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連載

櫛木理宇「虜囚の犬」 vol.36

心理学のプロは、証言者の「嘘」を見破れるか? 怒濤のどんでん返しが待ち受ける、衝撃のミステリー! 櫛木理宇「虜囚の犬」#7-7

櫛木理宇「虜囚の犬」

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「おっせえよ、海斗」
 めずらしく未尋は、先に待ち合わせ場所に着いていた。
 苛々と肩を揺すり、顎をしゃくって歩きだす。
 最近の未尋はいつもこうだ。ちょっとしたことで気分を乱高下させる。情緒不安定と言ってもいい。あくまで勘だが、例のコテハン野郎のせいだけではなさそうだ。
「今日はどうする?」
 海斗の問いに、未尋は眉根を寄せた。
「おれんはいやだな。あのガキ、最近とくに調子こいてんだ。むかつくから、ツラ見たくねえよ」
 あのガキとはつきのことだろう。未尋は歳の離れた弟をひどく嫌っている。
 海斗が見る限りではおとなしい子だが、未尋いわく「あいつ、客がいるときは、態度を使い分けるんだよ」だそうである。
 未尋は「よし」と手を叩いて振りかえった。
「やっぱ海斗ん家だな。あのババアがどんなツラして出迎えるのか、見ときてえし」
 スイッチを切り替えたかのような、満面の笑みだった。内心で海斗は安堵した。
「もしかしてあの画像送ってきてから、チヨクで会うのはじめて?」
「ビンゴ。あのババア、いっちょまえに渋りやがってよ。えーと、おれが餌きまくったのが先々週で、向こうが針に食いついたのが先週。そこから一週間ぐだぐだして、やっと送ってきたのが一昨日おとといだ。しれっと出迎えるか、それとも動揺するか、リアクションを観察してやろうぜ」
 はたして後妻が見せた反応は〝動揺〟のほうだった。
 どぎまぎと未尋を眺め、うわずった声で「いらっしゃい」と言う。髪を手で直そうとしたがあきらめ、スリッパを鳴らして駆け去っていく。
 十分後、海斗の部屋にコーヒーと菓子を運んできた彼女は、こってりと厚化粧していた。未尋はそんな後妻に、
「髪型変えたんですね。素敵だな」
「なんでかな。ぼく、ミキさんのことならすぐ気づいちゃうんですよ」
 と、歯の浮くような台詞せりふを並べたてた。
 盆を置き、後妻が部屋を出ていく。
 ドアが閉まった十秒後、海斗と未尋は顔を見合わせて爆笑した。
「見たか、あのツラ」
「見た見た」
「すげえ化粧してたな。顎と首の色がぜんっぜんちげぇの。眉毛もありえねえ角度してたし、昭和かよ」
「あいつがおれの部屋にコーヒーなんか持ってきたのはじめてだぜ。あーやべえ、笑いすぎて腹いてえ」
「今夜も粉かけとくよ。もっとどぎつい画像送らせてやる」
「やばいやばい。おれ笑い死ぬかも。ルノワールおばさん、マジやべえ」
「ルノワールおばさんって」
 未尋はベッドにひっくりかえって笑った。声が階下まで届くか、と海斗は一瞬あやぶんだ。だが、いいやと思った。未尋と二人なら、あんなババアにキレられたって怖くない。
 未尋はひとしきり笑ったのち、ふっと声を落とした。
「……なあ、海斗」
「え?」
「もしおれが睦月を殺したいって言ったら、おまえ、協力してくれるか?」
 唐突な言葉だった。しかし海斗は意外とは思わなかった。
 未尋が口もとだけでほほむ。
「もちろんじゃない。おれも、おまえん家のババア殺すの手伝ってやるよ。だからさ、いいだろ? 海斗」
「ああ」
 海斗は心からうなずいた。
「──もちろんだ。協力するよ、未尋」

#8-1へつづく
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「カドブンノベル」2020年2月号

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