監禁された翻訳者の手記──
『シークレット・オブ・シークレッツ』翻訳秘話
【第3回】
2025年11月6日に発売されたダン・ブラウン最新作『シークレット・オブ・シークレッツ』の翻訳秘話が詳細につづられた、翻訳者・越前敏弥氏の日記を大公開! ダン・ブラウン作品として原書の発売日から史上最速での邦訳刊行となった『シークレット・オブ・シークレッツ』は一体どのようにして実現したのか? 超貴重な翻訳者の仕事内容、進め方、興奮から心の葛藤まで、実際の日記でお楽しみいただけます。
◎6月16日(月)
・きょうは30℃突破確実なので、今年はじめて半袖で出かける。監禁室に着いたら、エアコンは無事回復していた。これで地獄【インフェルノ】に陥らずに夏の監禁生活を乗りきれそうだ。
・岡本さん・廣瀬さんも担当分の終盤に差しかかり、あすが最終日となりそう。
・青木さんに追いついたので、きょうから3日ほど、最初から8割ぐらいのところまでの見直しにはいる。訳語統一とか、いったん保留にした個所の再考とか。
・菅原さんから第4版が届く。ほとんど変更なし。たぶんこれが最終版になるとのこと。
・くそ忙しいときには何かほかのことに逃避したくなるものだが、いまは広東語を勉強したくてたまらない。もちろん、アンジェラ・ユンが何をしゃべっているかを理解するためだ。最近は「他年她日」とか「送院途中」とか「山忌」とか、アンジェラの出演作がアジアの多くの国でつぎつぎ公開されているようなのに、なかなか日本に来ないなあ。
・岡本さん・廣瀬さんも担当分の終盤に差しかかり、あすが最終日となりそう。
・青木さんに追いついたので、きょうから3日ほど、最初から8割ぐらいのところまでの見直しにはいる。訳語統一とか、いったん保留にした個所の再考とか。
・菅原さんから第4版が届く。ほとんど変更なし。たぶんこれが最終版になるとのこと。
・くそ忙しいときには何かほかのことに逃避したくなるものだが、いまは広東語を勉強したくてたまらない。もちろん、アンジェラ・ユンが何をしゃべっているかを理解するためだ。最近は「他年她日」とか「送院途中」とか「山忌」とか、アンジェラの出演作がアジアの多くの国でつぎつぎ公開されているようなのに、なかなか日本に来ないなあ。
◎6月17日(火)
・きょうは35℃! 午前中に念のためエアコンの点検に来てもらい、これで問題ないとのこと。このまま乗り切りたい。
・11時から大谷が久しぶりにピッチャーをやるらしいが、観る術なし。
・見直し2日目。細かいところの確認でけっこう時間がかかり、思ったほど進まない。あすまでに終えるつもりだったけど、無理だな。きょうは45章まで。
・青木さんがぎっくり腰の軽いやつになっているらしい。やばくないか?
・謝辞を訳していた廣瀬さんが、最後の行に意外な記述を見つける。みんなで見て、たしかにこれはびっくり。読者のみなさん、発売されたら見てみてください。ビッグニュース。
・きょうで岡本さんが釈放3号。廣瀬さんは仮釈放で、7月はじめの最終チェック時にふたたび収監される予定。最終日ということで、きょうは花束はなかったが、岡本さんからシャーベット、廣瀬さんからお茶の差し入れ。
・11時から大谷が久しぶりにピッチャーをやるらしいが、観る術なし。
・見直し2日目。細かいところの確認でけっこう時間がかかり、思ったほど進まない。あすまでに終えるつもりだったけど、無理だな。きょうは45章まで。
・青木さんがぎっくり腰の軽いやつになっているらしい。やばくないか?
・謝辞を訳していた廣瀬さんが、最後の行に意外な記述を見つける。みんなで見て、たしかにこれはびっくり。読者のみなさん、発売されたら見てみてください。ビッグニュース。
・きょうで岡本さんが釈放3号。廣瀬さんは仮釈放で、7月はじめの最終チェック時にふたたび収監される予定。最終日ということで、きょうは花束はなかったが、岡本さんからシャーベット、廣瀬さんからお茶の差し入れ。
◎6月18日(水)
・きょうから青木さんとふたりで男子刑務所がつづく。
・越前は105章までの見直し中だが、予想したほどは進まない。きょうは72章まで。おそらく70章までが上巻になるので、そこまでをまとめて編集者3人がいつでも読めるようにしておく。
・ルノアールのモーニング、Aセットはいま無料なので、AとBの両方を注文するなんてこともできる(ドリンク1杯にプレート2枚)。12時ぎりぎりまでモーニングをやっているので、ランチのつもりで両方頼むとかなりお得。生活の知恵。
・越前は105章までの見直し中だが、予想したほどは進まない。きょうは72章まで。おそらく70章までが上巻になるので、そこまでをまとめて編集者3人がいつでも読めるようにしておく。
・ルノアールのモーニング、Aセットはいま無料なので、AとBの両方を注文するなんてこともできる(ドリンク1杯にプレート2枚)。12時ぎりぎりまでモーニングをやっているので、ランチのつもりで両方頼むとかなりお得。生活の知恵。
◎6月19日(木)
・大学の翻訳演習の授業を担当するようになって5年になるが、きょうはじめて、全員が締め切りを守って訳文を提出するという歴史的快挙を目のあたりにすることになった。学生のみなさん、ありがとう。5月22日のゲストの話が効いたんだろうか。
・そのあと、病院で定期検査があり、ふつうなら休みにするところだが、見直しがなかなか進まないので出社。15時半ごろに九段下の駅を出たら、下校中の小中高生の波が押し寄せたので、どうにか掻き分けて進む。
・20時30分まで作業(途中、15分だけ仮眠)。青木さんはすでに帰っているので、きょうはずっと独房。90章までなんとか見直し。あと半日かかるな。
