怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話

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第四章 江川の夢からIPOへ
1 ミケちゃんに抱かれて(2017年)
ごこたいちゃんのバイト復帰から、2年が経過していた。この間、ノベルビレッジの業績はどん底から回復した。その間におれたちは、めいめいが次の脱皮に向け思いを馳せていたようなのだ。
口火を切ったのは江川だった。
江川は、猫のキャラクター〝ミケちゃん〟ファンだ。家にはミケちゃんのぬいぐるみや文具や絵本などを隠し持っている。ちなみに江川の父親は私立高校の物理の教師で、母親も同じ私立高校の音楽教師だ。
ミケちゃんのライブイベントや八王子にある遊園地「ヴェーロ・ランド」に行くときは、姪っ子を連れていく。さすがに1人では行きにくいらしい。
その遊園地「ヴェーロ・ランド」の中に「ミケちゃんの館」というサクランボの形の建物がある。その中には室内遊具があって、奥にちょっとしたステージがある。そのステージには、赤いドレスの着ぐるみを着たミケちゃんがいる。1600円払うと一緒に写真を撮ってもらうことができるらしい。もちろん、ミケちゃんキャラクターの好きな、もっぱらちっちゃな女の子のためのサービスだ。決して江川みたいな若めのおっちゃんのためのサービスじゃない。
その着ぐるみのミケちゃんに江川は惚れてしまったらしい。ミケちゃんは、撮影が終わるとお客の手を握ってさらにぎゅっと抱きしめてくれるのだそうだ。
「ちょっと待て、抱きしめてもらえるのはお前の姪っ子だけじゃないのか?」
「ミケちゃんはいい子だからね、一緒に写るぼくも抱きしめてくれるんだ。たまらないんだよ青山くん。肉球付きの手袋でじんわり握手してくれるんだ。そのあとで抱いてくれるんだ。そうするとね、なんとも言えない温もりに包まれる。耳元で『ありがとう』って囁くんだよ」
と夢見るように天を見つめる。
おれは江川の変態を疑った。
「お前は着ぐるみに惚れたのか? 着ぐるみの中の女の子に惚れたのか?」
「キャラクター愛だよ!」
意味が分からない。
「そうか、せいぜい通うといい」
それからしばらくして、世間では春休みが終わった4月早々の月曜日、出社した江川が浮かない顔でおれのブースにやってきた。
「昨日も『ヴェーロ・ランド』に行ったんだ」
「そうか、おれは忙しいんだよ江川」
「聞いてくれ。ぼくのミケちゃんはいなくなっていたよ」
と江川が肩を落とす。
「春休みが終わって、バイトの女子大生が学校へ戻ったんじゃないのか?」
「そうかもしれない。昨日のミケちゃんはな、一回り太っていた。いつもより背も低かったんだ。そのうえ猫背だった」
「それでいいんだ、猫なんだから」
というおれの混ぜ返しを無視し江川は続ける。
「で、その偽ミケちゃんはぼくの手をつかんでな」
「おにいちゃん、ほら飴ちゃん」
と言って肉球付きの手袋ごしに、飴ちゃんをくれたんだそうな。しわがれ声だったそうだ。
「ああ、ぼくのミケちゃんはもういない。この心の空白をどうしてくれよう」