浮世絵研究、怪談、怪異談。あらゆるジャンルで出色の小説家、高橋克彦の必読角川文庫3選! 生涯を評した新刊も。
文:道又 力(脚本家)
作家・高橋克彦さん。
今さら言うまでもなく、現代日本におけるエンターテインメントの屈指の書き手です。ミステリー、SF、ホラー、歴史・時代小説と何でもござれ。江戸川乱歩賞、日本推理作家協会賞、直木賞、吉川英治文学賞、日本ミステリー文学大賞など、有名どころの賞を総ナメしたほか、NHK大河ドラマの原作を二度も書いています。
その高橋さんの作品を、角川文庫で読むとしたら、次の三作品をお勧めしたいです。どれもハズレなし、と太鼓判を押します。
先ずは、『浮世絵鑑賞事典』。高橋さんの初めての著作です。留年と浪人を重ねてきた高橋さんは、大学を卒業したとき二十八歳になっていました。まともに就職試験も受けられず、人生お先真っ暗。そこで一発大逆転を狙い、丸一年かけて執筆に取り組みました。分かりやすさに徹した初心者向けの本ですが、完成度は極めて高く、今でも本書を凌ぐ浮世絵の小事典はありません。一家に一冊あれば、浮世絵の知識には事欠かないでしょう。
次にお勧めしたいのは、『ドールズ』。七歳の少女が交通事故のショックで異常な行動を取り始める。時代劇のような言葉を使い、慣れた手つきで煙草を吹かす。原因を探るうち、江戸の生人形師の影が見え隠れして……。物語の舞台は、高橋さんが暮らす岩手県の盛岡市。「ああ、こういう街に作者が住んでいるんだ」と想像しながら読むのも楽しいですよ。ドールズは人気シリーズとして書き続けられ、全作品が角川文庫に揃っています。
そして最後は、『黄昏綺譚』。高橋さんは黄昏が大の苦手。昼(現実)とも夜(非現実)ともつかぬ夕まぐれには、必ず不思議なことが起きるからです。本書は高橋さんの実体験、または体験者から直に聞いた怪異談を七十五編収めたエッセイ集。高橋さんは小説の名手ですが、エッセイも抜群に面白い。文章に添えられた、現代の浮世絵師・吉田光彦さんのイラストも出色の出来です。
さて、お勧め作品を紹介したところで、耳寄りの情報を一つ。この度、現代書館より拙著『作家という生き方 評伝高橋克彦』が出版されました。高橋さんが生まれてからコロナ禍の現在までの人生を、忖度ゼロで書いた評伝です。抱腹絶倒の面白エピソード満載、秘蔵写真七十点と全著作リスト付き。高橋ファン必読の書と断言します。