・数日前に石森史郎さん、きのうジェームス三木さんの訃報。おふたりとも、越前が10代、20代にシナリオ修業をしていたころに憧れていたシナリオライターだ。ジェームス三木さんと言えば、無名時代、台本の脚本担当者のところに「ジュース三本」と書かれていて頭をかかえたという話がいまも忘れられない。お悔やみ申しあげます。
・そのあと、病院で定期検査があり、ふつうなら休みにするところだが、見直しがなかなか進まないので出社。15時半ごろに九段下の駅を出たら、下校中の小中高生の波が押し寄せたので、どうにか掻き分けて進む。
・20時30分まで作業(途中、15分だけ仮眠)。青木さんはすでに帰っているので、きょうはずっと独房。90章までなんとか見直し。あと半日かかるな。
・数日前に石森史郎さん、きのうジェームス三木さんの訃報。おふたりとも、越前が10代、20代にシナリオ修業をしていたころに憧れていたシナリオライターだ。ジェームス三木さんと言えば、無名時代、台本の脚本担当者のところに「ジュース三本」と書かれていて頭をかかえたという話がいまも忘れられない。お悔やみ申しあげます。
◎6月20日(金)
・きょうは青木さんが休みなので、またずっと独房。
・105章までようやく見直しが終わり、翻訳作業にもどる。いよいよクライマックスに近づく。
・独房だと、だれにも鼻の穴を見られる心配がないので、けっこう気軽に簡易ベッドで休める。きょうは10分ぐらい、計3回休んだので、午後の作業はかなりはかどる。
・ふだんは電車やバスに乗るのは週に2、3日程度なので、最近はパスモの残り金額がビュンビュン減っていくのを感じる。1、2か月でも通勤定期を買えばよかったのかも。交通費は最後にまとめてKADOKAWAから出ます。
・105章までようやく見直しが終わり、翻訳作業にもどる。いよいよクライマックスに近づく。
・独房だと、だれにも鼻の穴を見られる心配がないので、けっこう気軽に簡易ベッドで休める。きょうは10分ぐらい、計3回休んだので、午後の作業はかなりはかどる。
・ふだんは電車やバスに乗るのは週に2、3日程度なので、最近はパスモの残り金額がビュンビュン減っていくのを感じる。1、2か月でも通勤定期を買えばよかったのかも。交通費は最後にまとめてKADOKAWAから出ます。
◎6月21日(土)
・早朝から出勤の青木さんは13時半ごろにあがり、以後はひとり。作業がやや遅れているので、きょうは20時過ぎまで作業。おそらく、これまででいちばん多いページ数を訳したと思う。ときどき仮眠休憩をとっているのが大きい。
・建物内にほとんど人がいない状態で作業していると、大地震が来たらどうなるかとちょっと不安になる。瓦礫の山のなかから死体が発見された場合、守秘義務はどうなるのか、とか。ダイイングメッセージは、とか。
・きょうは東江一紀さんの命日。早いもので、もう11年。去年の命日には、没後10年&『ストーナー』(ジョン・ウィリアムズ、東江一紀訳、作品社)刊行10年の記念イベントをジュンク堂池袋店でやり、東江門下の布施由紀子さん、『ストーナー』が大好きなオモコロ編集長・原宿さんとたっぷりお話ししたんだった。東江さんは超多忙ななかで、別名義も含めて締め切りのきびしいチーム作業の翻訳もたくさんなさっていたけど、訳文の質はどの本もきわめて高いものだった。今回のSOSでも、そこを見習わなきゃ。
・建物内にほとんど人がいない状態で作業していると、大地震が来たらどうなるかとちょっと不安になる。瓦礫の山のなかから死体が発見された場合、守秘義務はどうなるのか、とか。ダイイングメッセージは、とか。
・きょうは東江一紀さんの命日。早いもので、もう11年。去年の命日には、没後10年&『ストーナー』(ジョン・ウィリアムズ、東江一紀訳、作品社)刊行10年の記念イベントをジュンク堂池袋店でやり、東江門下の布施由紀子さん、『ストーナー』が大好きなオモコロ編集長・原宿さんとたっぷりお話ししたんだった。東江さんは超多忙ななかで、別名義も含めて締め切りのきびしいチーム作業の翻訳もたくさんなさっていたけど、訳文の質はどの本もきわめて高いものだった。今回のSOSでも、そこを見習わなきゃ。
◎6月22日(日)
・きょうも青木さんは13時半にあがり、その後はひとりだったが、15時半ごろに休日出勤の伊集院さんが現れてびっくり。「ほぼ完成訳稿」がどんな感じを見にきて、7月からの編集作業の参考にするとのこと。さびしいので、どんどん来てください。
・翻訳作業はいよいよクライマックスに近づいているが、8割ぐらい進んだあたりは、かなり難解な専門用語や歴史的事実がたくさん描かれていて、すいすいとは進まない。とはいえ、チームの人たちが膨大な調べ物をしてくれたおかげで、本来1年ぐらいかかるところを2か月半で乗りきれるわけだ。ふだん、調べ物はURLを残してもらう形が多いが、今回はそれができず、プリントアウトされた資料は、全員のぶんを合わせると、A4用紙を重ねて厚さ20センチ以上に及ぶ。あらためて、釈放されたみなさん、お疲れさまでした。
・夕方、仕事部屋にもどったら、電気代の明細書が来ていて、ふだんの月の半額以下なので驚く。そうか、ほとんど部屋にいないんだから当然か。というか、もっと安くてもいいんじゃね?
・翻訳作業はいよいよクライマックスに近づいているが、8割ぐらい進んだあたりは、かなり難解な専門用語や歴史的事実がたくさん描かれていて、すいすいとは進まない。とはいえ、チームの人たちが膨大な調べ物をしてくれたおかげで、本来1年ぐらいかかるところを2か月半で乗りきれるわけだ。ふだん、調べ物はURLを残してもらう形が多いが、今回はそれができず、プリントアウトされた資料は、全員のぶんを合わせると、A4用紙を重ねて厚さ20センチ以上に及ぶ。あらためて、釈放されたみなさん、お疲れさまでした。
・夕方、仕事部屋にもどったら、電気代の明細書が来ていて、ふだんの月の半額以下なので驚く。そうか、ほとんど部屋にいないんだから当然か。というか、もっと安くてもいいんじゃね?
