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試し読み

『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』 期間限定試し読み1

KADOKAWA元社長が小説を執筆!?
コレを読めば副業・起業がすぐできる!痛快・青春ストーリー!!

KADOKAWAの元社長が書いたラノベ⁉
しかも、読むと副業と企業のことがよく分かる、と評判の本書。
怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』期間限定大ボリューム試し読みをお届けします!



『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』試し読み1

プロローグ~上場成る 2020年

 2020年3月10日、昼どき。
「青山! いや社長! 上場が承認されたぞ」
 スマホを振りかざし、CFOの大沢が会議室に駆け込んできた。
「よっしゃ!」
 おれが派手なガッツポーズを決めると、専務の江川が抱きついてきた。
 これまで上場プロジェクトの要として働いてくれた真理子さんが、静かな笑みを浮かべて握手を求めてきた。IPO(新規上場)を決意してから足かけ4年、あの少女との出会いまで遡れば10年の歳月が流れた。長くてつらい道のりだったが、波乱に富んだ楽しい日々だった。
 おれも江川も33歳になっていた。
 上場承認日から1か月あまり経った4月24日、おれたちの会社、株式会社ノベルビレッジはついに上場の日を迎えた。おれは、午後1時には、主幹事証券会社から回ってきた役員とIPOメンバーと東京証券取引所で合流した。東京証券取引所の役員との挨拶を終えると、いよいよセレモニー会場の東証アローズオープンプラットフォームへ。
 役員たちとともにエスカレーターを降りていくと、会場を埋め尽くした社員たちや関係者から、盛大な拍手が湧き起こった。みんなの笑顔を見て、感謝の情とともに熱く込み上げてくるものがあった。セレモニー会場の巨大なスクリーンには「祝 上場! 株式会社ノベルビレッジ」の文字が。上場通知書の授与、記念品の贈呈、記念撮影などが一通り終わって、ところをVIPルームに移す。
 いよいよ打鐘だしょうだ。おれは、万感の思いを込めて、第1の鐘を打った。鐘の音とともに時間がどんどん遡り、あの日、ごこたいちゃんの殴り込みの日が蘇った。大学生の趣味で始めた小説投稿・閲覧サイトの事業を、会社を興し本業に導いてくれたのもあの少女だったし、会社を上場してM&Aに踏み込まなければ、新しい夢をつかむこともできない、ということを教えてくれたのもあの少女だった。

第一章 ごこたいちゃんの殴り込み

1 冴えない朝(2010年)

