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連載

河﨑秋子の羊飼い日記 vol.4

【連載第4回】河﨑秋子の羊飼い日記「家畜たちのグレイトジャーニー」

河﨑秋子の羊飼い日記

北海道の東、海辺の町で羊を飼いながら小説を書く河﨑秋子さん。そのワイルドでラブリーな日々をご自身で撮られた写真と共にお届けします!
>>【連載第3回】「真のドナドナ」

 本年最初の更新となりました。遅ればせながらあけましておめでとうございます。本年も味のある文章と味がいい羊を目標に頑張りたい所存です。
 さて、年末年始といってもわが家のような家族経営の牧場では休みがあるはずもない。大晦日でも牛は出産するし、羊はエサを要求してメーメーうるさい。農作業に加えて年越しの準備も重なるため、なんとなく理不尽さを感じる。
 とはいえ正月を汚い家で迎えるのも嫌だし、と面倒くさいながらも大掃除に取りかかる。今回は作業中のBGM代わりに録画してあった科学ドキュメンタリー番組を延々と流していた。人類が文明を花開かせた過程についての話だ。麦などの農作物を改良し、いかにして伝播させていったのか、というあたりでつい手を止めて見入ってしまった。長い時間をかけて有益な植物を広めていく様子は実にドラマティックだった。
 番組は植物についてだったが、動物にも同じことがいえるだろう。野生に存在する生き物を選択的に取りこみ、自分達の都合のいい個体を掛け合わせて育種をする。その品種が拡散されるとさらにその各地で育種がなされ、バリエーションを増やして人の文明を支えていく。うん、非常に興味深い
 ちなみに羊の場合、もとは4種類の野生種を人間が捕まえて改良を重ね、現在、世界中に存在する羊の品種は約1000種以上とも言われる。うちで飼っているサフォーク種の原産国はイギリスだ。さらに遡ればヨーロッパ本土、さらには中東の原種に行き着くのだろう。イギリスでようやくこの頭と手足が黒い羊を品種として確定させた人(たぶんサフォーク州のだれか)は、まさかその後この羊が極東の島国に渡り、肉のブランド名のように扱われるだなんて思いもしなかっただろう。
 生物種の根源的目的が増殖・進化・拡散なのだとしたら、家畜を飼っているように思いながら、種の繁栄に利用されているのは人間の方かもしれない。実際、自分の身を顧みると、お羊様が毎日元気で結構に過ごせるよう気を配り掃除をし餌を食べて頂き、不調とあらば早朝から気を揉み、難産ともなれば真夜中に馳せ参じて健やかな御子が生まれるよう不肖人間の身でありながら分娩の介助をさせて頂き、無事に命を繋いで貰うのだ。…うん、どちらが主人かまるで分からなくなってきた。
 …などという徒然よしなしごとを考えていたら、目の前の部屋は全然片付かなかった。大掃除は年明け後に持ち越され、結局今年の元旦も家畜の世話に追われ、微妙に散らかった部屋で雑煮を作る羽目になったのだった。

 
 
河﨑秋子(かわさき・あきこ)
羊飼い。1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒。大学卒業後、ニュージーランドにて緬羊飼育技術を1年間学んだ後、自宅で酪農従業員をしつつ緬羊めんようを飼育・出荷。
2012年『北夷風人』北海道新聞文学賞(創作・評論部門)受賞。2014年『颶風ぐふうの王』三浦綾子文学賞受賞。翌年7月『颶風の王』株式会社KADOKAWAより単行本刊行(2015年度JRA賞馬事文化賞受賞)。


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