◎6月23日(月)
・青木さんが好調に進んでいるらしく、きょうも13時にあがる。ただ、「ぎっくり腰一歩手前」の状態はつづいているようだ。あと数日で釈放だろうから、腰が爆発しないことを祈ります。
・終盤になると、二穴バインダーで綴じた原文ファイルが開きにくくなり、穴の部分が破れる危険が生じてきたので、綴じをはずして作業を進める。1枚1枚減っていくのが楽しいが、終わりに近づいてちょっとさびしい気持ちも少しある。。
・謝辞にある重要人物の名前で、オランダ語読みと英語読みのどちらが正しいかわからないので、菅原さんに頼んでダンのエージェントに尋ねてもらう。
・そのエージェントは Heide Lange という女性で、これまでの訳書では「ハイデ・ラング」と表記してきたが、2018年にダン・ブラウンといっしょに来日したとき、「ハイジ」に近い発音だとわかったので、SOSでは「ハイディ」としてある。実はSOSの重要登場人物のひとりが Heide で、おそらくこの人の名前を借りたのだろう。
・編集者のカウフマン(作中ではフォークマン)とこのハイディのほかにも、今回のSOSでは、ほかに実在人物の名前をアレンジしたと思われる登場人物がふたりいる。翻訳刊行されたら、謝辞を見ながら推理してもらいたい(謝辞を読む楽しみができたぞ!)。
・終盤になると、二穴バインダーで綴じた原文ファイルが開きにくくなり、穴の部分が破れる危険が生じてきたので、綴じをはずして作業を進める。1枚1枚減っていくのが楽しいが、終わりに近づいてちょっとさびしい気持ちも少しある。。
・謝辞にある重要人物の名前で、オランダ語読みと英語読みのどちらが正しいかわからないので、菅原さんに頼んでダンのエージェントに尋ねてもらう。
・そのエージェントは Heide Lange という女性で、これまでの訳書では「ハイデ・ラング」と表記してきたが、2018年にダン・ブラウンといっしょに来日したとき、「ハイジ」に近い発音だとわかったので、SOSでは「ハイディ」としてある。実はSOSの重要登場人物のひとりが Heide で、おそらくこの人の名前を借りたのだろう。
・編集者のカウフマン(作中ではフォークマン)とこのハイディのほかにも、今回のSOSでは、ほかに実在人物の名前をアレンジしたと思われる登場人物がふたりいる。翻訳刊行されたら、謝辞を見ながら推理してもらいたい(謝辞を読む楽しみができたぞ!)。
◎6月24日(火)
・きょうも青木さんは13時ごろあがり。早ければあす、遅くともあさって釈放になるようだ。いよいよ真の独房になる日が迫る。
・きょうは16時ごろ、久々に松原さんが来てくれ、おやつの補給。塩トマトが絶妙の珍味。予想外の美味ということでは、大阪のたこパティエに匹敵するかも。しばらく気管支炎などで体調がよくなく、ようやく全快したので来てくれたとのこと。
・その松原さんが、室内で3時間ほど、SOSの冒頭部分(2割ぐらい)を通読。編集者の立場でざっと読むつもりが、引きこまれて一般読者のように夢中になったとのこと。たしかに、読者をぐいぐい引っ張っていくダン・ブラウン節は今回も健在です。早くつづきを読みたいとのこと。いつでも来てください。
・忙しいときはいろいろ気が散るというか、LE SSERAFIMのキム・チェウォンがなかなかいいと思って、ちょこっと検索したら、インスタで怒濤のようにチェウォンの動画が出つづける。だめだよ、アンジェラ・ユンに沼ってるだけでもまずいのに、ほかの子に小沼ったりしたら、仕事にならない。こうやって人はSNSをきっかけに、だれかや何かにはまっていくんだな。こわい、こわい。
・きょうは16時ごろ、久々に松原さんが来てくれ、おやつの補給。塩トマトが絶妙の珍味。予想外の美味ということでは、大阪のたこパティエに匹敵するかも。しばらく気管支炎などで体調がよくなく、ようやく全快したので来てくれたとのこと。
・その松原さんが、室内で3時間ほど、SOSの冒頭部分(2割ぐらい)を通読。編集者の立場でざっと読むつもりが、引きこまれて一般読者のように夢中になったとのこと。たしかに、読者をぐいぐい引っ張っていくダン・ブラウン節は今回も健在です。早くつづきを読みたいとのこと。いつでも来てください。
・忙しいときはいろいろ気が散るというか、LE SSERAFIMのキム・チェウォンがなかなかいいと思って、ちょこっと検索したら、インスタで怒濤のようにチェウォンの動画が出つづける。だめだよ、アンジェラ・ユンに沼ってるだけでもまずいのに、ほかの子に小沼ったりしたら、仕事にならない。こうやって人はSNSをきっかけに、だれかや何かにはまっていくんだな。こわい、こわい。
◎6月25日(水)
・SOSの終盤で、ダン・ブラウンには珍しいタイプのことば遊びがあった。暗号がらみとかではないから、無視する手もあるけど、これはダン・ブラウンの新境地とも言えるから、なんとかがんばって訳したい。そんなわけで、そこはかなり極端な訳文になっています。終盤のラングドンとフォークマンの軽妙なやりとりの場面です。ちなみに、これまでのダン・ブラウン作品のことば遊びでいちばん手こずったのは、『ロスト・シンボル』のピラミッド型暗号かな。未読の人は読んでみてください。
・いちばんの激務だった青木さんがついにきょうで釈放。これで4人目。おめでとう&お疲れさま。ぎっくり腰が爆発しなくてよかった。ゆっくり休んでください。きょうは花束を用意できなかったけど、きのう松原さんが持ってきてくれたおやつをたくさん持って帰ってもらいました。
・さて、これから月末までは独房監禁状態だけど、ときどきKADOKAWAの人たちが訳稿を読みにきてくれるとのこと。7月にはいったら、仮釈放中の廣瀬さんがもどって、最終チェックに数日付き合ってくれる予定。
