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レビュー

「小説における語り」を探求し続ける稀代の物語作家が辿り着いた最高到達点 『宝島』

 この物語を語っているのは誰だ? 目の前に展開する状況やその歴史的背景を、言葉で律儀に記録しようとする意思はどこからやって来るものなのか。ほとんどの作家が「考えなくていいもの」としてスルーしている問題系に対し、真藤しんどう順丈じゅんじょうは立ち止まり、解を見出そうと立ち向かう。二〇〇八年刊のデビュー作『地図男』以来、この作家の道のりは「小説における語り」の探求と共にあった。デビュー一〇周年を飾る待望の最新刊『宝島』は、一人称複数(=「われら語り部ユンター」)を語り手に据える。語られるのは、戦後沖縄の歴史と、その歴史を生きる三人の物語だ。
 物資不足にあえぐ終戦直後の沖縄では、統治者であるアメリカ軍の倉庫や基地から物資を強奪する、戦果アギヤー(「戦果をあげる者」の意)が英雄視されていた。コザ地区で連戦連勝を続ける英雄が、オンちゃんだ。一九五二年の夏、二〇歳になったオンちゃんは仲間たちを率いて嘉手納かでな米軍基地へ侵入する。だが、強奪計画が筒抜けだったとしか思えない反撃に遭い、米軍からの決死の逃亡劇を余儀なくされる。その夜以降、オンちゃんを見た人間は誰もいない。たった数十ページで、主人公と目された人間が退場してしまう。
 親友イイドウシのグスク、実弟ウツトウのレイ、恋人ウムヤーのヤマコ。英雄を失った三人は、彼の消息を探ると共に、自らも英雄になることを決意する。だが、その定義は三者三様であり、行動原理も異なる。グスクは「だれにも止められないものに、待ったをかけられるのが英雄よ」と考え、琉球警察に入り人民を守る職務に就く。レイは「虐げられた人たちを解放できるのが英雄さぁね。そのために戦える〝力〟をそなえるのが英雄さぁね」と言い放ち、やくざ者となりアメリカ軍に対し暴力を行使する。ヤマコが選んだのは、この社会の未来そのものである「子ども」を育てる、教育者の道だ。
 一〇代の頃は常に一緒だった三人の人生は、大人になるにつれて距離が開き、独立した三本のストーリーラインを紡ぎ始める。人生を別々に歩んでいるからこそ、再会の喜びが輝く。だが、再会することによって、互いの変化を痛感する。その全てを「われら語り部」は目撃し、語り、記録する。
 作中に流れる時間で言えば二〇年、総計五四〇ページに亘り、物語はエンターテインメントのど真ん中を爆走していく。もちろん、戦後沖縄を舞台にしている以上、悲しみの記憶は参照せざるを得ない。本作は徹頭徹尾、歴史に翻弄される個人についての物語でもある。だが、悲しみに暮れることなく読み進めることができるのは、「われら語り部」による沖縄弁全開の軽やかな語り口、音感だけで心躍らせてくれるあいの手(「たっくるせ!」「あきさみよう!」)のおかげだ。この物語は、この語りがあるからこそ可能となった。しかも、驚くべきことに、この語り自体に「謎」がある。明かされるべき「真実」がある。
 最終ページに辿り着いた瞬間、魂が震える、とはこのことだと思った。「小説における語り」を探求し続ける、稀代の物語作家が辿り着いた最高到達点。小説という表現ジャンルの最前線が、ここにある。

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