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試し読み

綾野剛・北川景子共演で映画化! 安楽死の闇と向き合う警察医療ミステリ!『ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人』試し読み

安楽死の闇と向き合う警察医療ミステリ、中山七里さんの『ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人』が、綾野剛さん、北川景子さんの共演で映画化。11月13日(金)の公開前に、原作小説の冒頭部分をお見せします。


ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人


一 望まれた死

『ねえ、聞いてよ。悪いお医者さんが来て、お父さんを殺しちゃったんだよ』
 通報を受けたくらしなけいは聞き覚えのある声に、ああまたかと思った。少し舌足らずでねたような口調。声から察するに小学生低学年の男の子だろう。
「またあなたね。昨日も同じ電話をしてきた子でしょう」
 恵子の所属する通信指令センターは警視庁本部内に設置されている。ここで通報者から状況を聴取して現場周辺を巡回中のパトカーへ指示を飛ばすのが恵子の役目だ。
 警視庁本部への通報件数は全国一だろう。最近は携帯電話の普及に伴って右肩上がりになってきた。いきおいイタズラ電話も増加しており、受理台に座る恵子にはそういう電話の迅速な処理も求められている。
「名前、ちゃんとおぼえているわよ。マゴメダイチくんだっけ。あのね、110番へのイタズラ電話は偽計業務妨害罪といって立派な犯罪なのよ。もう、こんなことはやめなさい。ダイチくんは警察に逮捕されたくないでしょ」
 わざといかめしく言ったのはもちろん戒めのためだが、ダイチの反応は予想外のものだった。
『ボクを逮捕する前に、あの悪いお医者さんを逮捕してよ。お父さんは病気と闘っていたのに、お母さんは一生懸命看病していたのに、それをあの医者が、あの悪い医者が……』
 声に真剣さはあるものの、それでも医師が患者を殺しに来たというのはいくら何でも妄想じみている。ふと頭をよぎったのは医療過誤の可能性だった。
「ダイチくん、お父さんは入院していたの? そこで治療とか手術をして死んでしまったの?」
『違うよ。家だよ。ボクの家に来てお父さんを殺しちゃったんだよ』
 往診に来て、そのまま患者が危篤状態になったということか。それなら分からない話でもない。
『警察は悪いヤツらを捕まえてくれるんでしょ。だったらあいつを捕まえてよ。本当にお父さんはあいつに殺されたんだ。お医者さんのかつこうをしてるけど、あいつは死神なんだよ』
 やれやれ、今度は死神ときたか。
 イタズラ電話でなければ、これは子供の妄想に近いものなのだろう。自宅療養中の父親が往診時に危篤となり、子供の目には医者が死神に見えた。昨今の刺激的なマンガやアニメの影響もあるだろう。
 ふとダイチに対して同情心が湧いた。高圧的に諭したのは自分の早計だったのかも知れない。
「ねえ、ダイチくん。お医者さんでも治せる病気と治せない病気があるの。ダイチくんのお父さんはきっと治せない病気だったんじゃないのかな」
 話している最中、恵子は自分が電話相談をしているような錯覚に陥った。
『違うよ。本当に殺されたんだってば。何度言ったら信じてくれるんだよおっ』
 拗ねた声が湿り気を帯びてきた。このまま電話を切るにも忍びない──そう考えた時、ふっと思い出した顔があった。
「分かった、ダイチくん。おウチの電話は今掛けている電話でいいのね。こちらから折り返し連絡するから、ちょっとだけ待っていてね」
 ダイチとの通話を終えた恵子は刑事部捜査一課に内線を回す。一課には同期のたかがいる。生活安全課を志望していたのに捜査一課に回されたという変わり種で、警察学校時代も婦警というより保育士のような雰囲気を持つ同僚だった。
「高千穂? 指令センターの倉科だけど、今いい?」
『いいけど』
「何だか機嫌悪そうね」
『今扱っている事件で技能指導員と組まされてるんだけど、この指導員がまたすごくクセのある人で……ああ、ごめん。愚痴をこぼすつもりはなかったんだ。で、何の用』
「二日連続でお父さんを殺されたって通報があるんだけどさ」
 恵子はダイチから受けた通報の内容を説明する。
「おそらく往診した時には危篤に近い状態で、それを父親恋しさから、お父さんが殺されたと誤解したんだと思う」
『ありがちな話ね』
「高千穂、そのダイチくんと話してみてくれない」
『どうしてわたしが。捜査一課の仕事じゃないわよね』
「捜査一課の仕事じゃなくても、あなたの仕事っぽいでしょ。声の感じだと小学生低学年。お父さんを亡くしたばかりで情緒不安定になっている」
『だから、どうしてそれがわたしの仕事っぽいのよ。わたしの相手は傷害や殺人の強行犯で』
「情緒不安定な子供に何のケアもしないで放置しておくと、近い将来少年犯罪の芽になりかねないわよ。まさか自分の担当事件になるまで待つつもりなの」
『……それ、脅しなの』
「脅しじゃなくて、ここに災いのほうがありますよっていう通報。指令センターに詰めていると人脈が広がらなくてね。凶悪犯罪担当で且つ子供の扱いに慣れている警察官は、高千穂明日香くらいしか思いつかなかったのよ」
『つくづく顔が広くない女ね』
「小顔と言って」
『言っておくけど、わたしだって子供あしらいが上手うまい方じゃないのよ。入庁以来、むくつけき男の相手しかしてこなかったし。周りの同僚は血の臭いのするような男ばっかりだし、ちょっと外見よさげな相棒はとんだ朴念仁だし』
「愚痴が変な方向に飛んでるわよ。でもさ、放っておけば、確実に一人の少年の心がじ曲がること請け合いね。将来の凶悪犯罪の芽がこのまま成長するか、それとも摘み取られるかは一人の女性警察官の正義感にかかっている」
『……底意地の悪さは相変わらずね』
「人を見る目の良さも相変わらずよ。わたしに指名されたのを光栄と思ってくれなきゃ」
『その子の家の電話番号、教えて。ただの被害妄想だったら良し。万が一ということもあるし』
「正式な事情聴取? 高千穂一人でやるつもりなの」
『朴念仁を道連れにしてやるつもり』

(つづく)

中山七里『ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321809000206/

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映画『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』公式サイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/doctordeathmovie/


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