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連載

新井素子「絶対猫から動かない」 vol.15

繰り返す夢から脱出できるか? 大人のための冒険ホラー! 新井素子「絶対猫から動かない」#36-3

新井素子「絶対猫から動かない」

※この記事は、2020年2月10日(月)までの期間限定公開です。

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ENDING

 ぶるんっ!

 気が、つくと。

 大原ゆめは、起きた。
 先刻まで、眠っていたような気がする。
 でも、今。
 まさに、〝起きた〟のだ。
 だから、夢路は、ぶるんとして。
 頭を一回振る。
 ぐるんと一回、首をまわす。
 そして、思う。
 起きた、のだ。
「起きた、ねえ、あたしはほんとに起きて……」
 瞬間。
 思い至ったのは、ふゆのこと。
「ふゆ……」
 次の瞬間。
 夢路は、まだ、起きたばかりだというのに。いきなり、みつくようにして、携帯電話にかじり付いてしまった。番号を押す。冬美の携帯。
 しばらく続く呼び出し音。夢路は、本当に不安になり……でも、その、夢路の不安が最高潮に達する前、冬美が、携帯をとってくれたのだ。
「はい、こんな朝早くから、夢路、何?」
 ……え。
 え?
 この局面でこの台詞。
 冬美は……まさか……。
「あの、フユ、無事?」
「……えーとあのお……そのお……夢路。無事って、何が?」
 ……ああ、本当に、のほほんのほほん。冬美、まさかと思うけれど……。
 聞いてみる。
「あの、フユ、あの、さん、とか、なぎさちゃん、とか、知ってる? 知ってない?」
 いや、〝知ってる?〟は、日本語だ。日本語の疑問文だ。けど、〝知ってない?〟は、これ、日本語だって言っていいのかどうか。〝知ってない?〟なんて言葉は、ないと思う。こりゃ、普通、〝知らない?〟だ。でも、夢路にしてみれば、〝知ってない?〟って聞かずにはいられない。
 けれど、こんな夢路の必死の台詞に対して。
「あのねー、夢路。朝のこんな時間に電話してきて、いきなりそれは何? 何言いたいの」
 ああ。知らないんだ、冬美はそんなこと、知らないんだ。言い換えれば、覚えていないんだ。
 何故だ。
 一瞬、そんなことを思ったんだけれど、次の瞬間、夢路は気づく。そういえば、三春ちゃんは、冬美としゃべったことがまったくない……言い換えれば、三春ちゃんは、冬美のことを、知らないんだ。だから、冬美を、いなかったことにした。
 で、まあ、何だかんだ、適当な言い訳をして、電話を切り。次に夢路が電話したのは、携帯の連絡先に残っている、がわ先生の電話番号。
「もしもしっ」
 こちらは、コール二回目になる前に、電話にでてくれた。もの凄く切羽詰まっていて、まるで電話をかっさらうような出方。
「大原さんですか? 呪術師さんですかっ」
 だから、呪術師って言うなっ!って、まずそれを思ってしまった夢路、慌ててその台詞を飲み込む。
「佐川先生は……その……覚えている、ん、です、よね」
「何を、ですか? いや、その前に、一体何がどうなっちゃったのかを」
 ああ。この反応は、佐川先生、覚えている。そして、夢路は、ちょっと息を吐くと。三春ちゃんに言われたことを、言ってみる。
「その……今、ずっと昏睡を続けている生徒さんのことなんですけれど……」
みず?」
「その子の、親しいひとに、その子の名前を呼ぶように、言ってくれませんか?」
「はい?」
「えーと……渚、さん、とか、伊賀さん、とか、その方と親しかった、ですか?」
もちろん親しいんですけど、一番仲よかったのはゆきちゃん……ああ、山形さんって子で」
 成程。ぺちやった子ね。なら。
「その子に、昏睡したひとの名前を呼ぶように、言っていただけませんか? 枕元で、昏睡してしまった子供に聞こえるように、山形さんって子供に、昏睡してしまった子の名前を呼ばせていただけませんか?」
「……あの……何言われているんだかよく……」
「いや、こっちも、何言ってるんだかよく判りません。けど、それをやってまずいことは、何もないでしょ?」
「それは確かにそうなんですが……」
 なんだか、不得要領な感じの佐川先生。でも、夢路は、この声を聞いた処で、電話を切る。
 そして、そのあと……夢路の携帯電話には、この件に関して、村雨さんの電話番号とかわさんの電話番号がある。いちかわさんの電話番号は、登録していない。
 村雨さんには。
 電話なんかしたって……何言っていいのか判らない気がする。
 と、言うか。
 今、電話したくない気持ちがする。
 なので、電話は、しない。
 氷川さんには……。
 よく、判らない。

#36-4へつづく
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最新号 2020年1月号

12月10日 配信

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