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レビュー

人生のどん底から僕を救ったのは、金魚の化身のワケアリ美女?直木賞作家がおくる、ひと夏の物語『金魚姫』

【カドブンレビュー】

 仏壇仏具会社の営業として働く潤。そこはいわゆるブラック企業。会社では過剰なノルマと上司からの罵倒、プライベートでは彼女と別れ、死を考えるほど疲れていた。とある休日、近所の夏祭りに立ち寄り、一匹の金魚を持ち帰ることに。それは深い紅色の琉金(りゅうきん)という金魚だ。死を考えていた潤だが、育ててみようと思い立つ。飼育のため購入した『金魚傳(きんぎょでん)』を読んでいると、見知らぬ美女が目の前に。それは持ち帰ってきた金魚の化身だった。その金魚にリュウと名付けて、2人の奇妙な同居生活が始まる。

 リュウは、自分が何者なのか分からないという。なぜ普段は金魚でいるのかさえも分からないのだ。戸惑う潤をよそに、リュウは気まぐれに人の姿になり、大好物のえびせんをバリバリと食べ古めかしい言葉づかいで「笑止」などと言ったりする。少し我儘だがお茶目で憎めない女の子だ。リュウと接していくうちに、潤は少しずつ心が安定していく。だがある日、別れた彼女に起きた悲しい出来事を知ってしまう。

生きろ。寿命が尽きるまでは、しっかり生きろ。しっかり生きるために、僕は変わらなくては。

p.279より

その事をキッカケに潤は、それまでの仕事に雁字搦めになっていた生き方を見直すようになる。

 同居生活を送るうちに、潤の中でリュウの存在がだんだんと大きくなっていく。黒らんちゅうを見たいといえば連れて行き、お気に入りの水草があるといえば探しに。それらすべてはリュウの記憶を辿るためだ。いつの間にか、2人は一緒にいることがあたり前になっていた。

 この作品は、2人の楽しそうな同居生活の描写の合間に、リュウの悲しい記憶が織り交ぜられている。さっきまで、2人の会話の掛け合いに笑っていたのに、ふと悲しい記憶が描かれていると胸がしめつけられる。いったいどんな過去があるのだろうと、リュウから目が離せなくなってしまうのだ。

 リュウの記憶が少しずつ蘇る。中国、琉球、長崎と、ある人物たちを追っている辛い過去だ。千幾百年、ある目的のためにリュウは、様々なものに姿を変えながら生きてきた。だが、記憶を辿るうちにリュウは苦しみだす。そして互いを大切に想い始めていた2人に非情な事実が突きつけられる――。

 濃い時間であればあるほど、大切であればあるほど、それを無くしたときの喪失感は半端ない。2人の想いに触れ、そう感じた。同時に絶望しても苦しみ続けても、その先に小さな希望があるということも作品を通して伝わってきたのだ。

 この作品には、人間の中にあるありったけの感情、そしてそれ以上の人を愛する想いが溢れている。2人の同居生活と悲しい記憶を辿る旅。是非、どっぷりと作品に浸ってほしい。


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