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連載

河﨑秋子の羊飼い日記 vol.2

【連載第2回】河﨑秋子の羊飼い日記「草食系男子の変貌」

河﨑秋子の羊飼い日記

北海道の東、海辺の町で羊を飼いながら小説を書く河﨑秋子さん。そのワイルドでラブリーな日々をご自身で撮られた写真と共にお届けします!
>>第1回 羊飼い専用武器

 季節は秋、紅葉が綺麗だな~と思うや爆弾低気圧が襲来し、木の葉がいっぺんに落ちて寒々しくなる。今年も道東は例年通りの秋だった。農家としては夏と比べて外仕事がぐんと少なくなる。仕事は毎日たくさんあるが、それでも少し減ってくれるだけでありがたい。
 羊たちはこの時期、繁殖のシーズンの真っ最中。分娩をさせたいメスの群れの中に、種オスを送りこむのだ。うちの場合ではオス1頭につきメスは15頭。本来はオス1頭につきメス50~100頭が交配可能なので、かなり余裕のある配分だ。たいてい全頭受胎する。
 さて、今年は種羊として2歳のオスを購入してきた。交配経験はないが、体のバランスも良いし、このオスの子なら肉付きも良さそうだ。便宜上、テリーさんと名付ける。(※肉にしない羊は名前をつけてよい河﨑ルールに基づく)
このテリーさん、ありがたいことにとても人懐こくて大人しい。背中で猫が眠っても全く怒らない。種羊によっては性格が荒くて扱いづらいこともあるので、非常に助かる。
 さて早速、テリーさんをメスの群れに放り込んだ。最初は戸惑っていたようだが、2,3時間もするとメスに乗っかることを覚えてくれた。数日後には群れにもすっかり馴染んでいた。これでひと安心。
 そしてある日、事件は起きた。小雨の降る朝、私はカッパを羽織っていつものように囲いの内側で羊の餌を用意していた。すると、いきなり尻に殴られたような衝撃が走った。3つに割れたらどうすんだ! と振り返るとそこには、頭を下げ、こちらを睨みつけるテリーさんの姿が。そう、彼はメスの群れに入ったことでオス本来のテリトリー意識に目覚め、異分子(私)を排除しようと必殺・頭突きをしてきたのだ。
思わず、「この野郎…女おぼえた途端に調子に乗りやがって…!」などと、夏休み明けに豹変した友人に悪態をつく男子高校生のような台詞が出る。とりあえず、これ以上の頭突きを避けるため、テリーさんに背を向けないように注意してその日の仕事を終えた。
 その後、テリーさんが私に攻撃をしてくる様子はない。どうやらあの時は、いつもの作業着の上にカッパを着ていたため、私だと分からず頭突きをかましたらしい。
 まったく仕方のないテリーさんだと呆れつつ、痛む尻をさすりながら草食系侮り難し……とも思うのだった。(ちなみに軽い内出血で済んだ。割れていない)

 
 
河﨑秋子(かわさき・あきこ)
羊飼い。1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒。大学卒業後、ニュージーランドにて緬羊飼育技術を1年間学んだ後、自宅で酪農従業員をしつつ緬羊を飼育・出荷。
2012年『北夷風人』北海道新聞文学賞(創作・評論部門)受賞。2014年『颶風の王』三浦綾子文学賞受賞。翌年7月『颶風の王』株式会社KADOKAWAより単行本刊行(2015年度JRA賞馬事文化賞受賞)。


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