・帰り際、食いしん坊仲間の麻田さん(5月28日に登場)と廊下でばったり会ったけど、他人のふり……はさすがにしなくて、笑顔で軽く手を振って別れる。まだまだ模範囚でいたいから、関係者以外と話しこんだりはできない。
・いちばんの激務だった青木さんがついにきょうで釈放。これで4人目。おめでとう&お疲れさま。ぎっくり腰が爆発しなくてよかった。ゆっくり休んでください。きょうは花束を用意できなかったけど、きのう松原さんが持ってきてくれたおやつをたくさん持って帰ってもらいました。
・さて、これから月末までは独房監禁状態だけど、ときどきKADOKAWAの人たちが訳稿を読みにきてくれるとのこと。7月にはいったら、仮釈放中の廣瀬さんがもどって、最終チェックに数日付き合ってくれる予定。
・帰り際、食いしん坊仲間の麻田さん(5月28日に登場)と廊下でばったり会ったけど、他人のふり……はさすがにしなくて、笑顔で軽く手を振って別れる。まだまだ模範囚でいたいから、関係者以外と話しこんだりはできない。
◎6月26日(木)
・今日は午前中が大学の授業だが、乗換駅でまちがって飯田橋方面の電車に乗りそうになる。そういう体になってしまったのか。こんな体にだれがした。
・大学の授業後、夕方からはずせない用があるものの、早く終わらせたいので、午後に2時間だけ出社して少しだけ訳出を進めることにする。
・飯田橋の駅から監禁ビルまでのあいだが、あまりにも暑い。毎年、夏になると1回はSNSに「暑くて暑くて大下宇陀児【うだる】」と書いてしまう性癖があるのだが、ほとんどだれにも相手にしてもらえない。一度だけ、有栖川有栖さんが「夏になると編集者との挨拶でよくそう言いますよね」と慰めてくれたことがあり、そのことばを励みに今年の夏も乗りきりたい。
・監禁部屋にはいろうとしたとき、すぐそばの会議室の入口で、『ダ・ヴィンチ・コード』などの担当編集者だった武内さん(4月17日、5月16日に登場)とばったり会う。まもなく作業が終わりそうなことや、この2か月のあれこれを話し、チームメンバーの奮闘ぶりを伝える。
・3日前に菅原さんを通して名前の読み方を尋ねた人物について、エージェントから返事が来る。アメリカ式の発音にしてくれとのこと。謝辞の最後に登場するとてもとても重要な人です。
・おけ以は7月15日から営業再開らしい。となると、仮釈放後だな。8月にゲラ作業などで再収監されることになっているので、そのときに時間があったら行ってみよう。
・大学の授業後、夕方からはずせない用があるものの、早く終わらせたいので、午後に2時間だけ出社して少しだけ訳出を進めることにする。
・飯田橋の駅から監禁ビルまでのあいだが、あまりにも暑い。毎年、夏になると1回はSNSに「暑くて暑くて大下宇陀児【うだる】」と書いてしまう性癖があるのだが、ほとんどだれにも相手にしてもらえない。一度だけ、有栖川有栖さんが「夏になると編集者との挨拶でよくそう言いますよね」と慰めてくれたことがあり、そのことばを励みに今年の夏も乗りきりたい。
・監禁部屋にはいろうとしたとき、すぐそばの会議室の入口で、『ダ・ヴィンチ・コード』などの担当編集者だった武内さん(4月17日、5月16日に登場)とばったり会う。まもなく作業が終わりそうなことや、この2か月のあれこれを話し、チームメンバーの奮闘ぶりを伝える。
・3日前に菅原さんを通して名前の読み方を尋ねた人物について、エージェントから返事が来る。アメリカ式の発音にしてくれとのこと。謝辞の最後に登場するとてもとても重要な人です。
・おけ以は7月15日から営業再開らしい。となると、仮釈放後だな。8月にゲラ作業などで再収監されることになっているので、そのときに時間があったら行ってみよう。
◎6月27日(金)
・おやつコーナーのクッキーが1枚減っていた。濡れ煎餅も1枚か2枚減った気がする。ほかに特に変わったことはない。泥棒だとしたら、あまりにも控えめすぎるから、夜のあいだにでも、KADOKAWAの3人のだれかが訳文を読みに来たんだろう。
・『なんでもわかるキリスト教大事典』をだれかが釈放時に置き忘れたようなので、LINEグループに尋ねてみたところ、茂木さんが岡本さんが持ってきたと書いていたが、岡本さん自身は記憶にないという。岡本さんの記憶が茂木さんの脳にトランスポートされたのではないかという結論に落ち着いたが、それはSOSの読みすぎというか、洗脳されすぎかもしれない(いや、正確にそういう話が出てくるわけじゃないけど)。
・きょうでいったん訳了。このあと、今月の残り3日で106章以降(全体の4分の1ぐらい)の見直しと、表記揺れの統一(これについて、一太郎ではきわめて精度の高いチェックができる)など。うまくいけば1日休めるかも。
・『なんでもわかるキリスト教大事典』をだれかが釈放時に置き忘れたようなので、LINEグループに尋ねてみたところ、茂木さんが岡本さんが持ってきたと書いていたが、岡本さん自身は記憶にないという。岡本さんの記憶が茂木さんの脳にトランスポートされたのではないかという結論に落ち着いたが、それはSOSの読みすぎというか、洗脳されすぎかもしれない(いや、正確にそういう話が出てくるわけじゃないけど)。
・きょうでいったん訳了。このあと、今月の残り3日で106章以降(全体の4分の1ぐらい)の見直しと、表記揺れの統一(これについて、一太郎ではきわめて精度の高いチェックができる)など。うまくいけば1日休めるかも。
◎6月28日(土)
・午前中は朝日カルチャーの翻訳クラス用の解説録画作成。7月からの講座の準備も少しする。
