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『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』 期間限定試し読み5

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『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』試し読み5

第五章 IPOを目指すか否か

1 なんのために上場する?

 翌週の経営会議。
 IPOに向けた大沢の話が聞けると楽しみにしていたおれが会議室に入ると、すでにモニターの前に大沢が陣取っていた。その顔色はなぜか冴えない。
「大沢、どうした?」
「ああ、……IPOってのは調べれば調べるほど金も時間もかかって大変なことだと思ってな」
「ふーん」
 江川、ごこたいちゃん、おっさんと頭数が揃ったところで、大沢の講義が始まった。
>なんのためにIPOするのか
 とスクリーンにパワポの資料が映し出された。
「なんのためって、当然メリットがあるから上場するんだよな。先週の会議で、会社にとってIPOがどんなメリットをもたらすか、そしてIPOの留意点は何かという話をした。一応整理しておくと……」
 そう言って、大沢はモニターを指さした。
>IPOのメリット(会社にとって)
①資金調達力の増大と多様化
②知名度・社会的信用の増大
③経営体質の強化
④インセンティブプランによる役員・従業員のモチベーションアップ
「それからここには書かなかったが、先週話したように江川が望むM&Aも容易になる。
 続いて、会社だけでなく、株主と従業員にとってはどんなメリットがあるかについても話しておこう。
 IPOによって、株式が換金性を持つことが、株主と従業員への最大のメリットに繫がる。市場で公正な株価が形成されることで、新たに生まれる不特定多数の株主に資産価値増大の機会が生まれる。当然持ち株の売り出し等により創業者にも、インセンティブプランを導入すれば役員にも従業員にも、その機会が用意される。一方」
 とモニターのスライドを更新し、
>デメリット(留意点)
 ①会社情報の開示義務
 ②株主への配慮
 ③上場準備のための先行投資、また維持のための投資が多大
「といったことに覚悟して取り組まなければならないと話したな。
 IPOして資金調達をしてその先に事業の成功があれば、大きなメリットを享受することができるが、不特定多数の株主に会社を理解してもらうための情報開示の仕組みが必要となる。また会社が社会的な存在で、法にかなった運営をしていることを示さなきゃいけない。第三者へ説明可能な内部管理体制を構築する必要が生じる。そうすると組織を大改造しなきゃならない。監査法人の監査を受け入れなければならない。従業員の負担が半端ない。金もかかるし人もかかる。はっきり言ってものすごくめんどくさい」
 大沢はおれの顔をじっと見た。そして口の端でふっと笑った。
「何がおかしい。お前にできるかってか? 感じ悪いぞ大沢」
 とおれが吠えると大沢は、
「まあいい。次に、資本政策の話だ」
 と話を切り替えた。
「資本政策というのは、IPOにおける株主構成や資金調達に関する方針のことなんだけど、一般的には『資本政策表』というものを作る。みんなの理解のために仮に作ってみたのでちょっと見てくれ」
 そう言って大沢がスライドを映し出した。

