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レビュー

「親米」日本というメビウスの輪 『「親米」日本の誕生』

 戦後日本の歩みを「対米従属」や「アメリカ化」といった観点から論じた本は多い。日本をアメリカの「属国」と評する語りも最近は珍しくなくなった。
 敗戦後のGHQによる占領政策以来、アメリカがさまざまなチャンネルを通じて、アメリカ的価値観を日本に植え付けてきたことに苛立ちを覚え、アメリカが体現する資本主義を批判する声も目立ってきた。おそらく少なからぬ日本人は、薄々気づいているのだ。アメリカ的な価値観が「神話」に過ぎないということに。
 だが、わかっていてもやめられない。いや、そもそも「アメリカ的なもの」をやめることなんてできるのか。ハンバーガーやコーラのない生活を想像することさえ難しい。
 本書は、わかっていてもやめられないアメリカ的価値観が、どのように日本に定着していったのかを探求した本だ。そのキーワードとして挙げられているのが「物質性」である。

チョコレートやガムは決して単なるイデオロギーの産物ではない。それは口の中で私たちの感覚を刺激する。物質がもたらす快楽の刺激によって人間は喜んで「主体化」のプロセスへと足を運ぶのである。これを物質性と呼ぶ

 
 著者が繰り返し指摘するように、日本人は受動的な被害者ではなく、物質の生産や消費を通じて、主体的に「アメリカ的な価値観を共有しようと欲した」。本書は、数多くの雑誌記事や学校教科書、テレビCMなどを紹介しながら、アメリカに対する日本人の愛憎入りまじる感情の形成を検証していく。
 たかがチョコレートと侮るなかれ。たとえば、一九四九年に出版された『保育絵本』の附録にある「チョコレート」という歌では、チョコレートを「おんなじ」に分け合うことの大切さが歌われている。「アメリカ製のチョコレートは、民主主義の象徴でもあった」のだ。
 このようなアメリカ的な民主主義の神話が、家庭内の民主化というかたちで、「男らしさ」や「女らしさ」という性差を本質化していったという洞察も鋭い。
 なぜ、家庭内の民主化が性差にもとづく分業と結びつくのか。市民が責任をもって民主的な社会を形作ることと、男女が家庭内でそれぞれの役割を主体的に果たすことが同一視されたからだ。この理屈にしたがえば、女性が主婦として主体的に家庭のために働くことは、隷属ではなく民主的な解放となる。家計簿の記帳、間取りや台所の改善、食生活改善の責任者は女性とされ、家庭科の教科書や雑誌記事などを通じて、家事の合理化や近代化が推奨されていったのだ。
 読者は、さまざまな資料を通じて、住宅や電気器具、テレビ、旅行、自動車など、私たちの身の回りのあらゆる事物に「アメリカ的」というスタンプが押されていることを知るはずだ。
 が、ややこしいことに、日本はアメリカ製の商品を独自に翻訳・加工しながら「日本的なもの」を作り、アメリカ製品を凌駕することに誇りを見いだしていった。自動車産業や電機製造産業はその典型だ。ゆえに、敗戦後の日本人の主体性には、「アメリカ的なもの」と「日本的なもの」とが、メビウスの輪のように貼り合わされている。
 著者は序章と五章のそれぞれで「健忘症」という語を使っている。敗戦後の占領下、敵国アメリカの評価は、戦時中の「アメリカ憎し」から一変し、憧れの国となった(序章)。そして一九九〇年代以降、日本はアメリカに憧れて成長したことをあえて忘れ、「日本らしさ」「日本的なもの」をことさらに強調するようになった(五章)。
 だが、いかに忘れようとしたところで、「親米は、二一世紀の日本のナショナリズムと分かちがたく結びついていく」。その分かちがたい結びつきの来歴を、お題目としてではなく、ありふれた日常の事物から解き明かしていった点に、本書の大きな意義がある。


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