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連載

櫛木理宇「虜囚の犬」 vol.45

【連載小説】凶悪犯を殺したのは「女の子みたいな美少年」? 胸を胸を抉るラストが待ち受ける、衝撃のミステリ。 櫛木理宇「虜囚の犬」#8-9

櫛木理宇「虜囚の犬」

※本記事は連載小説です。

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 予言どおり、和井田は九時十分前にあらわれた。
 ネクタイは曲がり、髪もぼさぼさだが前回よりはましな姿だ。さほど汗臭くもない。開口一番、「果子ちゃんは?」と尋ねてくる。
「まだだ」
「ふん。まあいい、女の子に聞かせるような話じゃねえからな。飯は?」
「四合炊いた。おまえのことだから、どうせじやたメニューなんか望んでないだろう。スパイスたっぷりのキーマカレーとマーボウを作っておいた。好きなだけ白飯にかけて食ってくれ」
「そのメニューは充分に小洒落てるぞ。カフェ飯かよ」
 と和井田は突っ込みを入れてから、
「だがまあ、野菜が食えるのはありがたい。が立つと決まりきった飯ばかりになるからな。立ち食いも牛丼も、さすがに食い飽きたぜ」
 和井田はキーマカレーで白飯を二杯、麻婆茄子で一杯かきこんだ。冷や汁の残りまで、流しこむようにしてたいらげた。
 食後のほうじ茶をすすりながら、
「腹立たしいが、おまえの見立ては合ってたぞ」和井田は言った。
「伊知郎の最期の言葉は、正確には『ガキにやられた、あの糞ガキ……』だった。──おい、なんだそのツラは。もっと驚け」
「いや、予想していたからな」
 白石は応えた。「そうだろうと、自信があった」
 頭の片隅に、ずっとなにかが引っかかっていた。それが早瀬医師の言葉だと気づいてからは、いつせいにメールで送った仮説へいたった。
 くだんの早瀬医師の言葉とは、こうだ。
 ──伊知郎さんは真っ赤になって怒鳴るんですよ。白石さんもご存じでしょう。ほら、例の『馬鹿ガキがっ、糞ガキっ!』です。
「ぼくの記憶では、伊知郎さんが子供を『糞ガキ』と呼んだことは一度もなかった」
 白石は言った。
「彼が治郎くんや、善吉さんの孫や、その他大勢の子供を罵倒するときは、いつだって『馬鹿ガキがっ!』だった。だが薩摩家に往診していた時期があったという早瀬医師は、きっとその時期に、『糞ガキ』の罵倒を耳にしたんだろう。──伊知郎さんは、傲岸不遜だった。でも愚かじゃなかった。わざわざ死の間際に言いのこしたなら、そこにはなにか意味があったはずなんだ」
「善吉本人は、そう指摘してもぴんと来ちゃいないようだったがな」

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#8-10へつづく
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「カドブンノベル」2020年3月号

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