クリスマスになると立ち寄りたくなる絵本コーナー。今回はちょっと大きくなったお子さんにも読み応え、そして見応えのある作品をご紹介いたします。この『星のひとみ』は、物語として楽しむだけではなく、貼り絵そのものにも注目してほしい1冊です。
せな作品の魅力の一つは「紙へのこだわり」。壁の一部は「羊羹の包み紙」、お母さんのスカートは「和菓子屋の包装紙」など、生活の周りにある紙が使われています。「これはなんの紙かな?」と、お子さんと考えながら読むのも楽しいものです。
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せなけいこ先生は、1969年『ねないこだれだ』を含む「いやだいやだの絵本」シリーズで絵本作家としてデビュー。2019年には50周年を迎えます。みなさんの本棚にも、せな作品が1冊はあるかもしれません。
50周年の節目を前に、近年せな先生の書庫において、膨大な数の原画を整理する作業が行われました。
その中で発見された作品の一つが、この『星のひとみ』です。
絵本作家になりたくて、勉強を始めてからデビューまでに18年かかったというせな先生。その間、雑誌の挿絵など、絵本以外の絵の仕事に携わってきました。『星のひとみ』は、スライドショー用の原画として保存されていたものですが、この原画にも、紙の質感や色の変化への繊細なこだわりがある、その頃の特徴が伺えます。今回の絵本化のために、せな先生自らの手で修復がなされました。
絵本の舞台は、クリスマスのフィンランド。小さな女の子の赤ん坊が、そりから雪の上に落ちてしまうところから物語は始まります。赤ん坊の体はだんだんと冷めたくなってゆくのですが、一人の農夫が通りかかりその子を拾い上げます。女の子は「星のひとみ」と呼ばれ、すくすくと大きくなっていくのですが、周りで次々と起こる不思議な出来事が、3歳になった「星のひとみ」を追い詰めることになります。そしてクリスマスイブの夜、思いもかけないことが起こります。
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せな作品の魅力の一つは、「かわいくまとまっていない」こと。せな先生曰く、「現実の子供の世界を描いていると、甘い終わり方ばかりにはならないものよ」。この作品も、そんな「甘くない」せな作品の魅力が味わえるものとなっています。
原作者のトペリウスは「フィンランドのアンデルセン」と呼ばれる作家。その物語を、現代の日本の子供たちにむけて石井睦美先生が書き下ろしました。数々の文学賞を受賞され、子供たちの心に寄り添う絵本の創作を続ける石井先生の文章が、すっと心に染み込んでゆきます。
50年の時を超えてよみがえったクリスマスの物語。お子さんとの素敵な時間をお約束します。
文:黒坂真由子
フリーランス編集者、ライター。子育て本に多く携わる。せなけいこの自伝的絵本『ねないこはわたし』(文藝春秋社、2016年)の取材、編集に協力。せな先生には「おばけの弟子」と呼ばれている。
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せなけいこさん