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レビュー

時代を先取りしたライトノワール快作 『正義の申し子』

 二〇一八年六月、九州の福岡市で衝撃的な事件が起きた。
 人気ブロガーがインターネットコミュニティで誹謗中傷を繰り返していた人物に刺殺されたのだ。被害者は自らのブログに加害者のことを取り上げてはいたが、直接論戦を仕掛けるようなことはなかったという。ふたりは現実生活で面識はなかった。
 SNSを始め、ネット上では様々な場所で様々な論戦が日々繰り広げられている。中には激しいやり取りもあろうが、その多くは匿名者同士によるもの。この事件ではしかし、被害者が斯界しかいの有名人だった。何よりショッキングなのは、ネット上の関係が現実の犯罪につながってしまったことだ。
 これからこういう事件が増えていくのだろうか。ネットのヘビーユーザーではない筆者のような者でも不安に駆られてくる。
 同じ思いを抱いている方々にこの際、ぜひお読み頂きたいのが本書だ。
 筆者自身、福岡の事件を知ったのちにこれを読んで驚いたのなんの!
 かいつまんで言うと、正義の申し子を気取り、世の悪者退治に励む人気ユーチューバーが架空請求詐欺業者をおちょくり、ネットにさらしたことから業者の恨みを買い、現実での対決劇へと発展していくという話。福岡の事件とはちょっと違うが、現実ではつながりのないふたりにネットを介した遺恨が生じ、それがやがて現実の争いへと結びついていくという構図には相通ずるものがあろう。
 主人公の佐藤さとうじゅん(男子です)は引きこもりの一九歳。両親と高一の妹・蘭子らんことの四人家族だが、関係は最悪。だが彼はただ引きこもっているわけではなかった。ひょんなことからタイガーマスクをかぶり、ジョンと名乗ってユーチューブで始めた配信が話題を呼び、今やチャンネル登録者数五〇万人の人気者なのだ。今日も今日とて、エロ動画サイトの架空請求メールをばらまく悪徳業者をカモに悪者退治ショーをしようとしていた。
 ジョンの罠にはまってユーチューブで恥をさらすのは、大阪の詐欺事務所で働くハンサムだが粗暴な二一歳、栗山くりやま鉄平てっぺい。仕事ではうだつが上がらず、自分を捨て男に走った実母との関係に未だに惑い続ける悩み多き男だ。
 物語はこのジョンと鉄平、そして蘭子の親友の眞田さなだ萌花もえかを視点人物にして代わる代わる展開していく。ジョンも鉄平もいわばドロップアウター。出だしからして、落ちこぼれたちがさらなる危難に見舞われるイヤミス系かと思われる向きもあろう。
 いやイヤミスではなく、ゲスミスか。
 著者は二〇一七年、第三七回横溝正史ミステリ大賞で優秀賞をゲットした『悪い夏』で作家デビューを飾った。本書は長篇第二作にあたるが、その横溝賞の予選の席上でこの作品に冠されたのがゲスミス。漢字で書くと下種ミス。『悪い夏』は千葉県の架空都市の生活福祉課の面々と下種な不正受給者たちが織りなす犯罪劇であった。
 してみると、本書に登場するジョンと鉄平、さらには萌花たちJK諸君もみぃ〜んなゲスい人なのではないか!?
 実際、タイガーマスクをかぶると、ハイテンションになるどころか、人格自体変わってしまう佐藤純の壊れっぷりからして半端なかったりするのだが、著者はそのいっぽうで、屈折しながらも生真面目さや健気さを失わない鉄平やJKトリオの奮闘ぶりを活写する。黒い笑いを随所にばらまきながらも、ぎりぎりのところで人生とまともに向き合おうとする人々の勇気をも浮き彫りにしてみせるのである。
 そう、本書の登場人物たちはゲスいところもあるけど、ホントはいいヤツばかりだ。当初はお互い殺意をむき出しにする剣呑けんのんな関係だったジョンと鉄平。彼らの対決劇の行く末は果たしていかなるラストを迎えるのか。福岡の事件のような悲惨な結末を避けるにはどうしたらよいのか。本書をぜひ最後まで読んで頂きたい。相手を殺したくなるようなどす黒い憎悪も雲散霧消すること必定である。


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