 さわさわ……
 開け放たれた窓の向こう、けやきの木の葉ずれの音に混じって、ぴちゅぴちゅという元気に飛び交うツバメの鳴き声が聞こえる。
 ゴールデンウィークのど真ん中、季節は最高だ。
 けど、おれの気分は最低。
 キーボードに突っ伏した顔面をひき剝がす。
「イタタタ」
 キートップのあとがほっぺに転写されてたりして。
 また部室に泊まり込んでしまった。ひどい頭痛がする。部屋の片隅を見やると、ぼろソファーに友人の江川の貧相な寝姿が。
 おぞましい。
 東京、といっても西の外れの八王子にある城定大学キャンパスの学生会館2階の窓に、おれたちには分不相応な爽やかな朝日が注いでいる。
 おれは青山隆文、23歳。IT会社に就職して1年経つのに、学生時代に所属したSF研究会の部室の一部を借りてシコシコと副業を営んでいる。小説の投稿・閲覧サイトの「ノベルビレッジ」を運営しているのだ。
 小説の投稿・閲覧サイトって知っているかな? 超有名なのは「小説家をやろうよ!」というサイトだ。そこにアップされた小説は70万点、小説の登録者数は150万人、1か月20億PV、ユニークユーザー1400万人を擁する巨大サービスだ。
 残念ながら、おれと親友の江川卓馬が運営する「ノベルビレッジ」は、もっとしょぼい。そう、規模にしてその100分の1にも満たない。それでも熱烈なファンはいる。
 おれは、子供の頃から小説を読むのが大好きだった。冒険小説、探偵小説、宇宙もの、学園もの、隠れて読んだエッチな小説、なんでもござれだ。運動が苦手で鈍臭かったおれにとって本は友達だった。
 小説家になりたくて大学ではSF研に入った。だけど、途中から薄々、書くほうはダメだなと思うようになった。
 短編小説を書いて研究会の講評会に出しても、誰も評価してくれない。初めて書いた長編の意欲作『牛モウモウおばさん宇宙を行く』は、食料用に宇宙船に乗せられた牛モウモウおばさんの悲しい物語だ。レイ・ブラッドベリ張りの良い話が書けたと思ったのに、
「牛を乗せるか? 宇宙船だぞ。こんなのSFじゃない、バカ話だ」
 と、部長に罵倒された。嫌なやつだった。
 そんなときに、ネットで「小説家をやろうよ!」に出会ってハマった。自分が読みたいお話に出会える。作者が遠い存在じゃない。作者に意見が言える。ああ、自分が求めていたのはこれだって、直感したね。試しに『牛モウモウおばさん宇宙を行く』を投稿してみたら、読者の反応があった。半分以上はいわゆる〝毒者〟からのご指導だったけど、なかには褒めてくれる女子高生なんかがいて、嬉しくなった。また何か書いてみようかな、という気になった。
 しかし、いつのまにか作品を投稿するよりも、こんなサイトを自分で運営してみたいという気持ちになっていた。譬えれば、小さな国の王様になったような気分、というのだろうか。
 同じようなことを考えているやつはいるもので、ほかにも「小説家をやろうよ!」に追従するサイトが出始めた。おれも、隣の「コンピュータ研究会」の江川を引き込んで「ノベルビレッジ」を立ち上げた。大学3年生だった。おれたちのサイトにも次々と小説が投稿され、その小説を読んで、褒めたり腐したりする読者も増えていった。
 小説作品を投稿すると、読者がそれを読んでくれて、応援もしてくれるというコミュニケーションの場が「小説投稿・閲覧サイト」(以下、めんどうなので投稿サイトと略すぞ)というものだ。フェイスブックで、タレントや政治家に〝フォロワー〟が付くのとおんなじだ。面白い作品がたくさん投稿されれば閲覧者が増え、サイトの価値が上がる。アップされた小説にファンが声援(ときに批判、悪口)を送ると、その声を糧に投稿者は作品を継続連載する力を得る。素人同士と侮るなかれ、ここからプロが生まれることもある。そうなると読者も「こいつはおれが育てたんだ」という満足を得ることができる。
 あるときから投稿作品の人気ランキングを掲載したら、ぼちぼちだった投稿者も閲覧者も一気に増えた。システムも少しずつ改良した。ページビューが増えて、唯一の収入源である広告が入るようになったのは、2年めかな?
 順調だった流れが逆転したのは、サイトを開いてちょうど3年めに入った今年初め、人気ランキングナンバー3の桜尻エリーの作品『バッチシ!』が「小説家をやろうよ!」に移籍してしまったことからだ。そっちで同じタイトルでぬけぬけと連載を開始し、ついでに閲覧者もごっそり持っていかれた。
 おれはがっくり来た。
 それからしばらくして、ある投稿作品が某出版社の新人賞受賞作のパクリであることが判明した。最初の読者からの指摘を放置したせいで、出版社の編集者からその姿勢を問う投稿があって、おれたち運営の責任が追及されるという事態となった。しばらく炎上が続いた。
 決定的だったのが3か月前、人気ナンバー1の『オーガスト戦記』の投稿が止まったことだ。これから面白くなるってところだった。ファンが騒ぎ始めても、作者の榎良三は沈黙したまま。
 一体どうなっている?
 今年に入ってこんなことがたて続けに起こったから、おれはいささか逆上気味だった。広告も激減し、このままだと赤字に転落だ。副業が赤字になったら、なんのための副業だ?
 昨日もユーザーの書き込みへの対応に追われて、部室に泊まり込んだ。
「なんだこいつら、うるせーなー、偉そーに! オメーラのためにサービスしてんだぞ、パクリ作品の1つや2つで、ガタガタゆーな!
 榎先生、なぜ書いてくれないの~だって? し・ら・ね・え・よ」
 もちろん、これはおれの〝心の声〟。
 それにしても、当時のおれは、ユーザーのありがたさを知らない大バカものだった。根性なしの〝ホンネ〟が露わになって、炎上に油を注ぐことになった。とうとう朝の4時に朦朧とした頭で、
「もうやめます!」
「やめてやる!」
「ザマーミロ」
 と書き込んだ。そのあとは、ウイスキーを胃袋に流し込みながら悪態ついて、オロオロする江川を尻目にばちばちキーボードを叩いているうちに、気を失ったんだか寝たんだか。
 で、冒頭のさわさわ、ぴちゅぴちゅ、イタタタ、に戻るんだけど、おぞましいぼろソファーの江川を見やったその直後……
「こんこん」
「コンコン」
「ガンガン」
 ……
「ガツン」
 と部室のドアが叩かれ、
「バタン」
 とドアが開いたと思ったら、そこに少女が立っていた。


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