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試し読み

ハリウッド映画化記念! 殺し屋たちの狂騒曲【 伊坂幸太郎『マリアビートル』試し読み#2】

殺し屋たちを乗せて、新幹線は疾走する――。
ブラッド・ピット主演でハリウッド映画化!

累計300万部突破、伊坂幸太郎屈指の人気を誇る<殺し屋シリーズ>。その中でもエンタメ度最高のマリアビートルハリウッド映画化が決定! 2022年、全国の映画館で公開されます。主演はブラッド・ピット、監督はデヴィッド・リーチ(『デッドプール2』)と超豪華。
物騒な殺し屋たちを乗せた新幹線。巻き起こる予想外の展開、意外な結末とは――。映画化を記念し、計200ページの大ボリュームの原作小説試し読みをお届け。
読んでから観るか? 観てから読むか? ぜひお楽しみください!

▼映画『ブレット・トレイン』公式サイトはこちら
https://www.bullettrain-movie.jp


マリアビートル
著者 伊坂 幸太郎


『マリアビートル』試し読み#2



 一度あることは二度ある、二度あることは三度ある、となれば三度あれば四度あるのだから、一度あることは永遠と続く、と言うべきではないか、とななは考えてしまう。ドミノ倒しと同じだ。五年前、最初の仕事をした際に予想外に大変な目に遭ってしまい、その際に、「一度あることは二度あるのではないか」とうっかり思ったのがいけなかったのだろうか、二度目の仕事でも災難に巻き込まれ、当然のように三度目も予期せぬ事態にほんろうされた。
「くよくよ考えすぎるからじゃないの?」が以前、言ってきたことがある。仕事の依頼を受け、七尾にそれを渡す役割の彼女は、わたしは受付窓口みたいなものだから、と言うが、七尾にはとてもそう思えなかった。「僕が料理を作り、君が食べる」というフレーズや、「君が指示を出し、僕が働く」という言葉が七尾はいつも思い浮かぶ。いつだったか、「真莉亜も仕事をやったらどうかな」と進言したことがある。
「仕事してるじゃない」
「実務というのかな、実行部隊というか、そういう仕事だよ」
 たとえて言うのなら、今の状況は、優秀な天才サッカープレイヤーがグラウンドの外で必死に指示を出し、おどおどプレイする素人まがいの選手に対し、「どうしてうまくできないのか」ともどかしくみしているような状態なのだから、つまりは、君が天才サッカープレイヤーで僕が素人選手というわけなのだけれど、それならば、天才が試合に出てしまったほうが手っ取り早いではないか、と話をした。そのほうがお互いのストレスも少なくて済む上に、結果も出るだろう、と。
「わたしは女だよ。何言ってるの」
「とは言っても、君は得意の中国けんぽうで、男三人相手でもやれる。僕よりも頼りがいがあるかもしれない」
「そういう問題じゃなくて、女が顔に怪我したらどうするのよ」
「いつの時代の話なんだ。今は、男女平等が叫ばれている」
「セクハラだ」
 会話が成り立たず、七尾はあきらめた。ようするに、「真莉亜が指示を出し、七尾が働く」「天才が監督、素人がプレイヤー」という分担は、動かしがたいものであるようだった。
 真莉亜は今回の仕事についても、いつもと同様、「簡単簡単。すぐに終わるから。今度こそトラブルなし」と断定した。毎度のことであるから七尾としても、反論する気力も持てない。「いや、たぶん、何か起きる」
「後ろ向きだねえ。地震が起きる、地震が起きるって家に閉じこもってるヤドカリと一緒じゃない」
「ヤドカリってそうなのか?」
「そうじゃなかったら、どうして家ごと移動してるわけ」
「固定資産税を払いたくないからじゃないかな」
 気味に答えたが、聞き流される。「だいたい、わたしたちの仕事ってもともと、厄介で物騒なことが多いから、毎回トラブルに巻き込まれるのも大いにありえるわけでしょ。トラブルが仕事みたいなものなんだって」
「そうじゃない」七尾はしっかりと言った。「そ、う、じゃ、な、い」と明確に否定する。これだけは誤解されたくなかった。「いいか、僕が今までに遭遇したトラブルはそういうたぐいのものじゃない。前に、高層ホテルで、政治家の浮気現場を撮影する、という仕事があっただろ。君はやっぱり、簡単ですぐに終わる、と言った」
「だって、簡単でしょ。ただの写真撮影だよ」
「そのホテルで、連続射殺事件が起きなければね」
 ロビーで突然、背広姿の男性が銃を乱射しはじめた。あとから、有能な官僚だと判明するその彼は、日々のうつくつとした思いに後押しされたのか、ホテル利用客を射殺し、ろうじようした。七尾の仕事とはまったく関係のない、ただの偶然起きた出来事だった。
「あれは君、大活躍だったじゃない。何人助けたっけ? 犯人の首も折ったし」
「必死だったんだ。それからほら、ファストフード店に行って、新製品を食べて、その場で、『うますぎる。うまさ爆発だ』とおおに驚いてみせるという仕事もあった」
「何よ、しくなかったわけ?」
「美味しかったよ。ただ、食べた直後に店が本当に爆発した」
 首になった元アルバイト店員による犯行だった。客が少なく死者こそ出なかったものの、店内は煙と炎で大変なことになり、七尾は必死で客を外に連れ出した。しかも、その店内には裏稼業で有名な男が隠れ、外からライフルで狙うプロの殺人請負人もいたものだから、大騒動になった。
「君は偉いから、その狙撃してくるやつの居場所を見つけて、殴ってあげたじゃない。あれも大活躍だったねえ」
「あの仕事の時も君は事前に、『簡単な仕事だ』と断言した」
「だって、ハンバーガーを食べる仕事のどこが難しいわけ」
「ついこの間の仕事も、そうだ。ファストフード店のトイレにお金を隠して、はいおしまい。君はそう言ったけれど、結局は、靴下はれるし、マスタードだらけのハンバーガーを食べることになりそうだった。世の中に簡単な仕事なんてないんだ。楽観的に考えているとまずい。それに今回はまだ仕事内容すらはっきり教えてもらっていないじゃないか」
「指示は聞いてるでしょ。誰かの旅行荷物を奪って、降りる。それだけ」
「どこに置かれた、誰の荷物なのか、まったく分からない。新幹線に乗れ、詳細は追って連絡する、なんて仕事が簡単なはずがない。しかも、うえ駅で降りろと言うんだろ? そんなのすぐじゃないか。時間に余裕がない」
「発想を変えて。いい? 難しい仕事ほど事前に指示が必要なの。検討とか練習とか、失敗した時の対策が必要だから。反対に考えれば、直前まで指示がないのは、簡単な仕事だからってこと。たとえばほら、これから息を三回吹いてね、なんて仕事があったらどう? 事前に情報がいる?」
「そんな妙な理屈は聞いたことがないし、聞きたくもない。やっぱり簡単な仕事じゃないんだよ。世の中に、簡単で単純な仕事なんてないんだ」
「あるわよ。簡単な仕事ならいくらでも」
「そのうちの一つでも教えてほしいね」
「たとえば、今、わたしがやってる仕事。仕事の仲介だけやってるのは簡単」
「知らなかったなあ」


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