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少年の通報を受け、綾野剛演じる犬養隼人は現場に急行 映画『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』原作小説を特別公開!#2

安楽死の闇と向き合う警察医療ミステリ、中山七里さんの『ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人』が、綾野剛さん、北川景子さんの共演で映画化。11月13日(金)の公開前に、原作小説の冒頭部分をお見せします。


ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人


>>前話を読む

  *

「それで子供の訴えに耳を貸したという訳か」
 目的の場所にクルマを走らせながら、いぬかいはやの言葉は自然にとがっていた。子供から父親が殺されたという内容の通報があったと聞いて明日香と同行することを決めたが、まさかそんなやり取りだとは思ってもみなかった。
「どうして俺を道連れに選んだ。お前一人でも片付けられる案件だろう」
「どんな案件であっても捜査員の単独行動は避けるようにと通達が出ています。それに従ったまでです」
 明日香はまるで取りつく島もない。言葉の端々から嫌悪感がにじみ出ているが、そのくせ何かと犬養を巻き込もうとしているのだから真意が?つかめない。相棒の心一つ読めないというのも情けないが、元より女心を読むのは苦手中の苦手だったと自分を慰める。
 警官になる前は俳優養成所に通い、そのあって所作や表情から相手の?を見抜く能力は身についたが、これが女には全く通用しない。
「それに犯罪の臭いが皆無という訳じゃありません。市民からの通報を無視した結果、捜査が後手に回ったとしたらいったい誰が責任を持つんですか」
「今から建前を盾にすることを覚えたら、ろくな刑事になれんぞ」
「へえ、実例があるみたいな言い方ですね」
「左遷させられた管理官がちょうどそういうタイプの人間だった。俺たちは建前で靴底を擦り減らしているんじゃない」
 くだんの管理官を明日香も嫌っていたのか、それきり口を開こうとしなかった。自分への好感度はともかく、黙ってくれたのでとりあえずは有難い。
 明日香がごめだいという少年からき出した住所はねりしやくまち二丁目。石神井公園にも近く、閑静な住宅街の一画だった。この辺りは坂が多く、遠くから望むとまるで街全体がうねっているように見える。平日の午後、近くの小学校からは児童たちの声が聞こえ、とても殺人のキナ臭さは漂ってこない。
 馬籠宅は長くなだらかな坂を登り切った場所にあった。犬養は路肩にクルマをめ、明日香を従えて坂を上がる。自分で巻き込んでおいて、明日香は荒い息をしながら後からついてくる。
「遅いぞ」
「平地は、楽、なんですけど」
「通報してきた子供に文句を言うんだな。坂の上の家に住むヤツは面倒を起こすなって」
 ひと足先にここと思える家に到着した。表札には〈馬籠〉とある。番地も合っているからこの家で間違いない。予想とたがえたことが一つだけある。玄関ドアに〈忌中〉の貼り紙がしてあったことだ。追いついた明日香も貼り紙を見て神妙な顔つきをした。
「少なくとも父親が亡くなったというのは本当らしいな」
 インターフォンを鳴らしてみるが反応はない。貼り紙の末尾には小さな文字で斎場の場所が記されてあった。おそらく遺体ともども家族も斎場に移動したのだろう。斎場はしやくだいとなっているので、ここから近い。ここまで来たのなら、毒を食らわば皿までだ。通報してきた大地少年から話を訊いておくべきだろう。
 いったんクルマに戻って今度は次の目的地を目指す。斎場はすぐに見つかった。公営の斎場らしく、駐車スペースは二十台分ほどしかないが、クルマで来る参列者が少ないためか犬養の駐める余裕はある。
〈馬籠けんいち 葬儀式場〉
 既に受付が始まっており、記帳場所には喪服姿の参列者が行列を作っている。女性参列者の中にはハンカチを目元に押し当てている者も散見される。
 外にいても焼香の匂いが風に運ばれてくる。ぎ慣れた殺害現場とは異なる死の匂いに、原初的なが刺激される。
「わたしたち、どう見ても異分子ですよね」
 明日香は居心地悪そうについてくる。
「喪服着ていないの、わたしたちだけだし」
「招かれていることに違いはない。もっとも喪主にではないけどな」
 辺りに充満する死の匂いを?き分けながら記帳台の最前列に割り込むと、受付の男性が早速まゆひそめた。
「申し訳ありませんが参列者の方は、故人とどのような間柄であろうと順番をお守りくださいませ」
「悪いけど故人とはこれから関わるところなんですよ」
 犬養は懐から警察手帳を取り出した。
「大した話じゃないから大騒ぎしないで。故人のご子息だと思いますが、大地くんはいますか」
「控室に待機しています」
 受付の男性は慌てて犬養たちを、その控室に案内してくれた。
「何か故人の死に疑惑でもあるのでしょうか」
「あなたは故人とどういう間柄なんですか」
おいに当たる者で馬籠けいすけといいます」
「疑惑に発展するかどうかも分からないことです。故人は長患いだったんですか」
「さあ、しばらくは僕も行き来がなかったので……」
「死因は何だったのですか」
叔母おばさんからはがんだったとしか聞いていません。やっと今日が通夜ですからね。まだ遺族と落ち着いた話をしていないんですよ」
「自宅療養中に亡くなられたとか」
「そのようですね。何でも容態が急変したので、慌ててお医者さんを呼んだけれども手遅れだったとか。でも、それだって小枝子叔母さんがかなり狼狽うろたえて連絡してきたものだから、やっぱり詳しい話は知らないんです」
 やはり詳細は大地と小枝子から訊き出すしかなさそうだ。
 親族控室には母子二人だけがいた。これが小枝子と大地だろう。小枝子は気の抜けたような顔をしており、それを大地が心配そうに見ている。
 犬養は啓介を部屋の外に置き、明日香と二人で入る。
「どちら様でしょうか」
 小枝子は力のない視線をゆっくりと上げる。
「立て込んでいるところを申し訳ありません。警視庁捜査一課の犬養と申します。こちらは高千穂」
 はあ、と小枝子がいぶかしげに首を傾げる一方、大地の方は表情を一変させた。
「高千穂さん? ああ、やっぱり来てくれたんだ」
「大地。これはいったい、どういうことなの」
「大地くんが110番通報したんですよ。お父さんが悪い医者に殺されたんだって」

(つづく)

中山七里『ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321809000206/

映画『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』公式サイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/doctordeathmovie/


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