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連載

櫛木理宇「虜囚の犬」 vol.42

殴る蹴る、犬の糞を口に入れる……。壮絶ないじめが生んだものとは? 胸を抉るラストが待ち受ける、衝撃のミステリ。櫛木理宇「虜囚の犬」#8-6

櫛木理宇「虜囚の犬」

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 そうしていま、海斗は学校の非常階段にいる。
 スマートフォンをタップし、画像フォルダをひらく。画像はどれも、全裸の父と後妻だ。裸のまま、母の遺影に向かって土下座する画像。四つんばいで畳の上をいまわる画像。鼻血を流しながら、仏壇を掃除している父の画像。股間で無様に縮こまった性器まではっきり写っている。
 海斗は音声データを再生させた。
「おまえらは犬だ」
 未尋の声が流れた。
「わたしは犬です、と言え。ほら言えよ、そんなんじゃ聞こえねえって。もっとだ。もっとでかい声で言え」
 相棒の語尾には、愉悦が滲んでいた。海斗も笑った。楽しくてしかたがなかった。
 画像と動画を堪能し、海斗は教室へ戻った。
 まだチャイムは鳴っていなかった。エアコンの効いた教室に、さざ波に似たクラスメイトたちの会話が低く満ちている。ときおり大きな笑い声が上がる。
 鷺谷の姿はなかった。そういえば今日は朝から見かけていない。欠席だろうか。
 ──まあ、べつにどうでもいいけど。
 口の中でつぶやいた。バッグをあさられたのは不愉快だったが、スマートフォンのロックをはずされた形跡はなかった。観られたのはせいぜい教科書とノート、コンビニで買った週刊誌やスポーツドリンクくらいだ。プライヴァシーを侵されたわけではない。
くにひろくん、どこ行ってたの?」
 清水が声をかけてきた。消しゴムを拾ってやった、例の女子生徒だ。
「ん、ちょっとな」
「そういえば國広くんって、昼休みになるとどっか行っちゃうよねえ。あやしいな」
「あやしい?」
「うん、あやしいあやしい」
 清水が意味ありげな視線を向けてくる。海斗はにっこりした。
「じつは、エッチな画像観てたんだ」
 一拍置いて、清水が「やだあ、もう」と笑い出す。海斗も声を揃えて笑った。澄んだ笑い声だった。
 始業を知らせるチャイムが鳴った。

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#8-7へつづく
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