殺し屋たちを乗せて、新幹線は疾走する――。
ブラッド・ピット主演でハリウッド映画化!
累計300万部突破、伊坂幸太郎屈指の人気を誇る<殺し屋シリーズ>。その中でもエンタメ度最高の『マリアビートル』のハリウッド映画化が決定! 2022年、全国の映画館で公開されます。主演はブラッド・ピット、監督はデヴィッド・リーチ(『デッドプール2』)と超豪華。
物騒な殺し屋たちを乗せた新幹線。巻き起こる予想外の展開、意外な結末とは――。映画化を記念し、計200ページの大ボリュームの原作小説試し読みをお届け。
読んでから観るか? 観てから読むか? ぜひお楽しみください!
▼映画『ブレット・トレイン』公式サイトはこちら
https://www.bullettrain-movie.jp
『マリアビートル』試し読み#5
マジックテープ付きのバンドで、手足を拘束された木村は、どうにかそれが外れないかと腕や足首をぎりぎりと
「こういうのにはコツがあるんだよ、雄一君」不意に、子供の頃の記憶が
「雄一君のお父さんって仕事の時は本当に怖かったんだからさ。ハゲタカじゃなくて、シゲタカって言われてたんですよ。名前、木村
そして、木村がぼんやりとテレビに目をやっていた隙に、繁は紐を
あれはいったいどうやっていたのだろうか。
今の俺のこの状態を打破するヒントがあるのではないか。
記憶が眠る山を
「おじさん、待っててね。トイレ行ってくるから」王子が席を立ち、通路に出て行く。ブレザーを着たその姿は、上品な家で大事に育てられた中学生にしか見えず、「どうしてこんなガキにいいようにされないとならないのだ」と
この少年が、上品な家で大事に育てられた中学生であるのは間違いがない。上品な家で大事に育てられた、悪意に満ちた中学生だ。数ヶ月前、初めて、王子と会った時のことを思い出す。
入道雲が空を侵食するように埋め尽くしていた正午前、木村は
病院内の子供たちは全員、渉よりも軽症であるように見え、マスクをして苦しそうにしている子供を眺めては、「
「お父さん、お酒飲んだ?」建物の外に出た後で、渉が言いづらそうに言ってきた。
渉から腹痛が治まったと聞き、ほっとしたこともあり、待合所で小瓶を舐めたのを、見られていたのだ。「もし、渉の腹痛が続いたら、俺はきっとショックのあまり、たくさんの酒を飲んだだろう。そう考えれば、少し舌を湿らす程度は大した問題にはならない」と内心で言い聞かせ、ポケットから取り出した小瓶の
「渉、ブランデーは蒸留酒って言ってな、蒸留酒ってのは、メソポタミア文明の時から造られてるんだぞ」
渉はもちろん、そう言われたところで理解はできない。また父親の言い訳がはじまったぞ、と思っているようだったが、メソ、ポタポタ、とその音を楽しむようにした。
「蒸留酒をフランス語ではオードビーって言うんだ。どういう意味か分かるか。生命の水だ。命の水だよ、命の水」木村は言いながら、自ら
「でも、病院の先生、お父さんがお酒臭いから、驚いてたね」
「マスクしてただろ、あの医者」