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レビュー

幕が上がったら最後、終幕まで一気読み必至

 ——なるほど、そうきたか。
 これ、物語の第一章にあたる「序幕」の書き出しなのだが、本書を読み終わった後の私は、全く同じように感じていた。「バック・ステージ」というタイトルからして、文字どおり〝舞台裏〟を描いた作品であろうとは思っていたのだが、その〝裏〟の描き方、序幕から終幕に至る全五幕の繋ぎ方が、唸るほど巧いのである。デビュー以来、着実に実力、人気ともに右肩上がりを続けている作者の、充実ぶりを示す一冊、それが本書だ。
 まず、冒頭の序幕では、のっけから物語へと引きずり込まれる。終業後、職場に忘れ物を取りに来た新入社員の松尾が目にしたのは、先輩社員が次長の机を「四つん這いになって漁っている」現場だった。折しもその日の昼、次長の澤口は、部下である玉の井を叱責して泣かせていた。澤口の玉の井いじめは今日に始まったことではなく、以前から飴と鞭を使い分け、じくじくと痛め続けていた。
 見なかったことにしよう、と松尾が踵を返したその時、松尾は当の先輩である康子に声をかけられてしまう。それが始まりだった。康子は康子で澤口の所業に腹を据えかねていて、偶然知った澤口の背任罪を立証する証拠を探していたのだ、という。問答無用で、康子の相棒に指名された松尾は、翌日、指示どおり「変装して」中野駅南口に出向く。昨夜見つけられなかった澤口が背任しているという証拠=澤口個人の預金通帳を手にいれる、というのが二人のミッションだった。悪戦苦闘して、何とか通帳を入手したのもつかの間、その通帳は、あろうことかカバンごと、見知らぬ女子高生が間違えて持って行ってしまう。残された女子高生のカバンから、二人がたどり着いた行き先は、中野大劇場ホール。そこでは、ある芝居の初日が幕を開けようとしていた……。
 次の第一幕では、離婚してシングルマザーとなった望の物語が、第二幕では、隠れラノベファン男子・奥田の恋物語が語られる。第三幕で語られるのは、中野大劇場ホールで行われる芝居に出演する俳優の、第四幕では同じくその芝居に出演するベテラン女優のマネジャーの物語が語られる。
 ん? 松尾と康子は? そして、肝心の澤口の通帳は? と思いつつ読んでいくと、終幕でちゃんと序幕の話に繋がるのだが、単に序幕と終幕だけが繋がるのではない。終幕を読んで初めて、実は序幕で全ての種が蒔かれていた、と気づくのだ。その時の、あ、ヤラれた!感、が実に、実に痛快だ。あぁ、あの時の! あそこの! アレがあぁなって、こうなるのか! と一気に腑に落ちるのだ。
 もちろん、第一幕から第四幕まで、それぞれの物語も読ませる。第一幕の望が抱える、二人の息子のうちの、内向的な兄への心配は、子を持つ親にとって、とりわけ母親にとってはリアルだ。けれど、その悩みが解消される瞬間の、優しく温かいことといったら!
 第二幕の、本当はラノベが好きなのに、オタクと思われたくなくて大っぴらにできなかった奥田。ようやく意気投合したのは、同じ中学だった女子。いい感じでつきあっていたはずなのに……。
 第三幕の俳優・川合に、共演者と一夜を共にしたことをバラされたくなければ、あるシーンに出るな、と脅迫状を送ったのは誰なのか? そして第四幕では、今やベテランとなった女優に、マネジャーとして三十五年間伴走して来た篤子が、出そうと思っていた退職届を、握り潰すまで。
 どれもが、それぞれに味わいが異なり読ませるのだが、四幕ともきっちりとミステリになっているところが、なんとも心憎い。作者が今、ノリに乗っていることがよく分かる。
 肝心の澤口の通帳は? 松尾と康子は澤口の背任を暴けるのか? それは実際に読んで確かめてください。幕が上がったら最後、終幕まで一気読みになることは保証します!


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