・12時半ごろ出社して、見直し作業。着いたら、ホワイトボードに「松原 242 chap 40」の文字が。どうやら松原さんが、ほぼ仕上がっている訳稿の242ページ、40章まで読んだらしい。現在、6つのPCのうち、2つはKADOKAWAの3人が訳文を自由に読めるようになっている。ファイル名は「段茶105まで」。
・自分の席の横に膝掛けが置いてあることに気づく。この部屋に最初にはいったのは4月中旬で、まだ寒い日もあったから、念のため持ってきていたのだった。そうか、投獄されてからもう2か月半経ったのか。さすがにもう不要なので持ち帰る。
・見直しは順調に進み、あすの午後の早めに終わりそう。廣瀬さんといっしょにやる最終チェックは7月1日からだから、1日半ぐらい空くことになるが、そこは休みにせず、翌週やる予定だった校閲担当者向けの資料整理を先にやってしまうことにする。1日も早く仮釈放の身になりたいからなあ。
・12時半ごろ出社して、見直し作業。着いたら、ホワイトボードに「松原 242 chap 40」の文字が。どうやら松原さんが、ほぼ仕上がっている訳稿の242ページ、40章まで読んだらしい。現在、6つのPCのうち、2つはKADOKAWAの3人が訳文を自由に読めるようになっている。ファイル名は「段茶105まで」。
・自分の席の横に膝掛けが置いてあることに気づく。この部屋に最初にはいったのは4月中旬で、まだ寒い日もあったから、念のため持ってきていたのだった。そうか、投獄されてからもう2か月半経ったのか。さすがにもう不要なので持ち帰る。
・見直しは順調に進み、あすの午後の早めに終わりそう。廣瀬さんといっしょにやる最終チェックは7月1日からだから、1日半ぐらい空くことになるが、そこは休みにせず、翌週やる予定だった校閲担当者向けの資料整理を先にやってしまうことにする。1日も早く仮釈放の身になりたいからなあ。
◎6月29日(日)
・午前中は池袋へ行って、久々にマッサージ。長く指名しているSさんに2か月ぶりにお願いしたところ、きょうは首や肩が鋼鉄みたいだと言われる。
・昨日、10代がえらぶ海外文学大賞の選考委員会があり、最終候補作7作が決まったことを三辺律子さんがメールで知らせてくれる。選考委員を土壇場で辞退したのに、ほかの選考委員と同じように遇してもらえるのは、ほんとうにありがたい。既読はまだ2作だけだけど、7月中には全部読むつもり。
・見直しと表記揺れの修正が意外に長引いて、18時ごろ終わる。そのあと、校閲者向けの資料整理をはじめようとしたが、その前に、訳出作業をしていたときの英文原稿と最新版(第4版)の突き合わせをしなくてはならないと気づく。ほとんどが誤字やスペースやイタリックへの修正などだが、2か所、重要な改変を見落としていたことに気づく。危ない、危ない。1か所は美術作品にまつわる修正で、もう1か所はなんと、ラングドンと恋人キャサリンの年齢差の修正だった!
・昨日、10代がえらぶ海外文学大賞の選考委員会があり、最終候補作7作が決まったことを三辺律子さんがメールで知らせてくれる。選考委員を土壇場で辞退したのに、ほかの選考委員と同じように遇してもらえるのは、ほんとうにありがたい。既読はまだ2作だけだけど、7月中には全部読むつもり。
・見直しと表記揺れの修正が意外に長引いて、18時ごろ終わる。そのあと、校閲者向けの資料整理をはじめようとしたが、その前に、訳出作業をしていたときの英文原稿と最新版(第4版)の突き合わせをしなくてはならないと気づく。ほとんどが誤字やスペースやイタリックへの修正などだが、2か所、重要な改変を見落としていたことに気づく。危ない、危ない。1か所は美術作品にまつわる修正で、もう1か所はなんと、ラングドンと恋人キャサリンの年齢差の修正だった!
◎6月30日(月)
・朝、建物内の自販機でドリンクを買っていたら、また翻訳演習の学生と会った。困ったものだ。また口止めする。
・第1版から第4版までの修正個所を念のためチェックしていたところ、思った以上に追記や改変があって、その変更処理だけで半日を費やしてしまう。手間どるのは紙でしかチェックできないというのも一因で、なかなかページをめくれなかったりするとけっこう苛立つ。だれも見ていないんだから、指に唾をつけてやってみようか。昭和の小技復活。
・14時ごろから校閲者向けの資料整理。それをしながら、この作品の大きな流れをもう一度確認していくのも、なかなかいい感じ。
・17時ごろ、菅原さんがお菓子の差し入れに来てくれる。数日前に最初の4分の1ぐらいを読んだという。おや、いつの間に。クッキーと濡れ煎餅を食べたかどうかは尋ねなかった。今後のプロモーションの話などもちょっとする。この監禁日記のネタを使えないか、とか。
・今週末の福島での読書会に向けて、きのうからおもに行き帰りの電車・バスのなかで、約35年ぶりに谷崎潤一郎の『細雪』を読んでいる。『細雪』って、こんな息の長い一文がつづく作品だったっけ。一見落ち着きに欠けるかのようなひょろっとした軽い文体だけど、文の「体幹」がぶれないから(「視点」と「方向」が乱れないから、と言ってもいい)、疲れていても頭にはいりやすい。自分がめざしている訳文は、これにかなり近いものだと思う。
・第1版から第4版までの修正個所を念のためチェックしていたところ、思った以上に追記や改変があって、その変更処理だけで半日を費やしてしまう。手間どるのは紙でしかチェックできないというのも一因で、なかなかページをめくれなかったりするとけっこう苛立つ。だれも見ていないんだから、指に唾をつけてやってみようか。昭和の小技復活。
・14時ごろから校閲者向けの資料整理。それをしながら、この作品の大きな流れをもう一度確認していくのも、なかなかいい感じ。
