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 チームとは生き物である。
 からだが小さくとも、パワーはなくとも、鍛え、信じ、挑みかかる気概があるなら、格上にも対抗できる。人間関係が乱れれば、とたんに弱くなる。が、ひたむきに努力して、ひとつになれば、トップクラスのチームに成長することもできるのである。
 鬼監督の浩子はタダモノではない。〝ラグビー・バカ〟だ。私は惚れた。
 独身の二十九歳。岩手県の女子ラグビー界のリーダーとして育ち、地元開催の「理想郷いわて国体」での七人制女子ラグビーの優勝を宿命づけられる。監督兼選手として、チーム編成に苦労しながら、ひとまわりも若い妹の泉を中心選手に育て上げる。
 どだいラグビーって、「きつい」「きたない」「きけん」の3Kスポーツと言われていた。「女がラグビーをするの?」「女だてらにラグビーなんか」。そういった先入観と闘いながらも、浩子は個性的な選手を集めていく。子育てに悩む三十五歳主婦の小久(こひさ)や、大学生キャプテンの律子、小柄ながら運動神経抜群の不良女子高生ジャスミン、重量級の花形(はながた)姉妹……。チームを辞めていく者もいて、人数はぎりぎりだった。心は乱れる。恋愛、友情、葛藤、確執、嫉妬、対抗心……。
 泉はまだ高校生だ。今は亡き、元ラガーマンの父親や姉の浩子に反発し、一時はラグビーに背を向け、バスケットボール部でお茶を濁していた。でもラグビーに戻った。なぜ。泉の言葉はシンプルだった。
「ラグビーが大好きだから」
 泉の加入が、チームに化学反応をもたらす。チームは〝なあなあ〟の仲良しクラブでは強くはならない。互いにぶつかりあうことで、ホンモノのチームに成長していくのである。最後は団結力がものをいう。「ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン」なのだ。
 あれ、これは実話か、と何度も思った。〝鉄と魚とラグビーの町〟の「釜崎市(かまさき)」って、ラグビータウンの岩手県釜石(かまいし)市のことでしょ。
 私は女子ラグビーを、かれこれ十数年、取材してきた。とくに二〇一六年リオデジャネイロ五輪の七人制ラグビー女子日本代表『サクラセブンズ』に密着した。浩子のストイックな生き様をみると、サクラセブンズの浅見敬子(あさみけいこ)ヘッドコーチを思い出す。選手たちから嫌われることをいとわない。情熱と覚悟の人。やると決めたら、とことんやり抜く。
 国体に向けた最後の合宿のシーン。極限に挑む練習の描写は、地獄と形容されたサクラセブンズの千葉・勝浦(かつうら)合宿をほうふつとさせた。監督の浩子は鬼と化した。走れ、走れ、走れ。夜、選手がつらくて泣きべそをかく。ついに泉たちは夜逃げを決行した。失敗する。小説とわかっていながら、昔の自分を思い出し、こちらも涙をこぼしてしまった。
 何のためにラグビーをやっているのか。老舗旅館の名物女将オババが問うシーンがある。
 三十五歳の主婦、小久は答えた。「意地だね」。苛烈な環境下で女子ラグビーの道を切り開いてきたプライドである。
 浩子はこうだ。「女子ラグビーの選手やファンを増やすチャンスは今しかない」。そして、大震災で打ちのめされた岩手県民の心に希望の灯をともすため、と言葉を足すのだった。
 運命の国体が始まる。この試合の描写のリアリティーはなんなのか。七人制ラグビーならではのスピード感がある。テンポがある。チャンス、ピンチ。スクラム、キック、パス、そしてタックル、またタックル……。ひとつひとつのプレーに心を揺さぶられた。
 決勝戦。最後、泉が逆転のゴールキックを狙うとき、私は目を閉じ、つい「入れ、入れ」と念じてしまった。ハラハラドキドキの臨場感、読後の清々しい爽快感。これぞ、スポーツ青春小説の醍醐味だろう。
 ああラグビーっていいな、人間ってステキだな。うん、信じあえる仲間はいい。

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