだアンビグラムをまんべんなく入れるように工夫しました。また、アンビグラムを通じて伝えたい人生観を、子どもにわかりやすい文章で解説するように心がけました。小学校での授業経験が活きたと思います。 ちなみに、本作りの過程では、フルカワマモるさんによる「ノムラ先生」のキャラクターが完成したときが一番楽しかったです。

── : 「ノムラ先生」は、学校の先生の経験が活かされたキャラクターだったのですね。子どもから刺激を受けることはありますか?

ノムラ: 公立の小中学校、私立の高校などで図工や美術の非常勤講師をしていますが、常識にとらわれないアンビグラムの考え方は、子どもの自由気ままな発想に触れていることから得るものが多いです。指や肘、足の裏を使って描いたり、画用紙をナナメに使ったりする自由な姿から刺激をもらっています。 小学3年生の子が見よう見まねでアンビグラムを作ってプレゼントしてくれたり、5年前の中学校の教え子が成人して「先生を見ていると、自分も好きなことを頑張れる」と言ってくれたことなども励みになっています。今回、子どもにとって読みやすい1冊の本になったことは、僕にとってもひとつの夢の実現です。

【アンビグラム制作に目覚めたきっかけ】

── : そもそも最初にアンビグラムに興味をもったきっかけは何ですか?

ノムラ: 20歳のときに映画『天使と悪魔』(2009年公開、アメリカ)を見て、その劇中で一瞬映る英語のアンビグラムに心を奪われたことがきっかけです。毎日のように見ている文字でこんなことができるのか!と虚を衝かれたような驚きと、対称形の造形の美しさの虜になりました。元々美しいものを見つけると自分の手で再現したくなる性格で、また理系人間でもあり、数学的に対称形であるアンビグラムの法則を理解したいという欲求も相まって映画鑑賞後に再現を試みました。 映画の中のアンビグラムはアルファベットだったので、最初は自分の名前のローマ字で制作しました。ISSEIなので「S⇔E」を作るだけで完成したので「意外と作れる」と思えたのかもしれません。次に「日本語でできないか」と「いっせい」で考えると、これもまた「つ⇔せ」だけを考えれば良かったので簡単でした。仮に自分の名前が「あつし」といった名前だったらあきらめていたかもしれません(笑)。 ちょうどその頃に誕生日だった大学の同級生に、名前のアンビグラムをプレゼントしたのをきっかけに、何人かにプレゼントすると多くの人が喜んでくれたので、いろいろな人の名前で作ろうと思いました。 当時大学3年生で、高校までは絵がリアルに描けることが自分のアイデンティティでしたが、大学では周りが当たり前のように絵が描けたので「自分にしかできない何か」を求めていた時期でもあったと思います。

── : アンビグラムのプレゼントなんて、素敵ですね。作るのは難しそうですが……。

ノムラ: 巻末に「アンビグラム 作り方のコツ」のページがあるので、参考にしてぜひ作ってみてください。相性の良い文字を組み合わせれば、意外と作れますよ。字数や画数が似ているもの、縦線や横線の数がそれぞれ差違が少ないものを組み合わせて考えてください。線に強弱をつけると見る向きによって長さが違って見えます。 人間は、字が多少崩れていたり、余計な点や線が加えられていても文字を認識できます。文字を認識する際に、人間がどんな線を探しているかというのは、文字デザインにも役立つ知識だと思います。

【絵、数学、漢字が好きだった子ども時代】

── : ノムラさんはどのような子どもでしたか。なぞなぞや暗号が好きでしたか?

ノムラ: 絵を描くのはずっと好きでした。幼い頃は発音が悪かったりして、いじめられたこともあったため、人に話しかけるのが苦手でしたが、自分の描く絵や迷路に注目が集まって、それをきっかけに友達ができました。 科目では数学と理科が好きで、自分でパズルやクイズ、魔方陣を作ったり、鶴亀算を解いたり、空き地で昆虫を捕まえたり、電子工作などもしていました。ルービックキューブは20年以上触っています。謎かけやダジャレは昔からずっと好きです。

── : 漢字や、国語の勉強は好きでしたか?

ノムラ: 幼い頃から漢字が好きで、幼稚園の頃からかなり多くの漢字が読めたようです。 本も好きで、「にゃんたん」シリーズ(ポプラ社)や、「ぴょこたん」シリーズ(あかね書房)、「ウォーリーをさがせ!」のシリーズ(フレーベル館)など、ゲーム絵本をよく読んでいました。五味太郎さんの「ことばあそび」のシリーズは、ダジャレや回文、ぎなた読みといった日本語のおもしろさが詰まった、僕にとって聖書のような存在です。『100万回生きたねこ』『星の王子さま』は、充実した人生とは何かを教えてくれる傑作だと思います。 今は哲学書や現代作家の本を読むのが好きで、本屋や図書館にいると落ち着きます。

【視野を広げ、視点を変えて物事を見るきっかけに】

── : どんなときにアンビグラムを思いつくのですか?

ノムラ: ニュースを見ていてこの社会問題の裏には何が隠れているのかなと考えたり、気になる女の子が聴いていた音楽の歌詞や、哲学書や漢字辞典をパラパラとめくったときに印象に残った漢字のフォルム、人との会話に出てきた単語からパッとアイデアが浮かんだりします。 制作中は「○○と言えば××、いや△△もアリだなぁ」と想像が膨らみます。線の対応の仕方次第で、完成形はひとつに限らないところがおもしろいです。

── : 『アンビグラム暗号のなぞ』のどんなところがおすすめですか?

ノムラ: 一人でも楽しめますし、友達と一緒に早押しクイズのように競い合って読むのも楽しいでしょう。デザインや言葉に込められたメッセージを楽しむと同時に、学習の手助けにもなり、読む人の視野を広げてくれると思います。日本語の美しさや奥深さ、視点を変えて見るおもしろさに気づき、世の中に潜む美や不思議に出会える足がかりになれば嬉しいです。

── : 子どもの脳のトレーニングにも役立ちそうですね。

ノムラ: 脳トレに興味がある親御さんは、まずは子どもと同じように謎解き感覚で読んでください。さらに読めば「祝日の由来は?」「あいさつの意味は?」といった日本の文化に触れていたり、「真の才能とは?」といった哲学的な要素が含まれた問題もあることがわかっていただけると思います。視野を広げ、今まで当たり前のようにとらえていた物事を、親子で多角的に見直すきっかけになれば幸いです。

── : ありがとうございました。


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