・17時ごろ、菅原さんがお菓子の差し入れに来てくれる。数日前に最初の4分の1ぐらいを読んだという。おや、いつの間に。クッキーと濡れ煎餅を食べたかどうかは尋ねなかった。今後のプロモーションの話などもちょっとする。この監禁日記のネタを使えないか、とか。
・今週末の福島での読書会に向けて、きのうからおもに行き帰りの電車・バスのなかで、約35年ぶりに谷崎潤一郎の『細雪』を読んでいる。『細雪』って、こんな息の長い一文がつづく作品だったっけ。一見落ち着きに欠けるかのようなひょろっとした軽い文体だけど、文の「体幹」がぶれないから(「視点」と「方向」が乱れないから、と言ってもいい)、疲れていても頭にはいりやすい。自分がめざしている訳文は、これにかなり近いものだと思う。
◎7月1日(火)
・きょうから廣瀬さんが最終チェックの手伝いに来るが、越前は午前中に朝日カルチャーの講座があるので午後出社。先に廣瀬さんにはじめていてもらう。
・その朝日カルチャーの翻訳講座だが、時間がほとんどなくてやっつけ仕事で準備したせいもあって、自分の作った訳文がひどい出来で、直したものを再配布する始末。すみませんごめんなさいもうしません。
・午後から出社で、飯田橋の駅を出たらとんでもなく暑く、思わずまた「暑くて暑くて大下宇陀児」とひとりごと。まだ7月1日なのに2度も口にするなんて、今年の夏はどうなってしまうのか。
・19時まで廣瀬さんと作業をしていたら、松原さんがお菓子を持ってきてくれ、それから訳文の続きを読みはじめる。ふだんから原稿読みは夜遅くが集中できるとのこと。こちらは20時ごろに失礼し、あとはよろしくと伝える。あ、そうそう、濡れ煎餅を食べた犯人は菅原さんだったと判明。
・その朝日カルチャーの翻訳講座だが、時間がほとんどなくてやっつけ仕事で準備したせいもあって、自分の作った訳文がひどい出来で、直したものを再配布する始末。すみませんごめんなさいもうしません。
・午後から出社で、飯田橋の駅を出たらとんでもなく暑く、思わずまた「暑くて暑くて大下宇陀児」とひとりごと。まだ7月1日なのに2度も口にするなんて、今年の夏はどうなってしまうのか。
・19時まで廣瀬さんと作業をしていたら、松原さんがお菓子を持ってきてくれ、それから訳文の続きを読みはじめる。ふだんから原稿読みは夜遅くが集中できるとのこと。こちらは20時ごろに失礼し、あとはよろしくと伝える。あ、そうそう、濡れ煎餅を食べた犯人は菅原さんだったと判明。
◎7月2日(水)
・朝一番で菅原さんからメール。作者からの最終修正個所のリストが来たという。まもなく訳了というときにたくさんだと困るなあと思っていたら、修正は2か所だけだったのでほっとする。濡れ煎餅のことは問いたださなかった。
・お菓子がたくさんあるので、昼食はそれですませ、校閲者用の資料作成を14時ごろ終了。校閲者のかたにもふだんとちがうきわめて不便な環境で作業をしてもらうわけだから、できるかぎり時間の節約をしてもらいたいものだ。この資料が役に立つことを祈る。
・その横で廣瀬さんがずっと訳文の最終チェックをしてくれていて、半分を少し過ぎたあたりらしい。こちらは新潮社の再校ゲラ作業などがはじまるので、14時30ごろ退社。廣瀬さん、あとはよろしく。お菓子食べ放題だぞ。夜にまただれか来るかも。
・お菓子がたくさんあるので、昼食はそれですませ、校閲者用の資料作成を14時ごろ終了。校閲者のかたにもふだんとちがうきわめて不便な環境で作業をしてもらうわけだから、できるかぎり時間の節約をしてもらいたいものだ。この資料が役に立つことを祈る。
・その横で廣瀬さんがずっと訳文の最終チェックをしてくれていて、半分を少し過ぎたあたりらしい。こちらは新潮社の再校ゲラ作業などがはじまるので、14時30ごろ退社。廣瀬さん、あとはよろしく。お菓子食べ放題だぞ。夜にまただれか来るかも。
◎7月3日(木)
・午前中は大学の授業に映像翻訳者3人(岩辺いずみさん、永井歌子さん、松本陽子さん)をお招きして、映像翻訳はどんな仕事かを話してもらう。ふだんの翻訳の授業よりゲスト回のほうは学生が元気なので、来年度もゲスト回を3回設けよう。翻訳クラスは来週終了。そう言えば、永井さんとは4月30日に飯田橋でばったり会って、叙述トリックでごまかしたんだったな。きょうもこっち方面の仕事については最小限のことしか話していません。
・午後から出社し、廣瀬さんがチェックしてくれた個所を中心に、最後の見直し。自分では気づかないミス(特に訳語の不統一)がかなり見つかって助かる。全体の4分の3ぐらいのチェックを終えて夕方帰宅。その後、廣瀬さんひとりが残って、20時ごろ、チェックを最後まで終えたという連絡あり。いよいよ、あす訳稿完成となるはず。
・松原さんが4分の3ぐらい読み終えたらしい。犯人がわかったかどうか、あす尋ねてみよう。
・午後から出社し、廣瀬さんがチェックしてくれた個所を中心に、最後の見直し。自分では気づかないミス(特に訳語の不統一)がかなり見つかって助かる。全体の4分の3ぐらいのチェックを終えて夕方帰宅。その後、廣瀬さんひとりが残って、20時ごろ、チェックを最後まで終えたという連絡あり。いよいよ、あす訳稿完成となるはず。
・松原さんが4分の3ぐらい読み終えたらしい。犯人がわかったかどうか、あす尋ねてみよう。
◎7月4日(金)
・残りの部分を終えて最終チェック完了。13時ごろ、監禁室に来てくれた松原さんに訳稿ファイルを預ける。編集者・校閲者に向けての申し送り事項のファイル、調査で残した資料(A4用紙で厚さ20センチ以上)、チェコ語のメモなどもいっしょに渡す。ついに仮釈放!