「この表で、おれたちの〝設立時〟の持ち株状況を一応振り返っておくと、資本金1000万円。その内訳は青山が400万円、江川300万円、文枝さん200万円、そしておれが100万円をそれぞれ出資している。一株100円だから、株数は表のとおりだな。
 で、いまは4人で100%を占めている持ち分比率と、それからいまは100円の株の価値が、その後の資金調達と上場によってどう変化するかに注目してくれ。まずエクイティ・ファイナンス(新株発行による資金調達)。上場前に資金需要があれば、VCとかエンジェル投資家などから資金を受け入れる。この表では『シードラウンド』『シリーズA』という段階でそれぞれ2つのVCから新たな資金を受け入れたことになっている。分からない言葉はまだ覚えなくてもいいよ」
(分からない言葉だらけだ大沢。あとでグーグル先生に聞いてみよう)
 というのはおれの心の声だ。大沢は続ける。
「上場前に資金需要がないなら、おれたちの持ち分比率を減らしてまで資金を導入することもないが、当社はアプリ開発に費用がかかるし、上場に向けての組織づくりに金がかかるから、VCの導入は現実的だし、VCの手を借りながら上場を目指すというのは合理的だと思う。ここまでいいか?」
「うーむ?」とおっさんが唸る。大沢は構わず続ける。
「そして上場。この表では『株式上場時』の欄に注目。おれたちの株を売出するとともに、『安定株主』『従業員』『一般投資家』という人たちに株を買ってもらうことになる。『安定株主』は分かるな、議決権行使のときに賛成してもらえるような株主を指す。議決権行使の際に賛成してくれるかどうか分からない『一般投資家』とのバランスを考える必要があるかもしれないので、入れておいた。何より、いまのところ特に強調しておきたいのは、この」
 と、大沢は『従業員』のところを指さし、
「従業員に対してインセンティブプラン(従業員に自社株を持たせておき、株価上昇後に売却することで売買差益キャピタルゲインを得られるようにする仕組み)として〝ストックオプション〟(従業員に対し無償あるいは固定価格で新株予約権を付与する)や〝従業員持株会〟(従業員の自社株取得を容易にし、財産形成を支援する制度)を用意することが大事だ。上場準備は従業員に多大な負担をかける。上場することが直接的に自分の財産形成に繫がると理解してもらうことがとても大事なんだ。もちろんこれらの施策は、役員に対しても有効だ」
 穴のあくほど表を見つめた江川が「ひえー」と奇声を発した。
「この表の『株式上場時』欄『増減』の項目のマイナスの数字が、おれたちが売り出す株だな。100円だった株価(「1株当たり価値(円)」)が100倍に跳ね上がっているではないか。ぼくたち大金持ちじゃん」
 大沢は舌打ちし、
「目ざといな。それが創業者利益というやつだ」
 と解説を続ける。
「江川が指摘したのは上場のときにオーナーが市場に保有している株の一部を売り出す『売出』だな。その『売出』の株と、資金調達のために新たに株式を発行する『公募』の株を『一般株主』をはじめとした人々に買ってもらう。そこからおれたちの株式が一般市場で流通を始めることになる。これが上場特有のダイナミズムだ。創業者は多くのリスクを負って起業しているからリスクに見合うリターンを期待するのは当然だと言われる。だけどそこだけに目がくらんではいかんぞ。将来の株主構成をシミュレートしておく必要があるのは、VCの受け入れ、役職員に対するストックオプションの付与、上場のときのオーナー持ち分の売り出しや公募をどうするか、安定株主比率を考慮しながらそういう要素のバランスをコントロールすることが求められる。それがこの表の意味なんだ」
「それにしても、上場のときに一株当たりの価値がこんなに上がっているのはどういうわけだ」
 と今度はおっさんが聞く。おっさんはサラリーマン生活は長いが、未上場の中小企業しか経験していないからな、分からんだろう。おれも分からんが。
「上場のときの一株当たりの売り出し価格は高いほうがいいに決まっている。できるだけ少ない株数で資金を調達できれば、それだけオーナーなどの持ち株比率は高くなるわけだからね」
 大沢は説明しながら江川を睨みつけた。
「ぬか喜びするなよ江川、創業者利益が得られるのはおれたちの会社の価値が事業計画通りに上がって初めて実現するんだ。一株当たりの売り出し価格は会社の価値によって決まるんだからな。
 会社の価値は、将来稼いで得られるお金をいまの価値に置き換えて計算した事業価値に、余ったお金や本業以外の資産を足して求められるんだ。将来稼いで得られるお金の計算のために、一般的には5年ほどの中期経営計画を策定するんだ」
「すまん、わたしには君が何を言っているのかさっぱり分からん」とおっさん。
「そうだな、譬えて言えば、いまの江川に嫁さんは来ないだろう? だけど先見の明がある女の子がいて、5年後の江川の価値をいまに置き換えてみたらその子には江川がピカピカに見えて、わたし江川さんのお嫁さんになる~! ってこともありうるってことだよ。事業計画は、この会社の将来の価値を根拠をもって見せるためのものなのさ」
 熱心にうなずく江川の横で、おっさんが首をひねっている。
「譬えが悪いぞ。ますます分からん」
「まあいまんとこ、へー、って思ってくれればいいや。必要なのは、5年の間にこれまでの出版事業と青山のマンガアプリ、江川のVR事業、それぞれがどのように成長し、どのような資金需要があるかをできるだけシミュレートした事業計画を立てることだ。
 まあ、資本政策はおいおい考えよう。まだ時間はある。次に段取りだ」
 と言って大沢がまた新しいスライドを映し出した。


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