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レビュー

因果応報から逃れることはできるのか――。妖しくどこか懐かしい、恒川ワールドの原点 『夜市』

【カドブンレビュー】

カドブンを訪れて下さっている皆さん、こんにちは。
じょじょに夏が近づいてきていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
今回のレビューは2005年に刊行された作品、『夜市』。
著者のデビュー作ともなるこの作品集には「夜市」「風の古道」の二本が収録されており、「夜市」は第十二回日本ホラー小説大賞受賞作でもあります。
「ホラー」と聞くと、血が飛び散ったり、目に針が近づいてきたり、ゾンビに取り囲まれて食べられちゃったり、そんな作品を連想してしまうかもしれませんが、『夜市』はスプラッター的なホラーではありませんのでご安心(?)ください。

さてさて。
本書タイトルにもなっている「夜市」は、町にある岬の先、夜に密やかに開かれた不思議な市のお話。
そんな夜市に迷い込んでしまったのは、高校時代の同級生、裕司に誘われたいずみ。
屋台が建ち並び、「人間の首」「黄泉の河原の石」から「才能」まで、ありとあらゆる物が商われるこの夜市は、いくつもの異世界が交わり、不思議なルールによって支配された、人や妖怪たちが集まる特殊な場所でもありました。
ところが二人はこの夜市から出られず、元の世界に戻れなくなってしまいます。
なぜ裕司はいずみをこんな夜市に連れてきたのか、そして二人が出会う「男」が語る新たな物語とは?
ありきたりな異世界からの脱出ではないのが表題作である、この「夜市」。

そして今回冒頭部分を朗読させてもらったのが二作目の「風の古道」。
七歳の時に「私」が迷い込んだのは、ありふれた住宅街のすぐ裏にある、人でない者が往き来する太古からの道、風の古道。
「私」はその不思議な道に、十二歳の夏休み、友人と共に再び足を踏み入れることとなる。「私」は友人と共に、無事に元の世界に戻れるのだろうか?
と、これまた異世界に迷い込んでますが(笑)、こちらは「夜市」とは対称的に、秘儀を行う「雨の寺」という寺院を目指し、不思議な世界をじっくりと旅するお話。

このように、『夜市』は恐怖に軸を置くホラーというよりは、むしろファンタジーですが、魔法の王国、魔法の剣、魔術師にドラゴンなど、下手をするとチープになりがちな「ファンタジーのためのファンタジー的要素」とうものはありません。
むしろ「生と死」「因果応報」「何かを手に入れるためには代償が必要である」といった、我々の人生につきまとう普遍的なテーマを扱っていて(恐怖も充分普遍的ではありますが)、それがファンタジー的な世界観と融和し、ジャンルを超えた、何かを心に投げかけてくる物語になっているのです。
しかしなんなんでしょう。
淡々と語られる異世界の話は、どこか懐かしく、たまらなく切ない。

読書の素晴らしさの一つは、ページを開けば見知らぬ場所を旅できることだと思うのですが、この本はまさにその真骨頂。
ページをめくると、そこには夜市が怪しく光り、風の古道が静かにあなたをじっと待っています。
是非本書を開いて不思議な世界へ旅をしてみてください!


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