・犯人について、松原さんは思うところがあるものの、菅原さん・伊集院さんも含めた3人が読み終えるまで何も語らないつもりとのこと。さて、どうなることか。
・松原さんによると、少し前に岡本さんからメールが来て、「監禁室ロス」でさびしくてたまらないと書いてあったとのこと。なんならまた監禁されにきてもいいですよ。と言いつつ、自分もしばらくロスに陥るかもしれない。つぎは7月末に初校ゲラのチェックで再収監される予定で、それがなんとなく楽しみだったりもする。
・ふだんの翻訳の仕事は、けっこう気まぐれなペースで進めているが、この数か月は否が応でもイーブンペースで作業を進めざるをえないという形で仕事をしてきた。さまざまな点で不自由な環境ではあったが、このように閉じこめられての集団作業だったことで、火事場の馬鹿力というか、ふつうならまちがいなく半年以上かかるであろう仕事を2か月半で終えることができた。またやりたいかと言われたら、とうていイエスとは答えられないものの、この経験をつぎの何かに生かせる気はしている。
・神楽坂の甘味の名店・紀の善が7月18日に復活するらしい。15日には餃子のおけ以も復活することだし、つぎはその2軒へ出向くのを楽しみにしつつ、とりあえず1か月足らずの仮釈放期間を楽しむことにしよう。まず、あさってからの福島県郡山市での読書会に備えて『細雪』の残りを読まなくては。いや、その前に、ずっと観るのを我慢していたアンジェラ・ユンのロングインタビュー動画をたっぷり――
・犯人について、松原さんは思うところがあるものの、菅原さん・伊集院さんも含めた3人が読み終えるまで何も語らないつもりとのこと。さて、どうなることか。
・松原さんによると、少し前に岡本さんからメールが来て、「監禁室ロス」でさびしくてたまらないと書いてあったとのこと。なんならまた監禁されにきてもいいですよ。と言いつつ、自分もしばらくロスに陥るかもしれない。つぎは7月末に初校ゲラのチェックで再収監される予定で、それがなんとなく楽しみだったりもする。
・ふだんの翻訳の仕事は、けっこう気まぐれなペースで進めているが、この数か月は否が応でもイーブンペースで作業を進めざるをえないという形で仕事をしてきた。さまざまな点で不自由な環境ではあったが、このように閉じこめられての集団作業だったことで、火事場の馬鹿力というか、ふつうならまちがいなく半年以上かかるであろう仕事を2か月半で終えることができた。またやりたいかと言われたら、とうていイエスとは答えられないものの、この経験をつぎの何かに生かせる気はしている。
・神楽坂の甘味の名店・紀の善が7月18日に復活するらしい。15日には餃子のおけ以も復活することだし、つぎはその2軒へ出向くのを楽しみにしつつ、とりあえず1か月足らずの仮釈放期間を楽しむことにしよう。まず、あさってからの福島県郡山市での読書会に備えて『細雪』の残りを読まなくては。いや、その前に、ずっと観るのを我慢していたアンジェラ・ユンのロングインタビュー動画をたっぷり――
◎その後
・7月4日にKADOKAWAに預けられた訳稿は、組版担当のかたによってゲラ(校正刷り)の形になったあと、校閲(おもにファクトチェックなど)担当の川村信郎さん、校正(おもに日本語表現のチェックなど)担当の西脇章子さん、そして編集担当の松原さんなどによる精査と詳細なメモ入れを経て、7月末に訳者へもどされた。もちろん、それらの作業もすべて、同じ監禁室で同じルールに則っておこなわれている。みなさん、お疲れさまでした。
・1か月弱の仮釈放期間ののち、7月30日(水)に越前・廣瀬のふたりが監禁室に再収監され、初校ゲラの修正作業をはじめた。与えられた期間は、上下巻について各7日ずつ。ふだんの仕事では、校閲者のメモと校正者のメモを編集者がひとつのゲラにまとめて訳者に渡すのがふつうだが、今回は1日を争うタイトなスケジュールが組まれているので、その余裕はなく、訳者が2種類のゲラを同時並行で(しかも上巻と下巻を別日程で)チェックするという、またしてもこれまで経験したことのない作業に取り組むことになった。
・ここからの作業は代表訳者である越前が単独でおこなうのがふつうだが、2か月半という短期間で仕上げた訳稿だから確認や修正を要する個所が多いと予想されることや、以前も書いたように原文の検索ができない悪環境にあることなどを考慮し、訳出作業のときに担当期間が短かった廣瀬さんに手伝ってもらうことにした。廣瀬さんは上下とも3日間で隅々までの確認作業を終えたばかりか、ほかにも新たな検討個所・修正個所をいくつもていねいに洗い出し、越前ひとりではとうてい見きれなかったところまでカバーしてくれた。ありがとう。
・校閲担当の川村さんには残念ながらすれちがいでお目にかかれなかったが、初校の校正担当の西脇さんとはずっと監禁室でごいっしょさせていただいた。われわれが上巻の作業をしているときに、西脇さんはすぐ横で下巻の作業を進めていらっしゃったわけで、さぞやりづらかっただろうと思うが、ほとんど休憩もなさらず、毎日われわれよりずっと長時間にわたってPCに向かっていらっしゃる姿を見て、ただただ頭のさがる思いだった。
・下巻の初校を直し終わったのが8月14日(木)。つぎにKADOKAWAへ出向いたのは25日(月)で、その日の午後、越前は文学フリマのために出向いていた札幌から帰京し、ほんの少し休んで夕方に出社した。向かったのは監禁室ではなく、別の建物の一室で、目的は作者のダン・ブラウンさんにオンラインでインタビューするためだった。あまりうまく質問できなかったが、ダンから聞き出したいと思っていたことはほぼ話してもらえた手応えがあった。このときの様子は、後日BSテレ東「あの本、読みました?」で放送されることになっている。
・翌26日(火)から再校ゲラの直し作業がはじまった。ふつう、再校ゲラでは修正すべきところがあまり残っていないものだが、今回はまだまだ要検討の個所が多く、平均して1ページに1か所近く手を入れる感じだった。再校の校正担当の渡邉潤子さんも、初校の西脇さんと同じく、こちらが上巻の作業をしているときに、横で下巻の作業をなさっていた。おふたりの目のつけどころが微妙に異なっていて、お互いに補完し合うような感じで、精度の高い訳稿に仕上がっていったと思う。あらためて、校正・校閲のお三方、ありがとうございました。
・再校のときには廣瀬さんのヘルプはなく、越前ひとりで黙々と直しをつづけたが、室内では編集者の菅原さん・伊集院さん・松原さんが交代でさまざまな作業をしたり、プロモーションの打ち合わせをしたりで、こちらも気分転換ができて作業がはかどった。再校の直しは9月1日(月)に終了し、訳者あとがきもほぼ同時に書きあがった。
