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レビュー

軽妙にして怪しい『絵が殺した』の魅力――『絵が殺した』【文庫巻末解説】

文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。

軽妙にして怪しい『絵が殺した』の魅力

解 説
あら じゆん

 がんさくに手を染めていた日本画家が姿を消したのはたん半島。しかし、発見されたのは大阪府とんばやし市の竹林。いったいなぜ? そんな疑問から『絵が殺した』は始まります。
 読み進めるうちに関係者、容疑者が次々に姿を消し、謎は深まるばかり。会社で休憩中に読むことが多かったのですが、とくに後半は話しかけられても「あとで」と断るくらいぐいぐい物語に引き込まれました。
 そうそう。新井順子って誰? という方もいらっしゃると思うので自己紹介させてください。TBSスパークルという映像制作会社のプロデューサーです。主に連続テレビドラマを担当し、『わたし、定時で帰ります。』『中学聖日記』『アンナチュラル』『リバース』『Nのために』『夜行観覧車』などのドラマをプロデュースしてきました。
 なぜここで解説をしているかというと、もともと警察小説が大好きなんです。家の本棚にも警察小説が一角を占めています。警察ものをやりたいとずっと思っていて、何度も企画を出したのですがなかなか通らない。やっと二〇二〇年にあやごうさんとほしげんさん主演の刑事ドラマ『MIU404』をつくることができました。
 刑事ドラマは昔から人気があり、バリエーションも豊富。企画を通すためにはこれまでの刑事ドラマと何が違うかを明確にする必要がありました。
『MIU404』の場合は機動捜査隊を舞台にしたことが大きい。『絵が殺した』もそうですが、ドラマや小説の多くは捜査一課が殺人事件を扱うことが多いんです。事件があり、捜査し、解決するという一連の流れを描くなら、たしかに捜査一課が自然です。しかし、機捜は初動捜査を担当するので、次々に事件に遭遇するという特色が出せます。毎週違う事件に遭遇しても不自然ではありません。これまでほとんどドラマになったことがなかったので、新しい刑事ドラマがつくれるのではと思いました。実はテレビ各局が放送している警察密着番組に機捜が登場するのがヒントになりました。
 ほかのドラマでもそうですが、リアリティを出すために取材は必ずしています。俳優さんによっては役作りのためにその職業の方に会いたいという方もいるので、私たちが取材をしていないというわけにはいきません。警察は現役の職員は絶対に取材に応じてくれないので(笑)、退職された方数人にお話をうかがいました。たとえば『MIU404』で綾野剛さんが演じたぶきあいという刑事が警察官になるまでのエピソードは、取材させていただいた方の履歴を参考にしています。

絵が殺した』も刑事たちの地道な捜査が描かれていて、作者のくろかわさんが警察にかなりお詳しいことがうかがえます。それもこれみよがしではなくさらっと書いてあるところに説得力がありました。


絵が殺した
著者 黒川 博行
定価: 748円(本体680円+税)


 事件の捜査に当たるのは大阪府警捜査一課。主人公のよしながせいいちは刑事になって六年目。三十代前半ですが、すでに中堅と言ってよさそうな存在感があります。一方、彼とコンビを組むのがざわという二七歳の新米刑事。吉永は小沢のことを「のれんに腕押し、豆腐にかすがい、食べ残して一晩放っておいたすき焼きののような歯ごたえのなさ」とひどい表現をしているんですが(でもぴったりの表現です)、この二人のズレまくった会話が面白い。誰が演じたらいいかな、と想像してしまいました。
 職業柄、小説を読む時にはついつい「ドラマ化するとしたら」という目線で読んでしまいます。初版の刊行は一九九〇年とのことで、スマホはもちろんないですし、監視カメラ、Nシステムがいまほど普及していない世界。現代を舞台にするには大胆に設定を変える必要があるとは思いますが、キャラクターの魅力は現代にも通じると思います。
 ドラマ化目線で考えると、大事なのはほかの刑事ドラマとの差別化です。先ほど言ったように刑事ドラマはたくさんつくられているので、違いをどこに出すか。『絵が殺した』は主な舞台が大阪と京都なので、吉永と小沢を始めとする刑事たち、事件に関わる関係者や容疑者が全員関西人というのが大きな特徴です。キャストも全員関西出身にして関西弁にこだわったら面白いかも。
 というのも、私自身が大阪出身なので、下手な関西弁を聞くとゾッとするんです(笑)。『絵が殺した』には、大阪や京都にはこういう人いるなあ、と感じる人たちがたくさん出てくるので、なおのこと関西弁にはこだわりたいところです。
『絵が殺した』では、贋作のつくり方、見破り方、画家が亡くなったあとに高値がつく場合と値が下がる場合など、美術市場の裏側が描かれていて勉強になりました。二〇二一年二月にも、日本画家の大家の作品をもとにした版画の贋作が、百貨店などに流通していたという事件が発覚しました。それもまさに『絵が殺した』で名前が出てくる日本画家の作品だったので、時代を超えた普遍性を実感しました。私は黒川さんにお会いしたことはないのですが、聞けば美大出身で、奥様は日本画家とのこと。ご自身が見聞きしたものも反映されているのかも、と想像がふくらみました。
 夫婦と言えば、吉永と奥さんのデコとの関係もいいんですよ。捜査の合間に二人の場面があるとホッとします。吉永の態度が捜査をしている時とはぜんぜん違う。口は悪いけどあいきようがあるんです。嫁のことが好きという気持ちが伝わってきます。
『絵が殺した』はミステリとしての仕掛けもいろいろあって、悔しいことに、最後まで真相を見破ることはできませんでした。吉永と小沢が贋作づくりのネットワークをたぐっていく過程でさまざまな人物が登場するのですが、誰も彼もが怪しい。
 たとえばという美術ブローカーが出てくるんですが、キャラの立った怪しさです。吉永が「刑事生活六年にして、こんな変人には会ったことがない」とのけぞる人物。吉永と小沢のやりとりはかみ合わない面白さですが、吉永と矢野は丁々発止の軽妙な会話。矢野は口から生まれてきたような人物なんです。
 ドラマにするなら矢野は明石あかしさんまさん。そして、吉永はまささんにお願いしたい。二人が関西弁でやり合うドラマをつくったらかなりユニークなものになると思うんですが、読者のみなさんはどう思われますか?
(談)
構成・文 タカザワケンジ

作品紹介



絵が殺した
著者 黒川 博行
定価: 748円(本体680円+税)

「わし、殺しが専門ですねん」 刑事コンビが美術業界の闇に迫る!
大阪の竹林で見つかった男の白骨死体。身元は京都の日本画家と判明する。だが、彼は丹後半島で転落死したはずだった。
大阪府警の刑事・吉永は、頼りない後輩の小沢と共に遠く離れた場所に死体が埋まっていた謎を追うことに。
事件の背後に大規模な贋作グループの存在が浮上するが、その矢先、更なる犠牲者が。
曲者揃いの画商たちに翻弄される吉永は、業界の闇を暴き、二転三転する事件の真相にたどり着くことができるのか?
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322012000504
amazonページはこちら


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