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特集

第9回ポプラ社小説新人賞受賞作『ニキ』 夏木志朋さんインタビュー

取材・文:小説 野性時代編集部 

常に周囲から馬鹿にされ、浮いてしまう高校生・田井中広一。一見穏やかで、生徒から人気のある美術教師・二木良平。広一と二木との異常な邂逅と「普通」を巡る悪戦苦闘を描いた青春小説が、第9回ポプラ社小説新人賞を受賞しました。執筆背景を著者の夏木志朋さんに伺いました。


――この度はポプラ社小説新人賞、受賞おめでとうございます! 作品が本になり、デビューされた率直な感想を教えてください。


夏木:書き上げるまで途中で何度もこれをやめて別のものを書こうと思いましたが、とにかく今書いている作品の精度を上げていこうと思い直し、何とか書き上げることができました。以前にも増してプロ作家への尊敬の念が深まりましたね。常に理想的なコンディションではないと思うのですが、それでも新作を出し続けるのはすごいと思います。


――応募までの執筆経緯を教えてください。随分前から小説はお書きになっていたのですか。


夏木:小さい頃から何か創作をしていたというわけではありません。何かを書くといっても、子供の頃は小学校の読書感想文ぐらいでしたし、学校を卒業してからは不動産会社に就職したので、まさか自分が小説を書くことになるとは思いませんでした。本に限らず、漫画や映画、全般的にフィクションが好きでした。


――本作は夏木さんが書かれた初めての小説だったのでしょうか。


夏木:いえ、『ニキ』を書き上げる前に練習で、「押し入れで大麻を育てるOL」を描いた短編を書いていました。その短編のラストが、主人公が大麻を東京近郊の山の中に捨てにいくという話だったのですが、その大麻をもし中学生が拾ってしまったらどうなるんだろう、という発想が浮かびました。

 中学生はなぜ裏山にいるのか。たぶん、そこから誰かの家を覗いているのだろう。それは綺麗な女の先生だろうと思い、その時に生徒が教師の私生活を覗いているという構図が出来上がりました。

 賞に応募する長編を書くにあたり、何を書こうかと連想を膨らませた結果、出来上がりました。


――大麻を押し入れで育てるOL……。刺激的な題材ですね。本作では、二木の人気教師としての一面と、小児性愛障害を抱える性的マイノリティーとしての一面が描かれています。そうした人の意外な二面性を描こうと意識し、本作を書き上げたのでしょうか。


夏木:そうですね。最初に書いた作品も「押し入れ」がテーマで、今回の作品も「クローゼット」が一つのキーとなっているので、もしかしたら私の深層心理からそうしたモチーフを選んだのかもしれないと今は思います。人の二面性を描こうという気持ちは最初からありました。


――二木という特異なキャラクターはなぜ生まれたのでしょうか。


夏木:経緯は複雑で、ひとつこうだとは説明ができないのですが……。モデルはたくさんいます。『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくる殺人鬼の吉良吉影など、フィクションのキャラクターの影響も少なからず受けています。人を殺さずにはいられない吉良が、殺さずに生きることはできなかったのか、そんなことを子供の頃から考えていました。二木のキャラクターを考えるうえでも頭の片隅にありました。


――本作の内容には、夏木さんご自身の経験なども少し反映されているのでしょうか。


夏木:作品によって割合は色々とあるかと思いますが、実体験と妄想、調べの3本柱で執筆が成り立つとすれば、妄想が6割、実体験が2割、調べが2割ぐらいです。今後の作品は分かりませんが、今回の作品ではそんな感じでした。


――これまでどのようなジャンルの本を読まれてきたのでしょうか。


夏木:あまりジャンルを決めて読んできたわけではありません。乱読というか。中島らもさんや、梁石日さん、ホラーですと最近は澤村伊智さんの作品を読んで面白いと感じました。


――今後書いていきたい小説のジャンルは決まっていますか。


夏木:エンタメを軸に書いていきたいと思います。爽やかな話も好きですし、色々と試したいと思います。同じ雰囲気の作品ばかり書いていたら、自分自身飽きてしまうと思いますので。


夏木 志朋(なつき・しほ)

1989年大阪府生まれ。大阪市立第二工芸高校卒。不動産会社などに勤務した後、2019年、本作にて第9回ポプラ社小説新人賞受賞。

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