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レビュー

史上最強のガールズ活劇、アラル海に爆誕!

 二〇一二年のデビュー単行本から二作続けて日本SF大賞と同賞特別賞を受賞。その二冊がともに直木賞候補になり注目されたと思ったら、今年は『カブールの園』で芥川賞候補、『彼女がエスパーだったころ』で吉川英治文学新人賞を受賞。ジャンルを股にかけて活躍する宮内悠介だが、その新作長編は、アラル海に建設された架空の国が舞台。主役は、日系二世のナツキをはじめ、後宮に集う元気な女の子たち。かくして〝中央アジアはっちゃけガールズ建国奇譚〟の幕が上がる。
 カスピ海の東に位置するアラル海は、カザフスタンとウズベキスタンの国境をまたぎ、かつては世界第四位の面積(東北地方と同じくらい)を誇る巨大な湖だった。それが旧ソ連の灌漑事業によりどんどん干上がって五分の一にまで縮小。塩分や有害物質を大量に含む湖底が露出し、〝二十世紀最大の環境破壊〟とも言われているとか。

 しかし、作中のアラル海では、こうして生まれた広大な〝死の土地〟に新たな可能性を見出す人々が現れる。末期のソ連を逃れてきた〝最初の七人〟は、廃漁村を拠点に、地球化とも言うべき大規模な環境改造に取り組み、一九九〇年、ついに新国家アラルスタンが誕生した……。同じ宮内悠介の『エクソダス症候群』では環境改造された未来の火星が舞台になるが、本書はその地球版と言えなくもない(〝最初の七人〟は、K・S・ロビンスン『レッド・マーズ』で火星に入植する〝最初の百人〟へのオマージュか)。
〝ユーラシア遊牧主義〟を掲げたアラルスタンには、周辺各国や紛争地域から、行き場をなくしたさまざまな民族の難民や移民が集まり、自由経済特区として繁栄する。が、南部に油田が発見されたことで、二〇〇〇年、ウズベキスタンと紛争が勃発。日本人の両親とともに首都マグリスラードで暮らしていた五歳のナツキは、この紛争で家と家族を失い、ひとりさまよっていたところを後宮に拾われる。官邸に隣接した後宮は、第二代大統領アリーの時代に、女性の高等教育の場に改造され、多くの孤児たちがここで学んでいたのである。

 と、以上は長い前置きで、物語の始まりは二〇一五年。独立記念日の式典でアリー大統領が演説し、アラルスタンの未来を力強く訴えたその瞬間、一発の銃声が響き渡る……。
 事態の収拾を図るべき閣僚や議員たちはいちはやく脱出し、議会はからっぽ。後宮に残された少女たちは、国を守るため、みずから立つことを決意する。先輩格のアイシャが大統領代行に就任することを宣言し、ナツキは成り行きで国防大臣に指名されるが……。
 テンポのいいガールズトークから学園ものっぽく始まったと思ったら、たちまちギアが切り替わり、ものすごいスピードで物語が走り出す。思いきり無茶な設定なのに、一カ月にわたる現地取材と膨大な資料を背景に、ギリギリあり得なくはないレベルまで綿密につくりこみ、その舞台上でさらに無茶な大暴れを演じてみせるのが宮内流。ナツキたちは国家存亡の危機をどうやって乗り切るのか?

 吟遊詩人にして武器商人という謎の男イーゴリ。政治的安定が実現するかどうかの鍵を握るイスラム勢力AIM(アラルスタン・イスラム運動)のイケメン幹部ナジャフ。ナツキの親友で一匹狼のジャミラ。枢密院議長にして後宮のボス、海千山千の中年女ウズマ。魅力的な人物たちが中央アジアを舞台に織りなすドラマは、まさに一気通読の圧倒的なおもしろさ。いままで短編作家の印象が強かった宮内悠介の才能が長編にぴったりチューニングされた結果、惚れ惚れするような飛型の大ジャンプが実現した。
 クライマックスは、預言者生誕祭の夜に国民広場で演じられる閣僚総出演の歌劇。この一点に向かってすべてが集約してゆく緊迫感と、リミッターをはずしたステージの無敵の楽しさは、ぜひとも自分で味わってほしい。史上最強のガールズ活劇にして、今年最高のエンタメ小説がここにある。


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