・本国での発売は9月9日(火)で、そのときにさまざまな情報が解禁になると言われていたが、少し前の5日(金)に一部の訳文を公開してよいことが急遽決まり、ダ・ヴィンチWEBに記事が掲載された。
https://ddnavi.com/article/1290181/a/
さらに翌日、「カドブン」のサイト内にダン・ブラウン作品の特設ページも開設。
https://kadobun.jp/special/dan-brown/
そして本国での発売後、越前も自分のnote を更新した。
https://note.com/t_echizen/n/n8bc7e78a3b8d
・10日(水)、さらに念校(三校とも言う)がおこなわれ、さすがにこの作業は1日足らずで終了した。これで越前の翻訳作業はすべて終わり。監禁室には新聞取材のためにもう一度来る予定で(9月9日を過ぎたので、だれでもはいってよい)、その後にいよいよカードキーを返却することになる。さて、「監禁ロス」が訪れるかどうか。
・プロモーションの手立ても少しずつ決まり、越前もそれに向けていくつか原稿やメッセージを書いていたところ、9月半ばに驚きのニュースが飛びこんできた。監禁が決まったときに負けないぐらいの衝撃だ。ええっ、ほんとうにそんなことが? もしそれが実現したら、長期の監禁によって押しとどめていたエネルギーを一気に放出できるかもしれない。そして、ほっとして、この手記の第2部を書くことになるのか? 第1部「監禁編」、第2部「解放編」とか。
・なんだか謎めいた書き方で終わって、すみません。ともあれ、11月6日発売『シークレット・オブ・シークレッツ』、すごい作品です。どうぞお楽しみに。
・1か月弱の仮釈放期間ののち、7月30日(水)に越前・廣瀬のふたりが監禁室に再収監され、初校ゲラの修正作業をはじめた。与えられた期間は、上下巻について各7日ずつ。ふだんの仕事では、校閲者のメモと校正者のメモを編集者がひとつのゲラにまとめて訳者に渡すのがふつうだが、今回は1日を争うタイトなスケジュールが組まれているので、その余裕はなく、訳者が2種類のゲラを同時並行で(しかも上巻と下巻を別日程で)チェックするという、またしてもこれまで経験したことのない作業に取り組むことになった。
・ここからの作業は代表訳者である越前が単独でおこなうのがふつうだが、2か月半という短期間で仕上げた訳稿だから確認や修正を要する個所が多いと予想されることや、以前も書いたように原文の検索ができない悪環境にあることなどを考慮し、訳出作業のときに担当期間が短かった廣瀬さんに手伝ってもらうことにした。廣瀬さんは上下とも3日間で隅々までの確認作業を終えたばかりか、ほかにも新たな検討個所・修正個所をいくつもていねいに洗い出し、越前ひとりではとうてい見きれなかったところまでカバーしてくれた。ありがとう。
・校閲担当の川村さんには残念ながらすれちがいでお目にかかれなかったが、初校の校正担当の西脇さんとはずっと監禁室でごいっしょさせていただいた。われわれが上巻の作業をしているときに、西脇さんはすぐ横で下巻の作業を進めていらっしゃったわけで、さぞやりづらかっただろうと思うが、ほとんど休憩もなさらず、毎日われわれよりずっと長時間にわたってPCに向かっていらっしゃる姿を見て、ただただ頭のさがる思いだった。
・下巻の初校を直し終わったのが8月14日(木)。つぎにKADOKAWAへ出向いたのは25日(月)で、その日の午後、越前は文学フリマのために出向いていた札幌から帰京し、ほんの少し休んで夕方に出社した。向かったのは監禁室ではなく、別の建物の一室で、目的は作者のダン・ブラウンさんにオンラインでインタビューするためだった。あまりうまく質問できなかったが、ダンから聞き出したいと思っていたことはほぼ話してもらえた手応えがあった。このときの様子は、後日BSテレ東「あの本、読みました?」で放送されることになっている。
・翌26日(火)から再校ゲラの直し作業がはじまった。ふつう、再校ゲラでは修正すべきところがあまり残っていないものだが、今回はまだまだ要検討の個所が多く、平均して1ページに1か所近く手を入れる感じだった。再校の校正担当の渡邉潤子さんも、初校の西脇さんと同じく、こちらが上巻の作業をしているときに、横で下巻の作業をなさっていた。おふたりの目のつけどころが微妙に異なっていて、お互いに補完し合うような感じで、精度の高い訳稿に仕上がっていったと思う。あらためて、校正・校閲のお三方、ありがとうございました。
・再校のときには廣瀬さんのヘルプはなく、越前ひとりで黙々と直しをつづけたが、室内では編集者の菅原さん・伊集院さん・松原さんが交代でさまざまな作業をしたり、プロモーションの打ち合わせをしたりで、こちらも気分転換ができて作業がはかどった。再校の直しは9月1日(月)に終了し、訳者あとがきもほぼ同時に書きあがった。
・本国での発売は9月9日(火)で、そのときにさまざまな情報が解禁になると言われていたが、少し前の5日(金)に一部の訳文を公開してよいことが急遽決まり、ダ・ヴィンチWEBに記事が掲載された。
https://ddnavi.com/article/1290181/a/
さらに翌日、「カドブン」のサイト内にダン・ブラウン作品の特設ページも開設。
https://kadobun.jp/special/dan-brown/
そして本国での発売後、越前も自分のnote を更新した。
https://note.com/t_echizen/n/n8bc7e78a3b8d
・10日(水)、さらに念校(三校とも言う)がおこなわれ、さすがにこの作業は1日足らずで終了した。これで越前の翻訳作業はすべて終わり。監禁室には新聞取材のためにもう一度来る予定で(9月9日を過ぎたので、だれでもはいってよい)、その後にいよいよカードキーを返却することになる。さて、「監禁ロス」が訪れるかどうか。
・プロモーションの手立ても少しずつ決まり、越前もそれに向けていくつか原稿やメッセージを書いていたところ、9月半ばに驚きのニュースが飛びこんできた。監禁が決まったときに負けないぐらいの衝撃だ。ええっ、ほんとうにそんなことが? もしそれが実現したら、長期の監禁によって押しとどめていたエネルギーを一気に放出できるかもしれない。そして、ほっとして、この手記の第2部を書くことになるのか? 第1部「監禁編」、第2部「解放編」とか。
・なんだか謎めいた書き方で終わって、すみません。ともあれ、11月6日発売『シークレット・オブ・シークレッツ』、すごい作品です。どうぞお楽しみに。