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連載

櫛木理宇「虜囚の犬」 vol.43

殴る蹴る、犬の糞を口に入れる……。壮絶ないじめが生んだものとは? 胸を抉るラストが待ち受ける、衝撃のミステリ。櫛木理宇「虜囚の犬」#8-7

櫛木理宇「虜囚の犬」

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      6

 白石はいつもの時刻に目覚めた。
 起きてすぐ、パソコンからメールを打つ。和井田宛てのメールであった。
「──以上がぼくの仮説だ。警察から、元庭師のはやし善吉さんに当たってみてくれるとありがたい。善吉さんはもうぼくには会いたがらないだろうし、第一ぼくでは睨みがきかない。強引にでも思いださせ、口を割らせる必要があると思う」
 送信し終えて、ほっと息を吐いた。
 なぜか頭がすっきりしていた。そういえば昨夜は夢を見なかったな、と気づく。このところずっと見ていた、こんの夢を。
 白石は自室を出て、キッチンへ向かった。
 果子は今朝も、きれいに朝食をたいらげていったようだ。梅雨明け宣言が出されて以来、全国各地で猛暑日がつづいている。夏バテの胃にもやさしいようにと、今朝はおかゆを炊いた。付け合わせはとりそぼろ、叩いてかつおぶしえた梅、きゅうりのピリ辛つくだ。そして豆腐とみようの冷や汁である。
 白石は皿を洗い、洗濯機をまわした。心が妙にいでいた。
 ベランダで洗濯物を干していると、かん高い音が鳴った。固定電話のベルだ。
「はい、白石です」
「おれだ」
 和井田だった。あいかわらず愛想のかけらもない、不機嫌そうな声である。
「おまえをあまりめたかぁないが──」
 うなるように和井田は言い、「あのメールは、なかなかいい線いってたぞ、民間人」と付けくわえた。
「ありがとう」白石は素直に受けてから、
「ところで、なにかあったのか」と尋ねた。
「なぜ訊く」
「和井田の声音で、なんとなくだ」
「つくづくいやな野郎だな、おまえは」
 和井田が舌打ちする。白石はかした。
「いいから教えてくれ。誰にも洩らしたりしない、約束する」
「おまえが誰になにを洩らすと言うんだ。友達はおれしかいないだろうが」
「そんな軽口は、いまは──」
 いいから、と白石は言いかけた。しかしその前に和井田が言葉を継いだ。
「じつは薩摩志津の隠れ家に残っていたしようもんが、関係者の一人と一致した」
「ショウモン……? ああ、てのひらか。関係者ということは、一連の事件の関係者だよな?」
「ああ。捜本ソウホンは、掌紋の持ちぬしが彼女を拉致したと見ている」
 和井田は声音をあらためて、
「持ちぬしは薩摩家が契約していた、民間警備会社の警備員だ。伊知郎の死後、志津は警備会社との契約を『女性一人暮らし用プラン』という、見まわり回数の多い契約プランに替えていた。この変更は家政婦の幸恵が辞めてからだったようだな。そのせいで、発覚が遅れた」

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#8-8へつづく
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「カドブンノベル」2020年3月号

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